生産者、菓子職人、お客さま お菓子を通して笑顔の循環を 米粉sweets kinun. 代表 横田 絹佳さん(29才) |
神戸・花隈の住宅街の中に佇むこじんまりとした工房。木のカウンターやドライフラワーが引き立てるナチュラルな雰囲気が印象的なお菓子屋さんが、SNSを中心に「芸術的!」「お花畑のよう」とも称されるかわいい品々で人気のKinun.だ。
代表の横田絹佳さんは、愛知県・渥美半島の先端に位置する田原市出身。高校時代、将来の進路を考えるにあたって、「どうせ働くなら好きなことを仕事に」との思いから地元のケーキ屋さんに就職した。就職後、お菓子作りや接客などをひと通り学ぶうちに、「いつかは自分でカフェをオープンしたい」という目標を持つように。そこで、兄が神戸で暮らしていたこともあり、カフェの勉強をするために自身も神戸へ引っ越した。
神戸のお店で社員として働いて経験を積みながら、休日に行われるイベントなどに自作のお菓子を携えて出店する日々を重ねた横田さん。その活動が広がっていくにつれ、自身の工房を構えたいという思いが次第に募り、2017年9月に現在の場所で「atelier kinun.」をオープンした。開店以来、Kinun.は近隣の子育て世代の女性を中心に、着実な支持を広げていっている。また、かわいい品々が評判を呼び、「インスタを見ました」と言って遠方から足を運んでくれるお客さんも多いという。
横田さんは自身の名前でお菓子を世に送り出すにあたって、「私らしさってなんだろう?」ということをじっくりと考えたそう。そしてたどり着いたのが、「米粉sweets」であり、「生産者の思いを届ける」というKinun.のコンセプトだった。
「今はもうやめていますが、私の実家は農家だったんです。作物が収穫できたときの喜びや、そこに至る苦労を目の当たりにして育ちました。そういった、生産者の思いを知ったうえでお菓子を作れるのが、私らしさだと考えています。代表的な農作物である米をお菓子作りのベースにすることや、農家さんと直接お話しして仕入れた食材を使うことは、『私ならではの仕事』だと思うので、とても大切にしている部分なんです。」
農家出身でお菓子屋さんという経歴の横田さんにとって、「お菓子は笑顔を循環させるためのアイテム」でもあるという。
「菓子職人である私にとって、“顔の見える関係”にいる生産者さんから仕入れた食材を使うことは、それだけで心が弾みますし、笑顔になれることでもあります。出来上がったお菓子をお客さんに届ける際も、どんな生産者さんが、どんな思いで作った食材を用いたお菓子なのかを伝えたくなる。それを受け取ったお客さんも、生産者さんや生産地に自然と思いを巡らせ、やっぱり笑顔になる。そして、お客さんがお菓子と、そのお菓子に使われている食材を笑顔で楽しんでくれることは、生産者さんを笑顔にする。この笑顔の循環を、お菓子作りという仕事を通して回し続けることが私の役割であり、喜びなんです。」
Kinun.の代表的な商品である、エディブルフラワー(食べられる花)を使ったアイシングクッキーや、神戸市の知られざる特産品であるいちじくを使ったお菓子、玄米ならではの香ばしさを楽しめるタルトなど、Kinun.の人気商品には「美味しい」「かわいい」に加えて、それぞれの商品ならではの「ストーリー」がある。それが、多くの人の心をつかんでいるカギなのだ。
「将来は地元に帰ってカフェをオープンすることが夢」と語る横田さん。そのために今は、店舗での営業に加えてイベント出店などを積極的に行い、Kinun.ブランドの確立に努めている。同時に、地元・田原市をPRすべく、お店やお菓子を通した情報発信にも取り組んでいる。その思い、その行動こそがすでに「ストーリー」であり、ファンを引きつけてやまない魅力になっていると言えそうだ。
2019.8.15更新 取材・文/ウィルベリーズ
【取材したお店】
米粉sweets kinun.
電話/090-9981-0917
住所/神戸市中央区中山手通7-20-12 泰平ビル1F東
営業/12:00~18:00
定休日/日曜、月曜、火曜
交通/阪急神戸線「花隈駅」徒歩7分