「迷ったら、前へ行け」 野球人生で学んだ 義理人情と実直さ 鶏手羽とお鍋 One 店主 市原 圭さん(44才) |
完全予約制で入店は紹介客のみ。そう聞けば、敷居の高い店を想像する方も多いかもしれない。しかし、出迎えてくれたのは誠実さと温かさ滲み出るオーナー、市原さん。「自宅に遊びに来て頂く感覚で、自由に使ってほしいのでこの形にしました。営業時間も決めていないので、会議室のように貸切利用して頂いて、その後に宴会というオファーもあります。」
店内にはプロ野球選手のサインがずらり。ナイター終了後の隠れ家として、この店に通う選手や関係者も多いのだとか。「実は僕自身が元プロ野球選手なんです」という市原さん。甲子園常連の強豪校からドラフト指名でプロの世界へ。11年間で3球団を経験。あの星野監督の下でプレーしたこともあるという。
31才で引退後は、一般企業に就職。営業職などを経験する中で、「お金を稼ぐのは大変なことだ」と実感したそう。転職先の社長がはじめた音楽事業部が軌道に乗り、その後はなんとアーティストマネージャーの職に就く。「一言で言い表せないくらい大変な仕事だったのですが、多くの方に支えられ、たくさんの知り合いもできました。」人の話を聞くのが好きで、誰とでもすぐに打ち解ける市原さん。それでいて軽々しさはなく、会話の随所から一本筋の通った実直な人柄が感じられる。多くの方から愛される所以だろう。
「自分で何か商売がしたい」…次第にそんな気持ちがふつふつと沸いてきた。たくさんの人と出会える仕事として、思い浮かんだのが飲食業。しかし、何の経験もない自分ができるのだろうか?不安は大きかったが、そんな時に思い出したのが、星野監督の言葉。「ドラゴンズで1軍デビューして2年目、監督がチームにやってきてこう言ったんです。『迷ったら、前へ行け』と。」36才、初めて包丁を持った。
焼鳥店で3年間修行し、2013年に自身初の店「一寸法師」を堀江でオープン。元々体が小さかったため、大柄な選手に負けないよう守備という武器を磨き、ショートの名手として活躍した頃の気持ちを店名に込めたのだ。「20坪のお店で、選手時代の仲間もたくさん来てくれました。2年半続けたのですが、将来を考えた時、ずっと続けていける小さなお店をやりたい。そう考えて移転を決意しました。」
2016年、現在の場所で「One」を立ち上げる。看板メニューも鶏手羽と鍋にリニューアルし、以前よりも一人ひとりのお客様とゆっくり話せる雰囲気を心がけた。「野球時代の仲間や、アーティストマネージャー時代の知人が会いに来てくれるのも、飲食店をやっているからこそ。初対面のお客様同士が知り合い、情報交換の場にもなっています。僕自身もとてもパワーをもらえますし、この仕事の醍醐味だなぁと感じます。」
ウリは自家製の手羽先ダレと特製のお鍋の出汁。予約ごとに旬の魚介を市場で仕入れ、「牧草牛」など珍しい素材も提供する。「基本はシャッターを閉めて、ドアのところだけ少し開けています。決して敷居を高くしているわけではないので、興味のある方はぜひご連絡下さい。野球の話も、僕で良ければたくさんしますよ」とニコリ。この笑顔に、また会いたくなる!
2018.1.25更新 取材・文/太田 裕子
【取材したお店】
鶏手羽とお鍋 One
電話/06-6241-2291(完全予約制)
住所/大阪市中央区島之内1-11-15 ラフォーレ長堀橋1F
交通/地下鉄各線「長堀橋駅」徒歩5分