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株式会社 花山うどん
五代目 橋田 高明
飲食人が考えることをやめたら終わり。
常にアンテナを張って考えよう。
橋田 高明
– Takaaki Hashida –
1979年、群馬県出身。高校卒業後、建築会社に10年間勤務。27才のとき、家業である老舗うどん店に転身。2013年に「鬼ひも川」を復刻させ、「うどん天下一決定戦」第1回グランプリを獲得。その後、3年連続1位に輝き、殿堂入りを果たす。2016年10月、銀座に初出店。アゼリアモール店、羽田国際ターミナル店、伊香保石段店に次いで、今秋、日本橋店のオープンを予定している。
2021年10月掲載
明治創業、125年の歴史を誇る老舗
50年の時を超えて「鬼ひも川」を復刻
明治27年創業、125年の歴史を誇る老舗「花山うどん」は群馬県館林市を発祥の地とする。5代にわたって暖簾を受け継いできた橋田氏は、その背景を次のように語る。
「館林は日清製粉の発祥の地でもあり、さらには上皇后美智子様の実家である正田醤油もあります。お醤油と小麦が揃えば、必然的に製麺メーカーも多くなり、独自の小麦文化が発展してきた土地柄です」
郷土の数ある名産品の中でも、広く知られているのが「ひもかわ」。薄く伸ばした幅広の麺のことであるが、「花山うどん」の名物「鬼ひも川」の幅は半端ない。見た目のインパクトもさることながら、独特の食感や味わいに魅了される人が後を絶たない。
この看板メニューを編み出したのが、他ならぬ5代目の橋田 高明氏。2代目が開発した麺を現代に復刻させたのだ。
「倉庫整理をしていたら、昔の『鬼ひも川』のパッケージが出てきたのです。“鬼”という文字がおもしろいなと思いながらも、今でもよく使う“すごい”“とんでもない”という過大表現だろうとすぐに想像がつきました。3代目の祖父に聞いてみると、ものすごく幅の広いひもかわで、大正から昭和30年代まで売っていたとのことでした。そこで、その麺を復刻させようと思いつき、仕事の傍ら取り組み始めました。当時の製造日報は勺など昔の単位で書かれているので大変でしたよ。それでも、なんとか日報の通りにつくってみたのですが、厚みがあって食べづらい。廃盤になったのはこれが原因かなと感じ、さらに試行錯誤を繰り返しました。どんどん薄くしていくと、モチモチとした美味しい麺が完成しました」
50年の時を経て息を吹き返した麺をひっさげて、橋田氏はうどん日本一を決める「うどん天下一決定戦」に挑戦。見事に第1回グランプリの栄冠を手にする。のみならず、その後、2回3回と連続1位を獲得。三連覇を成し遂げ、殿堂入りを果たした。
完全優勝の評判はすぐさま全国に広がり、一躍有名店へ。2016年には、ついに東京・銀座に進出する。
「今では『鬼ひも川』も定着して、みなさんに美味しいと喜んでいただいています。うどんのいい点は、世代や年齢を問わずに召し上がっていただけるところ。ビジネスマンやファミリー、女性同士の来店も多いですし、客層はとても幅広いですね。おかげさまでオープン以来、集客に苦労したことはありません」
歌舞伎座の目と鼻の先、名だたる名店がひしめくエリアに立地しながらも行列必至。今や、すっかり人気店として知れ渡っている。
古き良きものを大切にしながら
加速する時代の流れに合わせて変化する
これまでの道のりを振り返れば、いかにも生粋の飲食人、腕利きの5代目という印象を受ける。ところが、橋田氏は家業を継ぐことにあまり乗り気ではなかったとのこと。飲食とは縁遠い異業種の世界に10年間、身を置いていた。
「27才まで建築会社で職人として働き、将来は建築関係で独立したいと考えていました。ただ、姉が2人の3人きょうだい。好きなことをずっとやらせてもらっていたし、姉には迷惑をかけられない。もう仕方ないかというような気持ちでした」
初めは不承不承、覚悟を決めての転身ではなかったようだ。しかし、脈々と流れる血筋のなせる技か、たちまち麺づくりに夢中になっていった。
「もともと飽き性ではないですし、ものづくりが好きなのでしょうね。つくり方を覚えると楽しくて没頭しました。建築も飲食もつくって、お客様に『いい仕事だね』と喜ばれるのは同じ。ものをつくるという意味では一緒です」
名物麺が誕生する発端となった「倉庫整理」も、入社間もなく見習いのような立場で雑用を言いつけられて始めたことだった。その後、店舗運営を任され、新店舗開発にも着手し、確実に階段を上ってきた。現在の橋田氏の話しぶりからは、生き生きと楽しげに5代目として奮闘する姿が伝わってくる。
「楽しくないとやっていられないですよ(笑)。加速する時代の流れに、いかにアンテナを立てて引っかかれるか。古き良きものを大事にしながら、変えるべきところはどんどん変えていきます。今、運営している4店舗も全部コンセプトが異なり、メニューが同じ店は1つもありません。同じ店を出すほうが楽なのですが、それではおもしろくない。ルーティンの仕事にならないよう、常にアンテナを張り巡らして考えていきたい。そうすることが後々、自分のためにもなります。飲食人が考えることをやめたら終わりですよ」
スタッフに対しても密にコミュニケーションをとり、日ごろから考えることの大切さを説いている。最前線に立つ人を何より重視しているからだ。
「運営はどうしてもピラミッドになりますが、お客様側からすれば逆。学生アルバイトであっても、一番直に接する人です。たとえば、お客様が料理を残されていたら、量が多かった? しょっぱかったのかな? と考えてみることです。そういえば関西弁を使っていたと気がつけば、『これが関東の味です。お口に合わなくて申し訳ありません』とコミュニケーションをとることができます。ただ、”さばくだけ”の接客はしないでほしい。お客様1人ひとりの世界観に寄り添い、感謝の気持ちを忘れないでもらいたいと伝えています」
今秋、原点の地である日本橋に出店
適切な範囲でちょうどいい成長を続けたい
今秋、ついに橋田氏の念願が叶う。「花山うどん」の原点の地、日本橋に出店する。
「日本橋の乾物問屋で奉公していた初代が全国各地から集まる麺の文化に感銘を受け、地元の館林で製麺業を営んだのが『花山うどん』の始まりです。東京に出店するなら日本橋でと物件を探しましたが、再開発が進む日本橋では銀座以上に見つからず、3年近くかけてようやく実現しました。銀座店の麺と和食を合わせたコースや親しみやすいアラカルトなどのメニューに対し、日本橋店はより割烹系の本格的な日本料理をメインとする予定です。今はオープンに向けて、さらにメニューを精査しているところです」
経営を受け継いで以来、橋田氏は順調に店舗数を増やしてきた。今後、一層の拡大に進むのかと思いきや、フランチャイズ等の多店舗展開は視野に入れていないという。
「いたずらに拡げるのではなく、私たちの味を再現できる適切な範囲で拡げていきたいと思います。効率重視のセントラルキッチンをつくって、何十店舗何百店舗というような拡げ方をしたら、先代に叱られそうですしね(笑)。だからと言って、成長を止めてはいけないので、必要に応じてちょうどいい成長を続けていきたい。銀座や日本橋のような、多くの人が行き来するところに出店して、いろいろな意見を聞きたいですね。また、スタッフが多様な価値観に触れられるよう、海外にも出したいと考えています」
出店はスタッフの視野を広げ、働く人たちに新たな学びの場を提供するためのオプションでもあるのだ。
麺づくりや調理を習得するだけの専門店とは、ひと味もふた味も違う。小麦のスペシャリストを自認する橋田氏から奥深い知識を授かれば、選択肢が増え、未来の可能性を広げられるだろう。
「小麦はとても汎用性が高いもの。小麦を知ればいろいろなジャンルに応用が効き、小麦を知らなければパンもお好み焼きもコントロールができません。この規模の会社だからこそ、現場を知っている自分たちが間近にポイントを押さえて指導します。将来、パンケーキが人気のカフェを開きたいと思っているような方も、まずは小麦について徹底的に学んでみませんか。自分自身もそうでしたので、独立精神のある方は特に歓迎します」
五代目 花山うどん 銀座(取材店舗)
株式会社花山うどん
─ 店舗情報 ─
五代目 花山うどん 銀座
住 所:東京都中央区銀座3-14-13
電 話:03-6264-7336
花山うどん 本店お食事処
住 所:群馬県館林市本町2-3-48
電 話:0276-74-7766
五代目 花山うどん 伊香保石段店
住 所:群馬県渋川市伊香保町伊香保20
電 話:0279-26-8066
現在、上記他直売所含め5店舗展開中
文:西田 知子 写真:ボクダ 茂
2021年10月07日 掲載
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