![]() | ホルモンを知り尽くした男の 半端ない技術と愛情 つるよし オーナー 島 忠輝さん(42才) |
2013年にオープンした、ホルモンしゃぶしゃぶの名店。オーナーの島さんはアルバイトスタッフとして入店した。半年後に店を引き継ぎ、当初は客単価1万円だった高級店を、親しみやすい雰囲気にチェンジ。前職で食肉の卸業に携わっていた経験をフルに生かし、上質なホルモンをふんだんに使ったメニューを考案。口コミで評判を呼び、今では予約で席が埋まる人気店へと成長を遂げた。
「私自身は調理も接客も経験がなかったのですが、逆にそれが良かったことでもあります」と島さんは振り返る。型にはまった接客トークではなく、一見のお客様もまるで旧知の常連客のように温かくもてなし、気軽に声をかける。以前はステーキがメインだった料理も、突き出しに枝豆を出すことから始め、オリジナルの「もつ鍋」を開発。「お客様は、よくあるもつ鍋とは何かが違う、と言って下さいます。他店のレシピと何が違うのか、飲食経験のない私にはわからないのですが、ひとつ言えるのは、ホルモンの扱い方には絶対的な自信を持っている、ということです。」
国産の新鮮なホルモンは、昨今手に入れるのがかなり難しくなっている。しかし前職のつながりを生かし、上質な肉を確実に入手できるのが島さんの強み。仕入れ後の仕込みと保管にも細やかな気配りが見て取れる。「ひとつの部位でも固いところとやわらかいところがあり、下ごしらえの際の包丁の入れ方も異なります。また、同じ部位でも固さによって適した調理法が変わってきます。例えばタンも根本の一番やわらかい部分はしゃぶしゃぶに、先端の固い部分はスモークにして召し上がって頂きます。」
ミノはコリコリした部分を唐揚げに、薄い部分は薄皮を取って湯引き。ツラミの固い部分は煮込みと、しゃぶしゃぶには向かない部分は一品料理として、その可能性を十分に引き出すのが島さんの仕事。その陰には「牛は生き物。五臓六腑まで全部食ったるからな!」という思いが息づいている。最初は「ホルモンが苦手」と牛鍋などをオーダーしていたお客様が、いつのまにかホルモン好きになっていたというのも、めずらしくない話だ。
まずは刺身で、次は串焼きでホルモンを堪能し、最後はしゃぶしゃぶか鍋で締めるのが定番。予算は一人5000円までとリーズナブル。あっさり味わえるメニューが多いため、「肉は好きだけど霜降りの焼肉はちょっとしか食べられない」という50代以上の方からの支持も厚い。「実はここは以前、老舗のぞうすい屋が長く営んでいた場所。そのレシピを引き継いだため、ぞうすいのバリエーションも10種類以上あります。ぞうすいと一品料理だけを目当てに、ふらりと立ち寄る方もいらっしゃいます。」
お客様からは「2店目を出さへんの?」と問われることも多い。しかし、「この店で地道にこつこつ、一人でも多くの方に美味しいホルモンを知ってもらうのが使命」と、島さんに欲はない。ホルモンの仕入れ値は上がり続け、今ではハラミとリブロース、タンとサーロインの価格はほとんど変わらない。それでも頑なに値上げはせず、ホルモンにこだわるのには理由がある。「2ヶ月に一回、給料を貯めて訪ねて来てくれる若者や、年に一度、彼女の誕生日のたびに遠方から来て下さるカップルがいます。そういったお客様の顔を思い出すと、新規出店よりもさらに密度の濃い店を作ることに力を尽くしたいと感じます。」この人情味こそが、また暖簾をくぐりたくなる最大の理由だ。
2018.8.9更新 取材・文/太田 裕子
【取材したお店】
つるよし
電話/078-332-2068
住所/神戸市中央区中山手通1-8-22 ニュー神和ビル1F
営業/17:30〜翌0:00(L.O.22:30)
定休日/月曜日
交通/各線「三宮駅」徒歩1分