企業Top・経営陣に聞く経営ポリシー&見つめるビジョン
株式会社 TFM
取締役社長 兼 CEO 小栁津 競介
会社は、「入口」より「出口」が大事
目標をもつ人を、応援していきたい
小栁津 競介 - Kyosuke Oyaizu -
1980年生まれ。大学卒業後、コンサルティング会社に就職。5年勤務したのち、退職。創業79年になる親族の会社を引き継ぎ、取締役社長に就任。2012年、社名を「株式会社 TFM」に変更。「ビーフガーデン」、「肉バル ソルト」、「大衆肉バル カミイチ」など直営の飲食店のほか、ニューヨークに拠点を持つ「エンパイア ステーキ ハウス」の運営に従事。
2018年12月掲載
親族が育てた会社を守りながら 自分のやりたいことを実現したい
「ビーフガーデン」「肉バル ソルト」「大衆肉バル カミイチ」などを運営する、株式会社 TFM。創業は1946年、現在は3代目となる小栁津 競介氏が取締役社長となり、「Tomorrow Future More」(明日の未来に、もっと!)という社名のとおり、躍進を続けている。
小栁津氏が取締役に就任したのは10年前。大学卒業後はコンサルティング会社に勤めていたが、当時、小栁津氏には「いずれ自分自身で起業する」という夢があった。
「サラリーマンとして5年勤め、『そろそろ自分で会社を起こそう』と真剣に考えるうちに、思ったんです。親族が必死に育ててきた会社を、誰が引き継ぐのだろうと。僕が起業したら誰も会社を継ぐ人間はいないので、いずれは会社も終わってしまう。起業を真剣に考えるほど、それがいかに無責任なことかが分かり始めたんです。それなら僕が会社を引継ぎ育てていきながら、自分のやりたいことも実現できるようにがんばろう...そう考えて、起業をやめ、会社を継ぐことを決意しました」
小栁津氏が会社を引き継いで最初に着手したのは、フランチャイズの飲食店経営だ。当時数店舗あったフランチャイズ店だが、いずれも赤字経営だった。小栁津氏はその業績改善につとめ、1年ほどで全店が黒字になるまでに成長させた。
次の展開として考えたのは、直営店を出すことだった。
「どんな店をやるかは決まっていなかったのですが、前職で飲食店のコンサルティングに関わったこともあり、『飲食店はどうだろう』と考えていました。そんななか、知り合いから和牛の一頭買いができるルートを紹介してもらえたり、別の知り合いから焼肉に最適な物件の紹介を受けたりと偶然が重なり、はからずも焼肉店を出すのにうってつけの条件が揃ったんです。その結果、『ビーフガーデン』1号店のオープンに至りました」
新たに着手した店で実感した 海外との経営戦略の違い
1号店のオープンを皮切りに、同社は積極的に直営店を展開。この10年で、直営店は7店舗にまで広がった。
そして昨年、ニューヨークに拠点をもつレストラン「エンパイア ステーキ ハウス」を六本木にオープン。この店は直営店でもフランチャイズでもなく、ライセンスでの運営となる。その経緯にも、運命としか言いようのないめぐりあわせがあった。
ちょうど3年前のこと。小栁津氏は「ソルト」2号店の物件を探すため、雑居ビルにある街の不動産屋に出向き、担当者と話していた。そのとき、ひとりの男性がふらりと来て隣に座った。
「その不動産会社の会長さんだったのですが、彼が物件と全然関係ないお話を始めてしまって。お話は面白かったんですが、僕は『次の予定もあるし、どうしようかな』と焦ってもいました。そんなふうに1時間ほどお話を聞いたころ、その方が突然『ところで、ニューヨークのエンパイア ステーキ ハウスって店がパートナーを探してるんだけど、興味ある?よかったら紹介するよ』とおっしゃって。それはもう、驚きました(笑)。実はその方、『エンパイア ステーキ ハウス』のオーナーとつながりのある方だったんです」
早速、小栁津氏はニューヨークに飛び、3ヶ月後に本店と契約を結んだ。
「前々から、いつか海外の店を日本へ運んで来たいと考えていました。でも、僕らがそれをできるようになるのは2020年以降だろうな、とも。ところが想定よりはるかに早く、そして思いがけない形で実現しました」
こうしてオープンした「エンパイア ステーキ ハウス」は、様々なメディアにとりあげられ予約が殺到。十分と思っていた人員でも足りず、お客様に丁寧なサービスを提供するため、予約を断らざるを得ない状態にも陥った。
しかし数ヶ月後、突如として売上がガクリと落ちた。
「当初の盛況は、PR作戦によるオープン景気だったんです。オープン前後に積極的なPRをすることで集客をはかり、それが見事、功を奏したわけです。でも、僕らにとってそれは初めてのことだったので、戸惑いましたね。それまで僕らが運営していたいわゆる『街の飲食店』は、お客様が増えるまでは時間がかかるけど、一度増えたら極端に減ることはありませんでした。それに、僕が知っている日本のオープン景気とは、ケタ違いでもありました。この経験で、エンパイアのような業態と既存直営店のような街の飲食店とでは戦い方が違うことを実感した。売上が大幅に下がったのは痛手でしたが、いい勉強になりました。結果的に、僕らは更なるPR戦略を打ち出したり、お客様が離反しないよう人員を整備して体勢を整えたりして、現在は当初に並ぶくらい売上は回復しました」
大切なのは入社の「入口」より
将来どうなりたいかという「出口」
すべてがトントン拍子にうまくいくときもあれば、思わぬ痛手をこうむることもある。会社経営は一筋縄ではいかないが、だからこそ「ともに働く仲間には、信頼関係が大切です」と小栁津氏は言う。
「僕が社員に対して一番重視しているのは、正直であること。嘘をつかない、ごまかさない、裏切らない、思いやりをもつ...そんな、基本的なことなんです。当社には複数の店舗があるので、僕らはふだん離れて仕事をしていますし、少なくないお金を社員に預けて経営を任せることもあります。だから、信頼関係がベースにないと、すべてが崩れてしまうんです。スキルや知識は後からついてくるけど、人として信頼できるかどうかは、後からどうにかできるものではありませんから」
そんな信頼関係で支えあう仲間には、惜しみなく力を尽くしたい。だから、社員には自分自身でも将来についてしっかりと考え、行動してほしいと考える。それも小栁津氏の大きな願いだ。
「面接でよく『入社の入口より出口が大事』と話します。『出口』というのは人により異なりますが、定年まで働きたいなら定年退職するときに、10年後に独立したいなら10年後に、どうなっていたいか。僕は一人ひとりがその『出口』に到達できるように、配属先や仕事内容を考えていきたいと思っています。ところが、自分の『出口』を考えている方は少ない。面接でも、1/3くらいの方は『将来独立したい』というけれど、そのために何をしたいのか、どうなっていたいのかを真剣に考えている方は10パーセントいるかどうかです。本人に目標があれば、僕も親身になれるから、ぜひご自身でも『出口』について考えてみてほしいなと思います」
そんな小栁津氏の夢は海外進出だ。
「海外に進出することでお客様にご提供できることも、社員の夢も広がります。皆が楽しく、長く働きながら『出口』へ到達できるよう、会社を成長させていきたいですね」
【取材店舗】エンパイア ステーキ ハウス
株式会社 TFM
─ 店舗情報 ─
エンパイア ステーキ ハウス
住 所:東京都港区六本木6-7-11 1F
電 話:050-5594-4954
Beef Garden 二子玉川
住 所:東京都世田谷区玉川3-10-8 アークビル植2F
電 話:03-3709-0068
Beef Garden 恵比寿
住 所:東京都渋谷区恵比寿4-10-8 orange恵比寿1F
電 話:03-6277-2078
肉バル Salt 中目黒
住 所:東京都目黒区上目黒2-18-13 ヒルズ中目黒1F
電 話:03-6303-0829
大衆肉バル KAMIICHI
住 所:神奈川県横浜市港南区上大岡西1-15-1 camio2F
電 話:045-849-1081
現在、7店舗展開中
文:瀬尾 ゆかり 写真:yama