トラットリアという舞台で 料理やお客さんと 真摯に向き合う トラットリア ステラ オーナーシェフ 中野 儀彦さん(32才) |
イタリア語で「大衆食堂」の意味を持つ「トラットリア」。イタリア料理の中でも、気軽さが特色のこの分野に魅了され、自身の店で実現しているのが、トラットリア ステラのオーナーシェフ・中野 儀彦さんだ。
調理師専門学校を卒業して最初に勤めたのがイタリア料理店。以来、一貫してイタリア料理に携わってきた。そんな中野さんにとってイタリア料理とは、「シンプルに食材の良さを引き出す料理。簡単なように思えて、奥が深くておもしろい」ジャンルだ。中でもトラットリアは、大衆的な価格を維持するという制約がある分、「その中でどうやってお客さんに喜んでもらうか」という、料理人の腕が問われる分野だという。
「お金をかければいいものができるのは、ある意味で当たり前です。そうではなく、知恵と工夫で『トラットリアだけど、こんなに美味しい!』と言ってもらえることが大きなやりがいになっています。」
そう語る中野さんのおすすめは、パスタジェノベーゼ。国産豚の腕肉や淡路産の玉ねぎをじっくりと煮込むことで、甘味と旨みを凝縮させたソースが最高の一品だ。「煮込み料理には作った人の人柄が現れる」とも言うから、中野さんを、そしてトラットリア ステラを理解するにはぴったりの一皿と言えるだろう。また、予約限定で味わえるTボーンステーキも大好評。厚さ3cmのボリュームながらも、しつこさのない赤身肉は、女性だけでなく年配のお客さんもぺろりと平らげてしまう。
「料理はすべて、一皿ずつ注文いただけるアラカルトにしています。来店時間の限られているお客さまにも楽しんでもらいやすいですし、友だちと料理をシェアするという楽しみ方もできるからです。こういった柔軟なことができるのも、トラットリアならではの魅力だと思います。『神戸でトラットリアといえばステラ』と言ってもらえるようになりたいですね。」
高校時代に料理人を志し、「いつかは自分の店を」と思いながら経験を積んできた中野さん。しかし、飲食業から離れ、まったく違う分野で働いた時期があった。この時期、飲食業時代に比べて給料も休暇も増え、労働時間は少なくなったという。「憧れていた環境」に思えたが、時間が経つにつれ、物足りなさを感じるようになった。仕事は単にお金を得るための手段でしかなく、せっかくの休日も、何をしたらいいかわからず時間を持て余したのだ。そんな日々の結果、「やっぱり自分は飲食業が好きなんだ」と気付かされたという。
迷いが吹っ切れた中野さんは、再び飲食業界へ。このとき中野さんは、飲食業の中でも個人店の魅力を強く意識するようになっていた。
「料理に工夫を凝らしたり、可能な限り良い食材を仕入れたりすることは、料理人にとっては大きな喜びです。でも、それをやりすぎると経営上はよろしくない。このバランスが、個人店ならば保ちやすいのです。」
贅沢な暮らしを求めるのではなく、家族を養い、たまの余暇に趣味などを楽しむような日々を望むのであれば、個人店で十分に実現できると中野さんは考えている。料理人の中には、自分の店を多店舗化して企業化する人もいる。お金や休みを優先して他業種に転職するという人もいる。「価値観は人それぞれなので」と前置きした上で、中野さんは「僕には、1つの店でじっくり料理やお客さまと向き合う、個人店という今のスタイルがぴったりです」と語る。
「あきらめなければ、きっと夢はかないます。好きなことを仕事にできるって、実はすごく幸せなことです。飲食業を離れた経験を持つ僕が言うんですから、間違いないはず。みなさんもぜひ、夢に向かってチャレンジを続けてください。」
2019.5.16更新 取材・文/ウィルベリーズ
【取材したお店】
トラットリア ステラ
電話/078-371-3233
住所/神戸市中央区下山手通8-7-23
営業/11:30~15:00(L.O.14:00)、18:00~22:00(L.O.21:00)
定休日/水曜
交通/阪急神戸高速線「花隈駅」徒歩3分、阪神神戸高速線「西元町駅」徒歩3分