高校時代に飲食業のおもしろさに魅了され、20代では日本を代表する飲食店でも勤務。
その後、コンサルタントとして飲食業のみならず多くの分野で事業の成長や再生を支援。
「飲食とマネジメントのプロ」とも言える株式会社MOSの代表取締役・杉野晃久氏が率いる「鶏匠・博多水炊き IPPO」の取り組みを伺った。
株式会社MOS
代表取締役:杉野 晃久氏(37才)
スタッフの成長意欲を刺激して現場を活性化。
大阪、神戸、そして品川で店舗を展開する「鶏匠・博多水炊き IPPO」。前身の運営会社から昨年9月、経営を引き継いだのが株式会社MOSだ。
代表取締役を務める杉野晃久氏は、「小学校の頃の夢はJリーガーか経営者になることだった」というぐらい、根っからの経営者志向の持ち主。高校生になって始めた飲食店のアルバイトでは経験を積み重ね店長へ抜擢。後に統括店長へと昇進する。飲食業のおもしろさにどっぷりと浸りながらも、「もっとマネジメントのことを知りたい」と考えるようになった杉野氏は、飲食コンサルティング会社に就職。街場のカフェから大手飲食企業まで、さまざまな店舗の支援を行い、成果を上げてきた。20代後半では、苦境に陥った企業を支える事業再生専門のコンサルティング会社に転職。飲食業のみならず、幅広い領域で事業の復活を支えてきた。
そんな杉野氏に、IPPOの運営を引き継ぐオファーがもたらされたのは昨年夏のこと。
「経営の数字を分析し、各店舗に足を運んで現場の実態をつぶさに眺めました。そこから、非常に高いポテンシャルが見えてきました。やり方に工夫を加えることで、さらに魅力が引き出せるのです。3ヶ月考えて、引き受けることにしました。」
杉野氏が店作りを行ううえで重要視しているのが、スタッフのモチベーションだ。仕事に追い回されるような毎日、頑張っても評価されないストレスや閉塞感。それらがスタッフのモチベーションを下げ、サービスや料理の品質低下へとつながっていく。杉野氏はそう考え最初に手を付けたのが、休日の拡充だ。
「いい仕事をするために大切なのは、『考える時間』です。これは、『もっと喜んでもらえる料理は?サービスは?』と考えられる時間のこと。そして、『考える』ためには心の余裕が必要。
つまり、休日であり、プライベートな時間です。私たちの強みは、成長意欲のある人材が集まり、その意欲が満たされる、すなわち成長を実感できる体制を整えているところにあります。こういった人材が存分に能力を発揮するためには、時間的余裕は欠かすことのできない大切な要素です。そこで、休日の拡充に注力しているのです。」
とはいえ、スタッフの休日を急に増やすことは簡単ではない。人を増やそうにも、人員の確保は飲食企業に共通する経営課題だ。そこで杉野氏は、自身が率先して店舗の仕事を引き受けている。
「接客も皿洗いも、なんだってしますよ。僕がする分、スタッフには『今日はもう早く帰りなさい』と言っています。現場で実際に働けることは、コンサルタントの中でも僕だけの強みだと言えます。」
コンサルタントといえば、外部からやってきて提案だけを行い、行動はしない人というイメージも持たれがちだ。それは杉野氏の望むところではない。だから杉野氏は「誰よりも動き考える」という腹を固めている。
取材に訪れたこの日も、杉野氏の携帯電話はしばしば鳴っていた。多忙な経営者では珍しいことではないが、その内容はといえば、お客様からの予約や料理の問合せ、取引先からの納入物品の確認など。「そんなことまで社長が?」とも思える仕事だが、だからこそスタッフは「社長がそこまでしてくれているのだから、自分も」と思うはずだ。
「僕は、『手の届く社長』でありたいと思っています。現場でスタッフと一緒に働いて、一緒に喜んだり悩んだりする社長です。他業種も見てきたからわかるのですが、やっぱり飲食業はおもしろい。そして、そのおもしろさが一番詰まっているのが店舗であり、メンバーはいつまでも共有できる存在なのです。」
“小さなグレードアップ”を重ねて既存店の強化を。
事業の継承を契機に、さらなる成長を目指しているIPPO。教育システムの整備も目下の急務だ。それらの取り組みの先には、「仕事が楽しいと思える職場」の実現がある。新たな店作りを任された者として、杉野氏には目に見える成果も求められていることだろう。しかし、「慌てずに、着実に進めていくことが大切」と杉野氏は言う。
「例えば、突き出しのグレードをほんの少し上げるだけでも違うんです。お客様は、『なんだかいいな』という反応をされますよね。それを見たスタッフは素直にうれしいはず。そのうれしさは、仕事を頑張ろう、いいサービスをしようというモチベーションにつながる。そういった小さな積み重ねが、大きな差を生みます。」
大胆な経費削減などではなく、むしろ何気ない些細なこと。そこにスポットを当てることで、杉野氏は魅力ある店作りを進めている。杉野氏が取り組みを始めて以来、すでに前年比130%の売上を記録するなど、成果は現れている。この調子でまずは既存店をしっかりと成長軌道に乗せ、その後に新店舗や新業態へと歩んでいくという将来像を杉野氏は描いている。
変化し、成長していく店舗を目の当たりにできる
既存スタッフの成長を促すと同時に、新たなスタッフの拡充は人材力強化にあたっての重要なアプローチだ。杉野氏が期待する人材のキーワードは、「成長意欲」「合意形成」の2つだ。
「成長意欲のある人とはすなわち、指示を待つのではなく、自分から仕事をつかみにいったり生み出していける人のことです。独立志向のある人も大歓迎です。合意形成とは、チームで仕事ができる人のこと。自分の思いも大切ですが、それを周囲に伝え、周囲を巻き込んで一緒に仕事ができる人に期待しています。」
いま、IPPOは杉野氏をはじめとして大勢のスタッフの力で次のステージへ踏み出そうとしている。そこでは、魅力ある店作り・会社作りのノウハウが余すところなく注ぎ込まれるはずだ。また、「いい店を作りたい。お客様に喜んでもらいたい」という、飲食業の原点ともいえる熱い思いに触れることができるだろう。飲食人としてキャリアを積むうえで、いま、同社で働くことは大きな財産になると言えそうだ。
FOOT PRINT
1996~
1998年 飲食店でアルバイトを始め、店舗の立ち上げなどを経験。高校3年生で統括店長に昇進。
2000年 大学に進学し、マネジメントを学ぶ。同時に有名飲食店で経験を積む。
2004年 飲食コンサルティング会社に就職。
2007年 事業再生専門のコンサルティング会社に転職。
2015年 独立し、事業再生コンサルティング会社を設立。
2016年 (株)MOSを設立。IPPOの経営をスタート。
COMPANY DATA
株式会社MOS
大阪市西区江戸堀1-23-13 肥後橋ビル3号館503号
「グルメキャリー2017年5月11日号」掲載