九州の食べんといかんばい~長崎編~ 「海軍さんのビーフシチュー」
レトロな雰囲気で異国情緒あふれる長崎県佐世保市。鎖国時代、外国から様々な料理が日本に伝わるなか、明治時代に「ビーフシチュー」が伝わりました。現在、佐世保市では「海軍さんのビーフシチュー」という名称で多くの飲食店で提供されているのですが、その歴史をご紹介します。
日本が近代国家として進み始めた明治期、海防力を高めるため国内に4つの軍港都市が誕生しました。その中で最西端を守る都市となったのが佐世保市で、海軍の本拠地として明治22(1889)年に「佐世保鎮守府」が開庁されました。閑静な農漁村だった佐世保市は軍港の町として栄え、明治19年は約4000人だった人口が、明治35年には10倍以上の約5万人にもなったそうです。
東郷平八郎とビーフシチュー
そして佐世保鎮守府の第9代目司令長官を務めたのが、あの有名な東郷平八郎。薩摩藩の武士の家に生まれた東郷は、明治に入ると海軍士官の身分でイギリスへ留学します。この留学中に、近代的な海軍知識や航海術、そして国際法を学びました。後に東郷は、この知識を生かし、日露戦争では連合艦隊司令長官=“海の現場のトップ”として指揮をとっています。
東郷はイギリス留学中に食べた「スチュードビーフ」、つまりビーフシチューに大変感動しました。帰国後もその味が忘れられず、艦上食のメニューに加えようと旧日本海軍に作らせます。しかし当時はワインもデミグラスソースもありません。命じられた料理長は、食べたことのない味を東郷の話からイメージし、醤油と砂糖を使って再現します。しかし完成したのは現在で言う「肉じゃが」!そう、肉じゃがの始まりはビーフシチューの失敗作だったという説もあるのです。
その後、ワインなどを加えて改良し、旧日本海軍は「海軍割烹術参考書」というレシピ本を刊行しました。それに記載されたビーフシチューのレシピを元に作ったものを、「海軍さんのビーフシチュー」と呼ぶようになったのです。
現在では、佐世保市内の飲食店がそれぞれのオリジナルで「海軍さんのビーフシチュー」を提供しています。特製のデミグラスソースでじっくり煮込んだお肉は、ほろほろと口の中でとろけて絶品です!東郷平八郎が愛した海軍さんのビーフシチュー、皆さんもぜひご賞味あれ!