安定から自由への転身 職種を超えて追求する「誠実さ」 あほや 曽根西町店 代表取締役 鈴 賢一さん(37才) |
この仕事を始める前は、信用金庫に勤務する会社員だった鈴さん。真面目な働きぶりが評価され、表彰されるほど優秀な若手であった。仕事のやりがいを感じてはいたが、過密な業務ゆえにメンタル不調で退職していく先輩たちの姿を目の当たりにし、「もっと楽しく働ける場を作れるのではないか?」と考えるようになった。
「私は三兄弟の長男なんですが、弟のひとりが精神的な弱さを抱えていることもあり、彼らのような人が働ける場所を提供したいという思いは昔からあったんです」と、起業を志し安定した職場を退職。「あほや」ブランドのFC店を手がけていた友人の下でアルバイトを始めた。
初めての飲食業を経験して強く感じたことは「頑張るも自由、頑張らないも自由。すべては自由」ということ。もちろんそこには責任が付いてまわるが、鈴さんは「この人生を選んで良かった」と振り返る。1年後には自らも「あほや 吹田店」を立ち上げ独立。オープニングから売上は上々、3ヶ月間休みなしという多忙な日々を送る。
「最初は3軒くらい出店したら、悠々自適な生活を送ろうと思っていました」と笑う鈴さん。しかし三男も入社し、スタッフの数が増えてくると「みんなが一生働ける会社」を作りたいと考えるようになった。給料を上げ、福利厚生の整備などを考えるとおのずと出店への道が開けてきた。「人って時間とお金があるだけでは幸せになれないと感じました。そこに“成長”があってこそだなぁと…。」
現在、FC展開する「あほや」ブランドは10店。6名の社員と約70名のアルバイトが支えている。「車で店の前を通った時、提灯が出てスタッフが店を開けてくれている。それだけで感謝の気持ちがこみ上げてきます。」経営理念は「誠実」。時間を守る、嘘をつかない、掃除を徹底する。当たり前のことばかりだが、一つひとつを追求していく大切さを、会社員時代に学んだ鈴さん。その寡黙な背中を、スタッフたちはしっかりと見ている。
今後は子会社を作り、志あるスタッフに新業態を任せていきたいと考えている。経営者を輩出したいという思いも強い。「今は次男も弊社で働いています。将来的には一般企業で働くことが難しい子たちのために、テイクアウトのブランドを作り、夢を持って働いてもらえる工場も作りたいんです。」
インタビューの最後に、鈴さんはこんなメッセージを残してくれた。「自分はほんまに普通やな、って思うんです。飲食業界の人っぽくないし、経営者っぽくもない。特筆すべき個性があるわけでもない。だけどこの仕事が大好きですし、今とても幸せです。こんな経営者がいてもいいかな?と思っています。」
2017.8.10更新 取材・文/太田 裕子
【取材したお店】
あほや 曽根西町店
電話/06-6151-3026
住所/大阪府豊中市曽根西町1-10-17
営業/11:30~23:00
定休日/無休
交通/阪急宝塚線「曽根駅」徒歩5分
株式会社 鈴屋
電話/06-6380-5602
住所/大阪府吹田市片山町3-33-13