「今よりもいいもの」を どこまでも追求し続ける チキンマーケット シーサイド オーナーシェフ 久保 将志さん(37才) |
取材に訪れたのは昼の12時。焼き鳥店・チキンマーケット シーサイドの久保将志さんは、「今日は比較的ゆっくりできる日なので、仕込みは取材が終わってからです」と言って笑顔で迎えてくれた。開店は18時からだから、仕込みにかける時間は、この日は5時間ほど。普段はもっと長いというから、料理に対する手のかけようは半端ではない。「カウンターに座って、僕の仕事ぶりを興味津々で眺められるお客さんも多いですよ」というのも納得だ。
久保さんが飲食業界で働き始めたのは15才のとき。アルバイトをした焼き鳥店で、“働く大人の姿”に感銘を受け、自分自身もどっぷりとハマった。高校卒業後にはその店に就職し、27才まで働き続けた。
「12年も同じ店で働いたのだから、飲食や焼き鳥店の仕事が自分に合っていたことは間違いないと思います。ただ、『自分の仕事にとことん集中する』というタイプだったので、店作りなどにはまったく興味がなかった。自分が作った料理に対するお客さんの反応すら、気にしていないようなところがありました。」
そんな久保さんに、あるビジネス書が変化をもたらした。そこに書かれていた、「すべてのお客さまは、記念日で訪れていると思いなさい」という言葉が心に刺さったのだ。このとき久保さんには、以前訪れた店で、近くの席に座った親子が店員からぞんざいな扱いを受けていた記憶が甦った。「あの子はもしかしたら、誕生日だったのでは?」「せっかくの特別な1日が、悲しい思い出の日になってしまったのでは?」と思いを馳せるうちに、「あの子と同じ悲しい思いをさせてはいけない」と考えるように。以来、ホールに目を配ろうと心がけ始めた。もちろん、「人と話すことは実は得意ではない」と言うだけあって、いきなりお客さまと活発なコミュニケーションができるようになったわけではない。それよりは、目配り・心配りで、お客さまの不安や疑問、要望を素早く察知し、ストレスを取り除くことに注力している。
そして、もう1つの久保さん流のおもてなしが、冒頭で紹介した手間を惜しまない料理だ。「せっかくお店に来たのだから、家では食べられないようなものを」というのが久保さんの考え。そこで、例えばレバーなら、美味しく味わってもらうために「匂いをどこまで消せるか」にこだわる。冷水で丁寧に洗うことはもちろん、細かな血の塊も1つひとつ手作業で除去。通常なら10分ほどでできる仕込みに、40〜50分かけるほどだ。同じような工夫を、あらゆる食材、あらゆるメニューに対して行う。その結果、5〜6時間におよぶ仕込みになったのだ。
「焼き鳥はシンプルな料理です。料理人が手を加えられる範囲は限られている。でも、だからこそ料理人の創意工夫が試されるように思います。素材の魅力を引き出せるかどうかは、料理人の腕次第でもあるのです。『本当にこの方法でいいのか?』『もっとやれることはないのか?』をいつも考えています。そこがこの仕事のおもしろさです」。そう語る久保さんの今の目標は、「世界的なガイド本に掲載されること」。より多くの人に店を知ってもらって来店してもらうことで経営を安定させ、その結果として、いい食材を安定的に仕入れられるという好循環を作っていきたいと考えている。
「大変さや苦しさと、楽しさは紙一重だと思います。手の込んだ仕事は確かに大変ですが、それでお客さまが喜んでくれることを思うと、私にとってはむしろ楽しい時間です。この価値観を共有できる人と、焼き鳥の可能性にチャレンジしていきたいです。」
2019.1.31更新 取材・文/ウィルベリーズ
【取材したお店】
チキンマーケット シーサイド
電話/078-335-6563
住所/神戸市中央区北長狭通2-4-7
営業/18:00〜翌1:00(L.O.翌0:00)
定休日/日曜日
交通/JR神戸線「三ノ宮駅」徒歩5分