九州の食べんといかんばい~長崎編~ 「六兵衛」
長崎県島原市に、古くから食べられている“真っ黒い麺のうどん”があります。その名も「六兵衛(ろくべえ)」。おそらくほとんどの方が見たことも聞いたこともないかと思います。
200年以上前の1792年、島原市の背後にある眉山が崩落し、有明海には津波が発生しました。沿岸一体は大被害を受け、島原半島は深刻な食糧危機に陥ります。そこで、稲や麦に比べ、痩せた土地でも栽培しやすいサツマイモが主食として食べられるようになりました。そして、保存がきくようサツマイモを干して乾燥させ挽いた粉末に注目した、ある農家がいたのです。
このサツマイモ粉をどうにか美味しく食べられないかと試行錯誤し完成したのが、粉にお湯やつなぎの山芋を入れてよくこね、それをうどん状にしたもの。これが「六兵衛」の誕生です。そしてこの六兵衛を考案した農家の方こそ、「六兵衛」という名前だったのです。
その後も六兵衛は島原の人々を救い、戦後の食糧難の際もよく食べられていたそうです。しかし、昔のサツマイモは旨味が少なく、サツマイモ粉100%の六兵衛は決して“美味しいもの”ではありませんでした。時代が進むにつれ、六兵衛も忘れられていきます。
しかし現在、学校給食にも登場するようになり、再び注目されてきたのです。品質改良が進んだ現在のサツマイモで作る六兵衛は、“美味しくなかったもの”とは信じられないほど美味しくなりました。ツルツルとした麺の中はもっちりしていて、ほんのりサツマイモの甘味も感じられ、うどんというよりこんにゃく麺に近い食感で癖になります。ちなみに麺が黒い理由は、サツマイモ由来の色素が関係しており、熱を加えると黒くなるんです。
現在は給食での普及により、子ども達の方が食べる機会が多くなった六兵衛。年配の方は、戦後の食糧難で“仕方なく食べていたもの”のため、辛い思い出であまりいい顔をされないそうです。そのため、現在の六兵衛を食べると「こんなに美味しくなったのか」と、大変驚かれるのだとか!
時代を超え人々によって様々な思いがある六兵衛ですが、未来に歴史を語り継ぐためにも、この味を受け継いでいってほしいですね。