シチリアで学んだ 愛情とポジティブさを料理に La Famiglia(ラ ファミリア) オーナー 木村 明秀さん(40才) |
小さい頃からサッカーとパスタが大好き。調理師専門学校でさまざまな料理に触れるが、「作るのはイタリアンにしか興味がなかった」と、この道に進んだ木村さん。大阪のイタリアンレストラン勤務を経て、25才で神戸の人気カフェレストランのシェフに抜擢される。繁盛店を切り盛りした勢いに乗り、28才でイタリア・シチリア島に渡った。
「友人もいない、ツテもない。おまけに言葉も話せない。イメージとノリだけで決めたので、情報もまったく知りませんでした。出発の4日前に偶然テレビでシチリア島の特集をしていて、『ここに行くのか…』と(笑)。」しかし、行動する者にしか運をつかみ取ることはできない。まずは語学学校に入学し、そこでホームステイ先を割り振られた。最初は辞書片手に必死でコミュニケーションを取り、学校ではマンツーマンのレッスンを受けられるよう直訴。空き時間は積極的に街に出て、とにかく見知らぬ店にも飛び込み、人と話すことを心がけた。
ある日、ホームステイ先のお父さんの仕事場に連れて行ってもらうと、なんとそこは料理教室。「お父さんが料理人だなんてまったくの偶然。向こうも僕が料理人とは知らず、鍋を振ったらとても驚かれました。」当時、夕食の費用を捻出するにも困っていた木村さんだが、その日を境に「毎日おいで!」と言われ、ご馳走になることに。加えて魚屋での職も得た。4ヶ月後、一旦日本に帰国した折は魚屋の主人に「戻ってきて」と言われ、その後の住居もすべて用意してくれたのだとか。
「トータルで1年間シチリアにいたのですが、そこで得た経験は宝物。常にポジティブでいること、人に優しくすることを、お父さんや触れ合った多くの人たちから学びました。」今、同店の人気メニューのひとつである「茄子のカポナータ」はお父さん直伝の味。バルサミコとビネガーを使った酸味の効いたテイストは、シチリア島の伝統だ。また、勤務先の魚屋はお惣菜店も営んでおり、飾らないシチリアの料理はそこで学んだ。野菜を使ったシンプルな味わいが多く、現在の前菜のベースにもなっている。
帰国後は再びカフェレストランの料理長を経験するも、フリーランスの料理人としてフレンチや創作和食など、多種多彩な料理に触れる。転機となったのは、シルク・ド・ソレイユのローカルシェフとして4ヶ月間、多国籍の料理人たちとチームを組んだこと。「毎日、公演を支える裏方として料理を提供し続けました。クリエイティブな仕事場は本当に楽しくて、『もうレストランの雇われシェフには戻れないな』と感じたんです。」 そもそも自分が独立することまで考えてはいなかった。しかし、考えるより行動するのが木村さんの信条。三宮・元町界隈でさっそく物件を探し、出合ったのがこの場所だ。
広々としたテラスを構える店内は、シチリアのトラットリア(食堂)をイメージ。気軽な雰囲気のオープンキッチンから、気負いのない笑顔で迎えてくれる木村さん。店名の意味はイタリア語で「家族」。温かく、心底リラックスできる空間だ。「料理はパスタとシチリア料理からインスピレーションを得た“木村料理”。ごはんを楽しんでもらいたいので、ボリュームも満点です。」まずはシチリアの味がギュッと詰まった「いわしとパン粉のパスタ」を味わいたい。
料理も接客も、基本一人で担当。「自由にやりたい」という木村さんの生き方が表れている。飾らないオープンな人柄にファンも多いが「実はシチリアに行く前は本当に人見知りだったんです」と打ち明ける。独立してからは自由に旅へ出る時間は減ってしまったが、一方で「自分の好きなものを作って、お客様に美味しいと言っていただける。そしてお金がいただける。こんな幸せなことはありません」と満面の笑顔。今後はもっと人通りの多い場所に移転し、少し規模を縮小して「さらに自由に」料理をしていくことも計画中だ。
約1時間、木村さんと話していると心底元気が湧いてきた。運と人を引き寄せるには、「行動力」がなければ話にならない。「やるかやらないか」で人生は変わってくるのだから。
2018.8.23更新 取材・文/太田 裕子
【取材したお店】
La Famiglia(ラ ファミリア)
電話/078-381-6211
住所/神戸市中央区下山手通3-2-8 ドミール下山手101
営業/12:00~15:00(L.O.14:30)、18:00〜23:00(L.O.22:30)
定休日/水曜日
交通/各線「元町駅」徒歩5分・各線「三宮駅」徒歩7分