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東京レストランツファクトリー 株式会社
代表取締役 渡邉 仁
大転換期の今がチャンス
世界の中の自分の立ち位置を把握して
日本人というブランドを生かそう
渡邉 仁
– Hitoshi Watanabe –
1971年、福島県生まれ。2002年独立、会員制バー「ホームズバー48」をオープン。2003年6月、東京レストランツファクトリーを設立。以後、高級焼鳥ブームの先駆けとなった「鳥幸」、日本酒の温度飲みを広めた「ぬる燗 佐藤」など、多彩な演出で新業態を続々と生み出す。海外にも店舗展開し、ミシュラン1つ星を獲得するなど繁盛店の地位を確立している。
2023年1月掲載
料理人をクリエイターとして尊重しながら
一緒にものづくりを進めるのが発展のカギ
実は15年ほど前にも、渡邉氏にはインタビューを受けていただいている。初めて手がけた会員制バーに続き、当時、4店舗目となる本格和食の店を立ち上げたばかりの頃だ。急成長モードに入った、勢いのある組織のリーダーとして登場している。
あれから年月を重ねて、現在では国内47店舗、海外3店舗を展開。飲食店の運営のみならず、ホテル・旅館の受託運営や通販事業など、事業範囲も拡大している。この大きな飛躍への足掛かりはどこにあったのだろうか。
「料理長たちの力があったからです。そこで、生み出したブランドが『鳥幸』。ちょうど12年前のことです。職人たちも一緒になって、高級焼鳥のブームを起こそうと奮起しました。それが見事に潜在ニーズを掘り起こし、急激な成長につながりました」
今もなお、空前の高級焼鳥店ブームは続いている。先駆けとなった「鳥幸」は現在、7店舗を数える。
「会社として広く認知されると、いろいろな業態からお声がけいただくようになりました。次に、もう1つの成長の柱をつくろうと、日本酒の温度飲みを掘り下げたのが『ぬる燗 佐藤』です。これもまた好評を得て、店舗展開に至りました」
揺るぎない基盤を築き、さらなる発展を遂げていく。その根底を支えるものを、渡邉氏は“人”と結論づける。
「料理人をクリエイターとして尊重し、一緒にものづくりに取り組んできたこと。これが、当社の一番の強みです」
実業団バスケットチームの創立・運営など
飲食業界の枠を超えた手法で人材を育成
人を大切にする組織であればこそ、人材育成にも力を注ぐ。飲食業界の枠を超えたユニークな手法を取り入れている。実業団バスケットボールチームの運営も、その1つ。
「日本の学生のバスケ人口は多いのですが、プロになれる人はほんの一握り。社会人になっても続けていきたいという人はとても多いのです。そして野球やサッカーと違って、バスケットは区民館などで練習できるので、施設面でのハードルが低いのです。そこで、実業団チームをつくりました。バスケをしたくて入社してきた彼らは、みんな明るくて一生懸命。しかも、背が高くてかっこいいので、人気が出ます。お客様の方から、試合の応援に来てくれたりするくらいです。ランチ営業をしない居酒屋などでは昼間に練習できるので、理にかなってもいるんですよ」
現在は新型コロナの影響で活動を休止しているが、自社運営の劇団を創設したことも。アルバイトスタッフに役者志望が多く、彼らに働きやすい環境を提供するという目的もあってのことだが、そればかりではない。他のスタッフに向けても、演劇的要素を取り入れた接客指導を行なっている。
「たとえば、焼鳥の焼き師には焼き方のイロハをはじめ、周りを見る目線の高さから、凛とした日本男児のかっこよさの表現まで教育しています。カウンタービジネスはお客様とのコミュニケーションがあってこそ。お客様1人ひとりの顔色や食べるスピードを見ながら焼いていくのはもちろん、お客様が舞台を鑑賞するように見られている自分を演じなければなりません。カウンターの中に入って、営業スタートとなった瞬間にスイッチを切り替えられるか。裏方というより表に出る仕事なので、タレント性も必要です。お客様にいかに楽しんでいただけるか、エンターテイメント性を追求してもらいたいですね」
セレブが集う高級和食店「Zuma」と提携
世界を舞台に活躍したい人の夢を後押し
2022年10月、東京レストランツファクトリーは新たなプロジェクトを開始した。世界中に展開する高級和食レストラン「Zuma」と業務提携。「Zuma」の各店舗で活躍する人材を育成し、海外へ送り出そうという取り組みである。
「『Zuma』は世界中のセレブが集うレストランです。今回の提携で世界への扉が開かれました。まずは、当社で1、2年研修を受けて和食を学び、その後、自分の好きな国へ行って活躍してください。21カ国にあるので、ロンドンでもニューヨークでもドバイでもいいでしょう。海外に飛び出して、世界を舞台に日本人の価値を体感してもらいたいと思っています。海外では和食はエグゼクティブが楽しむもの。和食の料理人はステイタスがあり、広く認められています」
海外で働くことは、自分の人生を彩る貴重な経験となるだろう。また、日本より給与水準が高い国も多く、円安が進行する現在、大きな恩恵を受けられるに違いない。
「日本で月給20万、30万円くらいだった人がニューヨークで200万円稼げるように、そんなサクセスストーリーも描けます。年収数千万円のレベルもすぐに達成できるでしょう。お金だけではないですが、今のニューヨークの寿司職人の市場価値はすごいですよ。日本人が店を開きたいといえば、スポンサーもつきやすい。ましてやミシュランの星でも取ったら、世界から引く手あまたです」
ただ、どんなに魅力的な条件が揃っていても海外に飛び出すことに漠然とした不安を感じる人も少なくないはずだ。渡邉氏は、そんな不安やハードルとなるものを解消する体制があることを強調する。
「ビザの取得など海外渡航の手続きは全部サポートします。現地では寮も用意しています。英語がしゃべれなくても大丈夫。心配な人には渡航前にきちんと指導しますし、キッチン・イングリッシュは必ず耳に入ってくるので、自然に覚えられます。ここまでお膳立てしているのですから、少しでも興味を持たれた方は当社の門を叩いてみませんか」
日本人の価値はどこにあるのかを理解して
アイデンティティを持って前に進もう
現状では、厳しいイメージを持たれがちな日本料理を志す人は減少傾向。調理専門学校でも、イタリアンなど洋食を専攻する若者たちが多数を占めている。
「今はもう徒弟制度のような修行をする時代ではありません。寿司職人を目指すにも、勘のいい人なら半年くらい学べば海外に出ていけます。それなのに、職人の皆さんはなかなか行こうとしない。逆に、中国や香港、韓国の人たちが和食を学びたいとやってきています。こうして日本の優れた技術を世界に流出させているのです」
縮小する日本社会で生き残っていくには、今後、観光立国となり、インバウンド需要に頼らざるを得ない。そういう時代背景も踏まえて、将来設計を考え直す必要がありそうだ。
「いつか小さな店を持ちたいというような夢も、今や成り立たなくなってきています。シュリンクする社会の中でマーケットのパイは限られます。海外の人たちをお客様として受け入れていかなければなりません。かっこいいイタリアンや人気のカフェを選ぶのもいいけれど、本質はそこではない。日本人として生まれてきた価値はどこにあるのか。海外からの観光客が日本人のつくったイタリアンを食べたいのかというと、そうじゃないですよね」
フレンチやイタリアンなど洋食経験者の転向も大歓迎。実際に、マンハッタンで運営する『MIFUNE New York』のシェフもフレンチ出身で、各方面から高い評価を獲得している。
「まずは和食を学んでから海外に出れば、外国人の口に合わせられるでしょう。経験者の方なら、そういう目線を持てるはず。和食にいろいろな発想から創作アレンジをして、料理の幅も広げられます。帰国後も経験を活かしてインバウンド客の取り込みができますし、中にはニューヨークや香港で独立して成功している人もいます。当社のネットワークや商品構成などのナレッジを活用した上で、海外で日本人に求められるものは何なのか、弱みと強みを理解して、日本人としてのアイデンティティを持って前に進んでいってもらいたいと思います」
信州善光寺の業務委託が本格スタート
“使う文化財”として日本の魅力を発信
「日本のファンをつくる」を東京レストランツファクトリーはミッションとして掲げる。また異なる形で、それを実現するための取り組みも着々と進んでいる。2023年3月、信州善光寺薬王院の業務委託がいよいよ本格スタートする。
「日本の観光ビジョンとして、見る文化財から“使う文化財”に変えていくという方針があります。たとえば、今まで見て楽しんできたお城やお寺を宿泊施設として活用するというものです。ところが、後継者不在のところも多く、プレイヤーが存在しない。そこで、当社が手を挙げ、善光寺の宿坊を運営することになりました。日本の大切な文化を守るお手伝いです。海外からの旅行者を中心に、お寺に泊まって写経をするなど様々な体験コンテンツを用意しています。とくに料理に力を入れて、朝粥に始まり美味しい精進料理まで提供します。海外に関心がないという方には、こういう活躍の場もあることを知っていただきたいですね」
一方、渡邉氏自身の現在の目標は? と問えば「寿司職人!」。スタッフに教えを乞い、魚の卸し方なども一から学び、本気で取り組んでいるという。
「だって、楽しいじゃないですか。パリッとした佇まいがあり、かっこよくて、海外の人からも尊敬の眼差しで見られる。仕事として大いに魅力があるし、日本の文化を発信できるのですから」
ともあれ、今は大転換期。誰もが新しい何かにチャレンジして、大きく変われる好機であることに間違いはなさそうだ。
「コロナを経て外食バブルが淘汰されて、本物しか残らない時代になりました。この2、3年、ずっとしゃがみこんで、いろいろと整理して準備してきたことが認められ、やっとスタートに立つことができました。せっかく今の時代に生まれたのだから、世界の中の自分の立ち位置を知っておいたほうがいい。日本人というブランドを生かして、自分の価値を最大化するチャンスです」
やきとり 荒木山 東急プラザ渋谷店(取材店舗)
東京レストランツファクトリー 株式会社
─ 店舗情報 ─
やきとり 荒木山 東急プラザ渋谷店
住 所:東京都渋谷区道玄坂1-2-3 東急プラザ渋谷7F
電 話:03-3940-6180
現在、上記含め50店舗展開中
文:西田 知子 写真:ボクダ 茂
2023年01月05日 掲載
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