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株式会社 フォンス
代表取締役社長 小山 正
店よりも、家をつくる感覚。
小山 正 – Masashi Koyama –
1974年、長野県軽井沢生まれ。家業は信州小諸で300年程前から続く味噌蔵だった。カナダの高校へ5年間、アイスホッケー留学。慶応義塾大学卒業後、地元軽井沢に戻る。在学中に都内の蕎麦屋を巡り見聞を広める。この頃に独学で料理も学び、2000年、26才にして共同経営者と共に「株式会社 フォンス」を起業した。
地域のよさを、まず地元で発信。そして日本へ、世界へ
軽井沢には信州各地で育まれてきたさまざまな食文化がある。味噌や醤油といった伝統的な調味料や、若い世代のつくり手によるワイン、地酒、ベーカリーなど、伝統的な食文化から新しい食材までが軽井沢という地域では共生しているのだ。
その軽井沢で生まれ育った小山氏は、地域のいいものを日本や世界に伝えていきたいという想いで、「フォンス」を創業した。
第1号ブランド「川上庵」は、「江戸庶民が愛した粋な蕎麦屋酒」を現代のスタイルに磨き上げ、地元軽井沢にてオープン。香り豊かな粗挽き蕎麦を、吹き抜けの気持ちのいい空間で提供した。
また、信州味噌や漬物など、軽井沢ならではの特産品を取り扱うショップ「酢重正之商店」も立ち上げた。2階にはギャラリーを併設し、地元作家の器や工芸品なども積極的に発信中だ。ここで取り扱うお米、味噌、調味料、器などを飲食店として表現したのが「レストラン酢重正之」。自社オリジナルの銅釜で炊き上げるご飯を、景色を見ながら楽しむことができる。
酒造所、文楽酒蔵とのコラボで、日本酒の楽しみ方を提案する「東蔵」や、軽井沢の別荘に住まう人たちが日常的に使えるベーカリー&レストラン「沢村」も賑わいをみせる。「松原庵」は、築80年の古民家を再生させた鎌倉から発信したブランドだ。
このように、伝統の食文化と新しい食材、和モダンな空間と四季の風景、新進気鋭の作家と美味しい調理の提案など、さまざまな価値がしなやかにつながり、新スタイルの提案となっているのが特徴的だ。
地元のいいものを地元で──。これが第1ステップだとすれば、その次のステップが「その地で育んだブランドを日本へ、世界へ」という考え方である。
東京ミッドタウンや渋谷ヒカリエ、新丸の内ビルディングといった商業施設、青山や麻布といった感度の高い街に、すでに各ブランドが出店を果たし、東京の人々にその魅力を伝えている。「酢重」ブランドは、シンガポールにも出店した。
無理のない空間づくり。大切な人を自宅に招くように–
「フォンス」が経営する店舗は、長野や鎌倉など、地域の食文化や特色を反映したものとなっている。さらに、空間づくりから調度品ひとつをとっても、それらがバランスよく調和している。そこには価値の押し付けもなく、奇抜なデザインや過剰なサービスもない。各ブランドに息づいているのは、軽井沢の四季にふれ、新鮮な空気を呼吸しながら、季節の食材や工芸品に囲まれて育ってきた小山氏の感性そのものである。
「無理のない、自然なものが好きなんですね。器ひとつ、椅子やテーブル、カウンターの木材を選ぶときも、いつもシンプルなものに惹かれます。伝統的なよさをねじ曲げたり、尖がった新しい価値を追いかけることにも興味はありません。普通にいいものを、無理なく普通に提供していきたいんです。お店の名前をつけるときも同じです。軽井沢のベーカリー『沢村』は、店舗のすぐそばを川が流れているから。鎌倉の『松原庵』は、その地域の昔の呼び名をそのままいただいたんです。深く考えていないんです(笑)」
無理のない、自然なものを積み上げて、一つひとつのブランドをつくりだしてきた。だから、その空間はとても居心地がよく、深呼吸したくなるほど快適だ。
「空間づくりの考え方は、店をつくるのではなく、家をつくる感覚なんですね。昼も夜も、1年を通してそこで心地よく過ごすためには、どんなレイアウトがいいのか。光と風が差し込む窓は大きい方が気持ちがいいし、風景を望むいちばんいい場所にダイニングをつくって、そこに大切な人を招く。料理は、地域のいいものを、そこで出会った作家の器に添えて。そうなれば、もちろん媚びるようなおもてなしは似合わない。自然体のサービスになりますよね」
大切な人を自邸に招くように──。 この考え方をシンプルに、そして突きつめて表現しているのが各ブランドの空間であり、サービスなのだ。
自分たちが納得できる仕事を、
個性を尊重する組織で
東京ミッドタウン、「酢重ダイニング 六角」のエントランスには、信州から届いたばかりの特選米が重ねられている。また、軽井沢の特産物や作家による器などが並べられ、もちろん、その場で購入することもできる。テーブルにつくまでに、軽井沢のいいものにふれるよろこびを味わえて楽しい。
オープンキッチンでは、信州のお米が銅釜で炊かれている。カウンター正面には、実際に料理で使われる軽井沢の味噌や醤油が入った甕が並ぶ。
広々とした空間からは、ミッドタウンの芝生が見下ろせ、ゆったりと配置されたテーブルで美味しく食事を楽しめる。
スタッフたちの自然な振る舞い。大切な人を自邸に招いているという認識を、それぞれのポジションで表現しているのが分かる。
「自分たちが本当にいいと思える食材を提案し、納得のいくことをやっているので、それが仕事にも生きているのだと思います。スタッフが他店に異動すると、お客様もわざわざそのお店に行って、贔屓にしていただいたり。人と人との距離間が近いのが、私たちのサービスの特徴かもしれませんね。また、業態によっては制服のカラーを選べたり、きちんとした意見を言えるフラットな組織で、個性や自由を尊重する社風となっています。各ブランドごとに複数の責任者を立て、運営について活発に議論を交わさせたり、民主的な組織づくりを行っているんですよ」
地域の特色を反映した飲食店を地元で立ち上げ、次のステップとして全国へ展開させる。この秋に登場する新ブランドは大阪への初出店となる。そして、世界へ──。
「大切な人を自邸に招くという気持ちは、世界で通じると思うんです。日本が持っている素晴らしい食文化を、私たちの気持ちを乗せて世界へ発信していきたいですね」
地域の食材、食のスタイル提案、新旧食文化の融合、作家の創造力など、さまざまな要素がリンクし、つながりあって世界を魅了しようとしている。
【取材店舗】酢重ダイニング 六角
株式会社 フォンス
─ 店舗情報 ─
■酢重ダイニング 六角
住 所:東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガレリアガーデンテラス2F
電 話:03-5785-1717
■酢重正之商店
住 所:長野県北佐久郡軽井沢町軽井沢1-6
電 話:0267-41-2929
■酢重ダイニング 渋谷ヒカリエ店
住 所:東京都渋谷区渋谷2-21 渋谷ヒカリエ6F
電 話:03-6434-1555
■鎌倉 松原庵
住 所:神奈川県鎌倉市由比ガ浜4-10-3
電 話:0467-61-3838
■酢重ダイニング 新丸の内ビル店
住 所:東京都千代田区丸の内1-5-1 新丸の内ビルディング5F
電 話:03-5224-8686
■ベーカリーレストラン沢村 広尾店
住 所:東京都港区南麻布5-1-6 ラ・サッカイア南麻布1・2F
電 話:03-5421-8686
■軽井沢 川上庵
住 所:長野県北佐久郡軽井沢町軽井沢6ー10
電 話:0267-42-0009
■欧風小皿料理 沢村
住 所:東京都千代田区丸の内1-5-1 新丸の内ビルディング7F
電 話:03-3240-0033
■青山 川上庵
住 所:東京都港区南青山3-14-1
電 話:03-5411-7171
■Japanese Restaurant SUJU
住 所:333 Orchard Road, #04-05 Singapore 238867
電 話:65-6737-7764
■他店含め、直営店計18店舗
文:高木 正人 写真:yama
2012年11月01日 掲載
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