リョウリヤ ステファン パンテル 京の食材とフレンチ |
地下鉄丸太町駅を降りたら東へ。春は柳馬場通のしだれ桜。秋は京都御所の紅葉を愛でながらのアプローチが、物語の始まりを予感させる。ひっそりと佇む京町家の暖簾をくぐると、庭の緑が広がる。静かな空間の中で、心が躍り出す瞬間だ。
「私たちもこの庭と空間が気に入って、この場所を選んだのです」と、シェフのパンテル氏とマダムの敏子さん。築100年を超える京町家を改装し、この地に店を構えて約5年。伝統と新しい息吹が共存する建物は、フランス料理と和の食材が美しく調和した料理を、温かく包み込む。
パンテル氏は南仏・プロヴァンス地方の出身。同じく料理人である父親の背中を見て育ち、早くからこの世界に入る。来日は2001年。奥様の故郷である日本で「いつか働いてみたい」と考えていた折、祇園のフランス料理店から声がかかった。「最初は京都のこともよく知りませんでした。2〜3年働いてフランスに帰るつもりでしたが、知れば知るほど、日本の食材に惹き込まれていきました」と当時を振り返る。
人参一つにしても、フランスのものとはまったく異なる京都の野菜。毎日畑に足を運び、農家の方たちと触れ合う中で多くの知識を吸収した。加えて、出汁や味噌など日本古来の調理技術や調味料にも興味を持ち、シェフを任された前店「ケザコ」時代には、次々と新しい料理の世界観を生み出した。
「日本の食材をまったく知らなかったからこそ、先入観を持つことなく、追求できたのだと思います。」例えば白味噌にコーヒーの香りをまとわせ、肉料理にあしらう。そのインスピレーションは深遠かつ斬新で、二つの文化を敬愛するパンテル氏だからこそ成し得る“調和”が一皿で躍る。2013年に自らの名を冠したこの店をオープンしてからは、料理に加えて器やしつらえを含めた、独自の世界観でゲストをもてなす。
夜のコースは全7品。フォアグラを使ったスペシャリテ以外は、すべて月替わり。冬場は堀川牛蒡や頭芋(かしらいも)など、京都ならではの根菜が幅広く登場する。一方で、「必ずどの皿にも京野菜を使うというルールはありません」との言葉から、食材の知名度に甘えない、パンテル氏の職人気質が感じられる。そのストイックさこそが、京都の地で伝統を次世代に紡ごうと奮闘する、熱き生産者たちと結ばれた所以だろう。
料理人として28年間、「自分らしいオリジナルな料理」を体現してきたパンテル氏。だからこそスタッフたちには「自分で考える」「自分で創る」ことを大切にしてほしいと伝えている。3年前から氏の下で働くスタッフの小林さんは言う。「なぜそうしたのか?と、常に自分の考えを求められます。」同時に、料理のことやワインのことなど、どんどん意見を自由に言える雰囲気に、大きなやりがいを感じているそう。特に、ソムリエ資格を持ち、これまではイタリアンの世界で長く経験を積んできた小林さんは、「フランス人シェフの下でフランスワインについて学べる環境は貴重。とても深いところまで追求できます」と、興味が尽きない様子だ。
もう一人、「ケザコ」時代から8年間、パンテル氏と共に働く福間さんは言う。「専門学校を卒業後、すぐに入店したのですが、シェフが基礎から丁寧に料理を教えて下さいました。理不尽に怒られたことは一度もありません。シェフもマダムもとても温かくて、長く働き続けられるお店です。」オープンキッチンの店内では、料理人もお客様と接する機会が多く、「美味しい!」という反応を直接聞くことができるのが何よりの喜びだそう。
現在同店では人材の募集を行っており、「未経験者も経験者も、私は柔軟性がある人間なので大丈夫!」とパンテル氏。こんなチャンスはまたとない。我こそはという方は是非、自らの手で新しい未来への扉を開いてほしい。
2019.1.10更新 取材・文/太田 裕子
【オススメメニュー(税別・サービス料込)】 |
ランチコース5,000円、ディナーコース 10,000円 |
【SHOP DATA】
リョウリヤ ステファン パンテル(RYORIYA STEPHAN PANTEL)
電話/075-204-4311
住所/京都府京都市中京区柳馬場通丸太町下ル四丁目182
営業/12:00~12:30(L.O.)、18:00~19:30(L.O.)
定休日/火曜日、水曜日
交通/京都市営地下鉄烏丸線「丸太町駅」徒歩5分