厳選大和牛の旨さを 日本料理17年の技で味わう 大和焼肉 やまとく オーナー 浜野 高志さん(41才) |
もしあなたが料理人なら、カウンターに腰かけた瞬間、浜野さんの姿から「職人」を感じるだろう。軽やかで美しい包丁捌き、素材を扱う手際の鮮やかさ…柔らかな物腰の奥には、一流の修行の跡が見て取れる。「なぜ焼肉店を?」との質問にも、丁寧に答えてくれた。
「実家が料理屋という環境に育ち、自然とこの世界に進みました。17年間日本料理の経験を積み、実家に戻り父親と共に店を切り盛りしたのですが、ほとんどは父の古くからのお客様。次第に人の多い場所に出て新しいことをやってみたい、と思うようになりました。」当初は和食店での独立を考えたが、準備中に偶然出会ったのが奈良で大和牛を扱う流通会社の社長さん。“高くて手に入らない”イメージだった希少な大和牛を、安定的に入荷できることになると、事態は急展開を迎える。
「それなら焼肉店に挑戦してみよう、と。ちょうど親類の縁もあり、板前焼肉の有名店で修行することを決めたんです。」 料理の腕は言わずもがな。加えて、カウンターでの接客に長けていた浜野さん。みるみるうちに頭角を現し、入店間もない時期から新店の店長を任される。
2年後の2009年、33才で独立。「どうせやるんやったら焼肉の聖地がいい。白黒はっきりできるじゃないですか」と、出店は迷わず鶴橋を選ぶ。自らが惚れ込んだ大和牛、それも生後30ヶ月以上の長期肥育、A5ランクの雌牛のみを一頭買い。「肉=霜降り」という時代にあえて赤身の旨さを全面に出し、看板料理は希少部位も盛り込んだ「モモ6種盛り」。しかし当時は「なんでこの肉?」といぶかしがられることもあった。
それでも開店すぐにテレビに取り上げられたことで、修行時代のお客様が「独立したんや!」と再び足を運んでくれるように。赤身ブームの到来も相まって、女性客や年配客も含めたリピーターがまたたく間に増えた。焼肉以外の一品料理、たとえば包丁技が冴えわたる「ミノの薄造り」や、和の出汁が効いた「冷麺」なども、常連客の心を掴んで離さない。
連日満席の同店を見れば、誰もが「成功」だと思うだろう。しかし浜野さん自身はこう打ち明ける。「もちろん嬉しいことはたくさんあります。だけど今のところ、心から満足したことは一度もありません。」 まだまだ高みを目指す胸の内には、人材を育てたいという熱い思いがある。
「本当は3年で次の店を出すつもりでいました。しかし、人が続かず苦労して…私自身が職人気質。“見て覚えろ”と厳しいオーラを出していたため、スタッフを萎縮させていたのだと気が付きました。」思い悩む日々が続いたが、そこから脱却できたのもまた、スタッフの成長であった。後輩の指導に熱心な上、「名札をニックネームにしたい」など積極的にアイデアを出してくれる。その意見を取り入れながら、「大胆に自分を変えてみよう」と浜野さんは思った。
スタッフは皆、職人ではない。彼らのスキルを伸ばすために、レシピを整理し料理を習得しやすいように工夫。「昔ではとても考えられなかったこと」に挑戦し始めると、スタッフ同士の雰囲気がとても良くなってきた。「高すぎるハードルでは若い子たちが続かない。そのためにも、この店とは別にカジュアルなブランドを立ち上げ、彼らがどんどん活躍できる店を作りたい。」一方で自身は和食で培った技を存分に披露し、ワンランク上の料理を出す店を実現したいとも考えている。2018年は新たな一歩を踏み出す、記念すべき年になるに違いない。
2018.2.8更新 取材・文/太田 裕子
【取材したお店】
大和焼肉 やまとく
電話/06-6767-4129
住所/大阪市天王寺区舟橋町17-4
営業/17:00~23:30(L.O.23:00)
定休日/水曜日
交通/地下鉄千日前線「鶴橋駅」5番出口徒歩1分、JR環状線・近鉄「鶴橋駅」徒歩3分