惚れ込んだ牛たん料理 28才で会社員から転職 たん焼 BAN 三宮北野店 オーナー 坂 央樹さん(40才) |
大学卒業後、一般企業に就職。東京で順風満帆な会社員生活を送っていた坂さん。しかし28才の折、安定した生活を離れ飲食業の世界へ飛び込んだ。
「入社して5~6年目。仕事にも慣れてきて、次第にこのままでいいのかな?と感じるようになりました。」 知人に連れられて行った牛たん専門店にて、その味わいに衝撃を受けたのもちょうどその頃。半年ほど通い詰めるうちに「ここで働きたい」という気持ちが沸き上がってきた。会社からは海外勤務の話も持ち掛けられ、気持ちは揺れ動いたが「勝負するなら今」と決意して修行を申し出たという。
店主に名刺を渡すものの、当時は人手が足りており、坂さんの気持ちが本気がどうかもわからない。「しばらくは保留にされていたのですが、ある日、『人が一人辞める』と電話がありました。ちょうどその日は店に行こうと考えていたので、すぐさま駆けつけました。」
面接時にはすでに、将来、自ら牛たん専門店を出店する気持ちが固まっていた。当然ながら料理の経験はない。入店後はひたすら玉ねぎを切って包丁に慣れ、一つひとつの料理を覚えていった。修行先は「ゆでたん」(※後ほどご紹介)をいち早く世に出した、押しも押されぬ人気店。多忙が当たり前の日々だったが、「毎日覚えることばかりで新鮮でした。一つひとつ新しいことができるようになっていく。大変さよりも喜びの方が大きかった」と振り返る。6年間在籍し、最後は責任者として厨房を切り盛りするまでに成長した。育ててくれた店主とママさんは、今でも「東京のおとんとおかん」。どれだけ感謝しても足りないという。
独立に際し、当初は神戸に帰る気はまったくなかった。しかし、東京で勝負しようと決め、店舗を契約する直前に震災が発生。2011年春、「子供も小さいし、神戸に帰ろうか…」奥さんと話し合った。実は坂さんの実家は、新開地にある立ち呑み屋。当時は母親が切り盛りしていたが、年令のこともあり「しんどい」と言う。自分が帰って改装し、オープンすることを決めた。
界隈は飲み屋も多い下町。牛たん専門店として開店するも、最初の頃は客足も伸びなかった。それでも「安く売る店にはしたくない」と、修行先のスタイルを踏襲。何より一流店で修行を積んだという自信があった。半年を過ぎた頃から、徐々に噂が広まり始める。「新開地で本格的な牛たん料理を味わえる店がある」と、新聞や雑誌にも紹介され、遠方から訪れるお客様も増え始めた。
その中には、会社員時代の坂さんのように「この店で初めて牛たんを食べて感激した!」という人も多い。特に厚切りの牛たんを長時間ゆでた「ゆでたん」は、今ではほぼ全員がオーダーするという看板料理。その他、「たんシチュー」や「たんの生姜煮」「たん雑炊」など、メニューは牛たんのオンパレード。備長炭で焼く「たん焼」も外せない。「調理法により、味わいや食感がまったく変わるのが牛たんの魅力。お客様それぞれにお気に入りのメニューがあるようです。」
2014年には、ここ三宮北野店を出店。より多くの客層が集まる店となった。「出店のきっかけは“人”。うちで修行させてほしいという子が来て、一店舗では二人で切り盛りしていても給料を払うのが大変。ならば一号店を任せて、もっと人通りの多い三宮で勝負しようと考えたんです。」 そのスタッフはすでに独立し、現在、一号店は別のスタッフが運営しているという。メニューは両店ほぼ同じだが、三宮では宴会利用も多く、売上は一号店をしのぐほど。「多くのお客様との出会いがあり、出店して本当に良かったと思います」と、充実した日々を送る。
将来的には大阪、そして海外への出店も視野に入れているが、今は2店舗をしっかり切り盛りし、人を育てる時期だという。人材が揃えば、イベントなどへの出店も精力的に行っていく構え。すでに法人化しており、代表取締役としての顔も持つ坂さん。「あの時、会社員としてそのまま働いていたら、今ごろ海外で働いていたのかな?」と思い出すこともあるが、その夢は自分で敷いた新たなレールの上で叶えられそうだ。
2018.7.26更新 取材・文/太田 裕子
【取材したお店】
たん焼 BAN 三宮北野店
電話/078-271-0029
住所/神戸市中央区加納町3-14-7
営業/18:00〜23:00(L.O.22:30)、※土日祝は17:00~
定休日/不定休
交通/各線「三宮駅」徒歩5分
株式会社 BANS
電話/078-381-9129
住所/神戸市兵庫区新開地4-5-14