蛸を知り尽くしたエキスパート ハイレベルな一品料理を スタッフと共に 多幸屋(たこや) 店長 上田 幸男さん(38才) |
店長職に就く前は実家の家業である上田水産(株)にて、蛸の加工や配送・営業の仕事に携わっていた上田さん。そんなある日、同社が営むたこ焼き居酒屋「多幸屋」へ異動の話がまとまり、実に15年ぶりに包丁を握ることとなった。「調理師専門学校を出てから割烹で働いていたので、料理は大好き。そういえば『将来はたこ焼き屋をしたい!』と当時話していたのですが、まさか本当になるとは…!」と振り返る。
多幸屋の開店は上田さんの店長就任から遡ること、2011年11月。「美味しい蛸を味わえる店を提供したい」との思いからスタートしたという。蛸だけで20種類以上のメニューがあり、店頭では自慢のたこ焼きも販売。プリップリの大きな蛸はそれ自体にしっかりとした旨みがあり、シンプルな生地と絶妙な焼き加減が自慢。まずは何もつけずに味わいたい究極のたこ焼きだ。
さて、就任当初は「右も左もわからなかったですよ」と苦笑する上田さんだが、厨房に立ちながら徐々に料理人としての感覚を取り戻していく。お客様の表情を見ることさえままならなかった日々もあったが、「接客って楽しい!」と思えるまでに時間はかからなかった。「スタッフと全員でアイデアを出しながら、一つひとつメニューを作り上げていきました。数自体は絞り込んだのですが、どの品もすべて手作りで妥協は一切なし。お品書きを見ただけで心が躍るような料理を考えました。」
現在同店では、本場での経験を持つイタリアン出身のシェフと、日本料理に精通した料理人が活躍。取材当日は「秋茄子の揚げ出し」など旬の味覚が多数並び、蛸料理以外も充実。厳選したマグロを用い、仕込みだけで1週間かかるという「自家製シーチキン」など、居酒屋レベルを遙かに超えた手の込んだメニューもある。
口コミで客足は増え続け、開店と同時にグループ客がなだれ込む。以前は店に入り切れず、一日に何十組も断っていたが、昨年5月、道を挟んだ向かいにも店舗スペースを開設。広々としたテラス席も構えた。「実はVIPルームもあるんですよ」と案内された2階では、大阪名物のたこ焼きを接待で披露できるとあって予約が絶えない。一度食べてリピーターになり、東京や地方から大阪を訪れる度に通う方も多いとか。
たこ焼きの蛸だけで驚いていてはいけない。同店で提供する「蛸食べ比べ造り三種盛り」は、明石のマダコ・北海道の水蛸・モロッコのマダコをそれぞれわさび醤油・塩ごま油・辛子酢味噌で味わうという唯一無二の一品。「蛸を見れば、どう下ごしらえをして調理したら一番美味しく味わえるか、すぐにわかります」と上田さんは言う。さすが半世紀以上にわたり蛸に携わってきた水産加工会社の経験は違う。上田水産(株)では卸先の顧客に対しても蛸の下処理の方法を適切に伝え、リクエストに着実に応え信頼を築いている。
上田さんのモットーは「自分が一番楽しく働くこと」。その姿がスタッフに伝播し、求人を出したことがないほど皆が長く働き続けているのだそう。「スタッフが新しいスタッフを連れて来てくれるのも、楽しい職場だからこそ。お客様に対して手を抜かないという厳しさは持ち合わせていますが、皆がイキイキと働いてくれています。スタッフと共に良いお店を作っていきたいですし、いずれはスタッフ全員に1店舗ずつを任せられるような体制にしていきたいですね!」
2017.12.14更新 取材・文/太田 裕子
【取材したお店】
多幸屋(たこや)
電話/06-6136-3108
住所/大阪市福島区福島2-10-23
営業/平日16:30~翌0:00(フードL.O.23:30/ドリンクL.O.23:00)、日曜日・祝日16:30~23:00(フードL.O.22:00/ドリンクL.O.22:30)
定休日/不定休
交通/JR東西線「新福島駅」徒歩すぐ・JR環状線「福島駅」徒歩3分
上田水産株式会社
電話/06-6584-6611
住所/大阪市西区安治川1-1-34