人とは違うことを! エッジを効かせて 新たな価値を生む 日本酒バル・米屋 イナズマ オーナー 神尾 辰雄さん(42才) |
入り組んだ路地に高感度なショップが軒を並べる神戸・元町エリア。その中で、「フレンチ×日本酒」「農家が経営する飲食店」というエッジが効いたお店として人気を集めているのが、「日本酒バル・米屋 イナズマ」だ。オーナーであり運営会社の株式会社ファイブスクエアで代表取締役を務める神尾辰雄さんは、「オープン当初は『そんな店が当たるはずがない』と随分批判された」と振り返る。しかし結果は、周囲の雑音を物ともしない繁盛ぶり。「人と違うことをするからこそ新しい価値が生まれる」という信条を裏付けるかのような人気店へと育った。
神尾さんは現在、「イナズマ」をはじめとして5つの飲食店を営む。さらに酒蔵と連携して酒造りも行っている。そして、これらの事業の土台となる米は自社生産。つまり農家でもあるのだ。
異なる分野の事業を効果的に結びつけ、旺盛なチャレンジ精神で事業を成長させてきた神尾さんだが、飲食業との出会いは「なんとなく」だったという。「特に目標もなく大学に進学し、なんとなく始めたアルバイトが飲食店でした。卒業後も、その流れのままでフリーターをしていました。」
そんな神尾さんが一念発起したのが24才のとき。「何かひとつ、とことんやってみよう」と思い立ったのだ。その、「何かひとつ」に選ばれたのが飲食業。「たまたま、そのときアルバイトをしていたからだけですけどね」と言って神尾さんは笑うが、とにかくがむしゃらに働いた。いちアルバイトスタッフから中心メンバーへと抜擢され、店も繁盛していった。このとき神尾さんは、繁盛店づくりのノウハウを学ぶとともに、「頑張れば結果は出るんだ」という成功体験を得る。「あまり先のことは深く考えないです。そのかわり、やると決めたらきっちりと計画を立て、目の前のやるべきことに全力で取り組んでいきます」という、神尾さん流の仕事スタイルも確立していった。
その後、会社員として勤めながら自身の店をオープン。後に会社を辞めて自社の経営に専念する際、「新たな収益源を」との思いもあって実家の米作りを継承。飲食業と農業の2本柱の経営がスタートした。そうして迎えた6年目、異なるジャンルの事業がついに融合する。「イナズマ」のオープンだ。
「イナズマ」で提供されるお米はもちろん自社生産。さらに、日本酒の主力銘柄「土楽果(どらっかぁ)」には、自社生産の米が原料として用いられている。つまりイナズマは、農家が経営する飲食店であり、一次産業・二次産業・三次産業が一貫体制で運営されているお店なのだ。
「農家の仕事って、本当に大変です。一方で、食を支える重要な産業であり、『これからは農業だ』という声もあります。でも、当の農家がその値打ちに気づいていなかったり、価値を生かすことができていなかったりするんです。だから私たちは、農家の側から自分たちの価値を発信する活動をすることにしました。それがイナズマをはじめとした、当社の店舗です。」
神尾さんが思い描くのは、生産者と飲食店による分業制での料理提供ではなく、“一人二役”での料理提供。「作物を作るまでが仕事」「仕入れた食材で料理するのが仕事」という既成概念を取り払い、両方を手がけることで新しいものが生まれるはずだと考えている。それは、「本業・副業」という主従の関係ではなく、「2本柱」という働き方や会社経営の姿でもある。
「それに、この働き方は心と体にストレスがたまらない。おかげでどちらの仕事も効率が上がります。週に4日、山口で米作りをしている僕が言うんだから間違いありません。」
「なんとなく」始まった飲食業界でのキャリア。闇雲に遠くを見つめることなく、目の前の物事に全力で取り組んできたその道は、20数年が経った今、食や働き方など社会全体を見つめる場所にまでたどり着いた。
2018.11.1更新 取材・文/太田 裕子
【取材したお店】
日本酒バル・米屋 イナズマ
電話/078-332-3262
住所/神戸市中央区北長狭通3-10-1 KSビル1F
営業/18:00~翌0:00(L.O.23:00)
定休日/年中無休
交通/各線「元町駅」徒歩3分、各線「三宮駅」徒歩8分
株式会社ファイブスクエア
電話/078-955-2174
住所/兵庫県神戸市中央区北長狭通4-3-5 ドムス北長狭3F