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株式会社 自遊人
代表取締役 岩佐 十良
地方の飲食の世界はまだまだ未開拓
“本気のレストラン”をつくれるか
広大な大地でゼロイチのクリエイティブに挑む
岩佐 十良
– Toru Iwasa –
1967年、東京都生まれ。大学在学中に、株式会社 自遊人を創業。2000年、「自遊人」を創刊し、編集長に。2002年、日本全国の美味しくて安全な食を提供する『オーガニック・エクスプレス』をスタート。2004年、活動拠点を新潟県南魚沼市に移転。2014年、同県大沢山温泉に『里山十帖』を開業。以後、『講 大津百町』『箱根本箱』『松本十帖』をオープン。ライフスタイル提案型複合施設、ローカル・ガストロノミーという新たなジャンルを開拓する。
2022年11月掲載
飲食店も宿泊施設もリアルメディア化
各方面から注目を集めて高い評価を獲得
ライフスタイルマガジン「自遊人」の出版をはじめとして、雑誌連動型の食品販売事業『オーガニック・エクスプレス』から地方創生のプロデュースまで、株式会社 自遊人は多彩な業務を展開してきた。中でも、各方面から注目を集めているのが自遊人ホテルズ。現在、4つのエリアでホテル、レストラン、カフェを運営している。宿泊施設としては初のグッドデザイン賞「ベスト100」に選出され、ミシュランガイドでも星を獲得するなど数々の賞に輝き、高い評価を得ている。
ところが、代表の岩佐氏は「飲食業も宿泊業もやっている感覚はありません」とのこと。では、いったい何業なのか? その答えは明快だ。
「あくまでも、メディア業です。そのつもりでやってきました。もちろん表面的な見え方としてはホテルや飲食店になると思いますが、一般的な飲食業やサービス業の方々とはベースとなる部分、立ち位置が異なります」
オーガニック食材などの商品や宿泊施設も、雑誌やインターネットでは届けられない情報を伝達する手段の1つ。『リアルメディア』と位置付けている。
「たとえば、多くのレストランではお客様が召し上がりたいメニューを用意して、お客様の好みの味に調整して、お客様に提供する、すべてはお客様ありきですよね。私たちがやっているのはその逆で、私たちが伝えたいことを料理にのせて、お客様に提供するという形です。私たちにはつくりたい料理がある、それをどう表現すればお客様にご理解いただけるのか、どうすれば伝えられるのかを考えるようにしています」
プロの料理人、サービスマンが力を発揮
世界観を生かして私たちの世界に巻き込む
お客様第一主義を掲げて日々を送る飲食業界の人たちには、すんなり受け入れがたい考え方のようにも思われる。しかし、岩佐氏は自遊人こそ飲食のプロフェッショナルが力を発揮できる場と主張する。
「とくにサービスの方は入りやすいはずです。プロのサービスマンは料理の説明をするのにも通り一遍ではなく、お客様に応じて接客の仕方を変えていますよね。シェフが何を伝えようとしているのかを考えるように、私たちの世界観がどうすれば伝わるのかを考えて、お客様をその世界に巻き込んでいけるでしょう」
一方、料理人にとっても合点がいく。これまでの料理との向き合い方が変わるきっかけを与えてくれるかもしれない。
「お客様の好みに応じて右に行ったり左に行ったり、経営者からはお客様に合わせるのが当たり前だと言われたり、いったい自分は何をつくりたいのだろうと思ったことはありませんか。そんなときこそ、自分たちの伝えたい世界観を生かせばいいのです」
ただし、ともすれば独りよがりに陥る危険性もある。そこには揺るぎない、確固たる世界観が求められる。
「いちばん大切なのは何を伝えるか。自分がつくりたい料理や自分が提供したいサービスのためではありません。料理人にとってもサービスマンにとっても、レストランは自己実現の場ではないのです」
大それた目標ではなく今日より明日、
明日より明後日と自分の中で上を目指そう
そこで、確かな世界観とともに不可欠になるのがチームワークだ。岩佐氏は強固なチームを築くためのスタッフ教育に力を注いでいる。
「毎月1回、今の会社の方向性や社会の動向、各施設の売上まで全社員に向けてすべて話します。各施設で朝から晩までミーティングを行なったり、ゲスト講師を迎えて勉強会を開いたり、夜には懇親会もあります。2ヶ月に1回くらい、優秀なスタッフを選抜した1泊2日の研修や他社との合同研修なども行なっています」
その他にも、マネージャーミーティングや海外の一流レストランを体感する研修を実施。様々な学びと実践の機会が充実している。
目的意識を持ち向上心が強い人にとっては、願ってもない環境と言えるだろう。岩佐氏は次のような人材像を描いている。
「一言でいえば、上を目指す人であってもらいたいと思います。『上』というのは世界のベストレストラン50に入ることやミシュランガイドの星に限りません。自分の中で常に上を目指すという意味です。現状の自分に満足せず、より美味しい料理をつくりたいでも、新しい味覚の世界を追求したいでもいい。サービスのスタイルは時代によって変わるものなので、新しい時代のサービスを追い求めていきたいでもいいでしょう。いずれにせよ、今日より明日、明日より明後日と日々変化し続けることです。明日のほうがいいと思えるのは、今日何かにつまずいたとしても、それを乗り越えようとチャレンジしていることなのですから。大それた目標を掲げなくても、その乗り越えた先に、もしかするとミシュランの星が見えてくるかもしれません」
自分を開けば先輩方がいろいろ教えてくれる
そこに響くものを見つければ成長できる
そんな岩佐氏の言葉を裏付けるかのようなスタッフのエピソードは「毎日、転がっている」とのこと。現在、『里山十帖』の料理長を務める桑木野恵子氏とのストーリーもその1つ。
「シェフに抜擢する前のことです。『私はミシュランの星とか、賞とか一切興味がない。そんなものをとることに意味があるとは全く思えない』と言ったのに対し、私がすごく叱ったそうです。『賞をとってもいなければ、とれもしない人間が、興味がないとか、意味がないとか言うな。とってから言え』と。実は、あまり覚えていなかったりもするのですが(笑)、当時は料理の構成力も表現力もない、箸にも棒にも掛からないほどの技術力でした。とれるレベルになってから言うべきだろうということです。そのときはケンカになってしまったのですが、本人は私の話をもっともだなと思ったそうです」
その後、桑木野氏がミシュランの星の獲得をはじめ、数々の栄誉ある賞を受けているのは周知のこと。今では、自分からスタッフたちにこのエピソードを語っているという。
「スタッフの定着率がいいとよく言われるのですが、信頼関係が成り立っているからではないでしょうか。信頼してもらえれば、先輩方がいろいろな話をしたり、教えてくれたりするもの。そこで自分に響くものを見つけられれば成長でき、続けていけるはずです。あとは、自分を開くか閉じてしまうか、にもよりますよね。殻にこもらず、アグレッシブに開いて、根を張ってもらいたいですね」
日本には素晴らしい食文化と食資源がある
地方のレストランの可能性は無限大
現在、自遊人の本拠地は新潟県南魚沼市にある。岩佐氏が東京・日本橋から住まいとオフィスを移したのは2004年のこと。今でこそ地方創生が声高に叫ばれているが、時代に先駆けての移転だった。
「日本は全国各地に豊かな食文化があります。優れた食文化と素晴らしい食資源を合わせて、自分のクリエイティブの中にどう昇華させるか。ところが、残念ながら地方ではこれを表現できているレストランは圧倒的に少ない。そもそも、できると思っている人が少ないからです。料理やサービスを本気で追求するレストランは地方では成立しないと考えているのです。ちゃんと理解をして、お金を払ってくれるお客様はいないからと。それなら、呼べばいい。今は世界中から日本の食を求めて人が集まる時代なのですから、呼ぶための努力をしようじゃないですか」
ここ数年、少数ではあるが、地方にも高い評価を受ける人気店が現れてきた。岩佐氏の言う“本気のレストラン”がいよいよ脚光を浴びることになっていくのか。
「地方のレストランの可能性は無限大です。『楽しいものは新潟にも、箱根にも、松本にもありますよ』と伝えたいですね。私たちには、料理はこうでなければというような呪縛が全くありません。ゼロからイチを生み出すのは大変なことですが、自由に表現ができます。ゼロイチのクリエイティブをつくりあげ、きちんと評価されるところも出てきています。あとは、命がけで“本気のレストラン”が何軒できるか。今後、地方は大きく変わっていくはずです」
いずれは地元で自分の店を、と考えるなら
今からでも地方で働いたほうがいい
一方、リモートワークの普及などから、地方移住に関心を持つ人は若者を中心として増加傾向にある。飲食業界では、都心で働きながらもいずれは地元に戻って、自分の店を開きたいと考えている人も少なくないようだ。
「『命をかけて』なんて言われても、そんなの怖くてできないよという人は、とりあえず自遊人で試してみませんか。将来、田舎に戻りたいと考えているなら、今からでも地方で働くべきです。東京で何年も働いて、海外にまで修業に行ったりして、その後、いきなり地方で開業するというパターンだけはおすすめしません。レストランを繁盛させるのは、東京でも地方でも甘くありません。地方には地方のビジネスの仕方があるので、まずはどこかでその経験を積んでおいたほうがいいでしょう」
東京生まれで東京育ち、実は東京が大好きという岩佐氏。それでも、「今、チャンスをつかみたいなら地方」ときっぱり言い放ち、地方へと誘う。
「地方の飲食の世界は未開拓、宝の山です。やっと開拓が始まったばかりで、まだまだ広大な大地が広がっています。どこで何を始めるにしても、選り取り見取りの中で、ゼロからイチをつくることを目指しませんか」
箱根本箱
株式会社 自遊人
─ 店舗情報 ─
箱根本箱
住 所:神奈川県足柄下郡箱根町強羅1320-491
電 話:0570-001-810
里山十帖
住 所:新潟県南魚沼市大沢1209-6
電 話:0570-001-810
講 大津百町
住 所:滋賀県大津市中央1-2-6
電 話:0570-001-810
松本十帖
住 所:長野県松本市浅間温泉3-13-1
電 話:0570-001-810
現在、4店舗展開中
文:西田 知子 写真:吉川 綾子
2022年11月28日 掲載
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