「楽しい食事の時間」のために 知恵と技術のすべてを投入 ル・ブージー オーナーシェフ 小林 元気さん(30才) |
「お客さまがゆっくりと過ごせるお店」は、多くの飲食店にとって目標とする姿だ。しかし、「営業時間中にお客さまが1回転してくれればOK」とまで言い切れるほどの“ゆっくりぶり”を実現しているのは、このお店以外にそう多くはないだろう。
そのお店とは、オーナーシェフの小林元気さんが切り盛りするル・ブージー。北野ホテルで修行を積み、その後、肉料理の人気店「ギャロ」でも腕を振るった小林さんが、2016年にオープンしたお店だ。“ゆっくりぶり”の背景には、小林さんがこれまでの経験のすべてをつぎ込み、考え抜いた末にたどり着いたお店の運営がある。
「例えば食器類は、1日に使う分量をすべてそろえています。つまり、営業中に食器洗いをする必要がないのです。その分、料理や接客に注力できるのです。使い終わった食器はというと、店の演出になるような場所へ積み上げます。アニメ映画にありそうな、『無造作だけどかっこいい』という状態です。コスト削減をしているけど、それを感じさせず、むしろ演出効果を高める。そういった工夫を細部まで徹底しています。その結果、1回転でも十分に採算ベースに乗せることができました。」
ル・ブージーには、小林さん以外にはアルバイトのスタッフが1人いるだけ。もちろん忙しい時間帯もあるが、そのときは、「オーダーへの対応が最優先。お会計は待ってもらっても良しとする」という約束事に基づいて行動する。お客さまの「待てること、待てないこと」に合わせて優先順位をつけることで、お客さまの満足度を損ねることなく、少ない人数でのオペレーションを可能にしているのだ。
考えつくされたお店づくりをしている小林さんだが、もちろん、最初から思い通りにいったわけではない。むしろ、「失敗の方が多かったかも」と振り返る。そんななか、小林さんを支えたのは「試行錯誤を楽しむ」というポジティブな姿勢だ。しかし、以前の小林さんは、まったく逆のネガティブ思考だったという。
「料理人になった頃は、何でも人のせいにしていました。『自分は頑張っている。一生懸命やっている。だけど周りが……』という具合です。でもそれでは、誰も僕の周りに集まってくれないことに気が付きました。そこで、まずは自分から人のために行動しようと考えるようになったんです。」
このときから小林さんは、掃除のおばさんや出入りの業者さんへ「いつもありがとう」「今日もご苦労さま」と声をかけるようにしていった。それを積み重ねているとやがて、小林さんを支えてくれる人が周囲に集まってくるようになった。
「だから僕のモットーは、人に尽くすことです。そのときは自分にはメリットはなくても、いつか、何かのかたちで返ってくるからです。」
相手のことを思いやり、相手のために行動することが“サービス”ならば、小林さんはまさにサービスを体現している人なのかもしれない。
そんな小林さんの次なる目標は、パン屋さんを開業すること。2019年3月のオープンに向け、すでに準備は佳境を迎えている。「自分らしいブランチをやりたくて、そのためには、自分らしいパンがどうしても必要」という思いが、新たなチャレンジを後押ししている。カンパーニュを使ったサンドウィッチなど、「料理人がつくるパン」を楽しんでもらいたいと考えている。
「料理人もホールスタッフも、これからは、“自分の価値”を考えないといけない時代だと思います。『私を雇うと、お店にはこんなメリットがあります!』と自信をもって語ってくれる人と一緒に店づくりをしていきたいです。」
2019.1.17更新 取材・文/ウィルベリーズ
【取材したお店】
LE BOOZY(ル・ブージー)
電話/078-778-9686
住所/神戸市中央区加納町2-3-13 コンフォールびふう1F
営業/10:00〜15:00(L.O.14:00)、18:00〜23:30(L.O.22:30)
定休日/不定休
交通/JR神戸線「三ノ宮駅」から徒歩10分、地下鉄「新神戸駅」から徒歩5分