果敢に新業態の開発を進める株式会社nadeshico。
新しい食の提供を理念とし近江野菜、近江牛など地元の食材を使い『農家、客、店』の連携で滋賀県を中心に7店舗5業態を展開。
東京出店も成功させた代表取締役 細川雄也氏に100年企業への意気込みを伺った。
株式会社nadeshico
代表取締役 :細川 雄也氏(38才)
元JA職員だからこその視点で滋賀の魅力を“食”で発信
「新しい食文化を創造し、滋賀を変える」を企業理念に、今までにない業態を追求している株式会社nadeshicoの代表取締役・細川雅也氏。元々JA北びわこの職員として地元農家のサポート役をしていたが、もっとダイレクトに滋賀の魅力を発信し、地元に貢献したいと飲食店での起業を決意。『農家、客、店』の三方よしは今も経営の軸になっている。
独立当時を振り返ると、実際に店を出すと決めたのはいいが飲食業界の経験は大学時代のアルバイトだけ。試行錯誤の連続だったというが、品質の良い食材を仕入れることには自信があったため、それを生かしたメニューを考案。2007年にオープンした創作和食「菜でしこ長浜店」は、女性客を中心に連日盛況となった。特に当時流行っていた「せいろ蒸し」が人気となり、夜だけの営業から昼のランチに広げ、売上高は急激に伸びて目標を大きく上回った。
「この勢いなら30年で600店舗を目指せるのではないかと手ごたえを感じ、初出店から1年半後には2号店を彦根に出店しました。」
しかし、当初の予想を下回りこの2号店では苦戦を強いられることになった。その要因を細川氏は冷静に分析する。「自分がどちらかの店舗にかかりきりになると、目が行き届かず接客の肝であるホスピタリティ(心のこもったおもてなし)が落ちるんです。みんな必死でしたが、どんなサービスを提供したいのか私自身が明確な指針を出せず、人の育成も追い付いていなかったんだと思います。それにもう一つ。新鮮な食材が豊富に手に入る地元の人にとって、近江食材をシンプルに提供するだけでは物足らない。1号店へ何度か足を運んでくれていたお客様も徐々にメニューに飽き、家で食事をするようになりました。」と、理由を挙げた。
「頭でわかっていても経験するのとは大違い。あらためて飲食業で店を継続すること、成長させていくことの難しさを知りました。お客様が毎回感動し、料理、接客、店の雰囲気など心から楽しめる店づくりを行うのに、これでOK、このままで大丈夫というのはないんです。常に工夫し変えていくしかないと学んだ貴重な経験だったと思います。」
安定よりも新しさへの挑戦にこだわり独自性を発揮
現在は、お客様の声をタイムリーに反映するため店舗でのアンケート回収にも力を入れている。「何となく良い、悪いではなく枚数や記入頻度から改善点を数字にして見える化を進めています。見える化により、やるべきことがはっきりするため、各自が能動的に動くように変わっていきました。」
3号店では、さらにお客様満足度の向上を目指し、接客もメニュー開発も現場の提案を素早く取り入れている。その際、利益追求だけに走ると原価を圧縮することにつながるため「満足度」を常に意識しているという。
「5年前にオープンした近江バルは、初のイタリアンで、近江食材を様々なメニューにアレンジしています。特に人気なのは、滋賀産の朝採野菜をふんだんに使ったバーニャカウダと、近江牛を200g使用したダイナマイトステーキ。お客様の喜ぶ顔を見ると本当にうれしいです。」
現在店舗は7店あるが、店はそれぞれ個性的で店長の権限は社長と同等の「独立採算制」を掲げている。毎週開催する店長会議はまさに経営会議としての真剣な場だ。
この姿勢は社員やアルバイトスタッフにも通じており『全員参加型経営』として、毎月全店を休みにして『nadeshico研修会』を実施している。遠慮なく自分の意見を出し合える風土づくりと、現場のスタッフを表彰し評価する場でもある。「お互いに励ましあい、刺激しあえる関係を築くことが何より大切だと考えています。スタッフ同士のコミュニケーションが円滑にとれていて、個々が夢を持ち幸せでなければ、お客様に楽しんでもらえる空間を提供できませんから」と細川氏。
働きやすい環境づくりも事業展開の大きな柱
人材育成に力を注ぐ同社は、新卒採用にも取り組んでおり労働環境の整備が進んでいる。例えば、手当は住宅、家族、引っ越し費用など様々あり、今後は月の休日の増加、育児休暇制度の整備などが検討されている。
新業態として来年にはカフェをオープンさせる計画も進行中で、狙いは社員のライフスタイルの変化に応じた職場環境を提供すること。カフェなら、モーニングやランチを充実させて、子育て中はその時間だけ勤務というのも可能。飲食店でのキャリアを継続してもらえるように考えて開発しているのだという。
「エスプレッソマシンはすでに導入しテスト中。美味しいパンケーキの提供や、ノウハウを活かしたレストラン、夜はバルなど1店舗で5毛作のように形を変えるのも面白いと考えています。」
細川氏の型にはまらないユニークな店づくり。発想はどこから来るのだろう。「実は今年、居酒屋甲子園の理事長に任命いただき、北海道から沖縄まで全国を多い時は週6日、視察して回っています。地域に根差した店づくり、メニュー開発を工夫している姿は刺激になります。」
また最近は、近江食材で地元に貢献したいという明確な理念に共感し、パートナー企業になりたいという申し出も多数あるという。その一社と提携して東京渋谷にオープンさせたのが「TABLE O TROIS」だ。大人のビストロとして、早くもメディア取材で大きな話題になっている。
「これからも、コンセプトを忘れず成長していきたい。目指すは100年で1000店」と細川氏。求める人材の条件として挙げたのは1点のみ。「お客様を楽しませるのが好き」という想いだけ。「いつかは自社で近江野菜の生産も手がけたい。お客様の喜ぶ顔が見られるよう共に成長しましょう」と締めくくった。
FOOT PRINT
2007年 大学卒業後6年間勤務したJAを脱サラして、1号店となる創作和食「菜でしこ長浜店」をオープンする。
2009年 同、彦根店オープン。
2012年 「BEER&WINE石山GRILL」をオープン。
2013年 「近江バルnadeshico」をオープンし連日盛況。
2016年 12月に東京渋谷に「TABLE O TROIS」をオープン。
居酒屋甲子園の理事長として飲食店全体の活性化にも奔走している。
COMPANY DATA
株式会社nadeshico
0749-62-7771
滋賀県長浜市八幡東町185-1
代表ブランド
旬菜酒場 菜でしこ
近江バルnadeshico
鮮魚と炉端焼き 魚丸
BEER&WINE石山GRILL
ビストロナデシコ
TABLE O TROIS
「グルメキャリー2017年5月25日号」掲載