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株式会社 リディファインダイニング
代表取締役社長 河村 剛臣
飲食店の未来を左右するのは「新たな価値を、どう生み出すか」
河村 剛臣
– Takeshi Kawamura –
1983年生まれ、京都府出身。大学卒業後不動産会社に入社し、ロードサイド専門の開発事業に従事。その後大手学習塾の出店開発、フランチャイズ事業、マーケティング事業に携わる。2010年に大学時代の友人らとともに株式会社センチュリオン設立。2016年、同社の飲食事業部門が独立する形で株式会社 リディファインダイニングを設立。都内を中心に居酒屋「もつ吉」、「とり吉」のほか、高級食パン専門店「どんだけ自己中」を展開する。
2021年6月掲載
心身を健やかに保つ秘訣は体を動かし続けること
京風もつ鍋店の「もつ吉」をはじめ、東京都内を中心に居酒屋事業やベーカリー事業を展開する株式会社 リディファインダイニングは、これまでに居酒屋業界だけでなく、飲食業界にさまざまな革命を起こしてきた。
始まりは2010年、荻窪にオープンした「もつ吉 1号店」。オープン当初は盛況だったものの、鍋を扱っていたため春夏シーズンになると客足が遠のいた。しかし社長の河村 氏は、自信の故郷である京丹後の鮮魚や地鶏、希少な京野菜を用いて既存のメニューに新たな価値を加え、それによりお客様の心をつかみ大繁盛店へと導いた。
その一例が、大ヒットメニュー「低温調理のレバ刺し」だ。2012年に規制されたレバ刺しを「どうしても食べたい」というお客様の声に応えるため、また、生レバーの余剰在庫を抱え困っていた取引先業者を助けるため、料理長がレバ刺しの低温調理を考案。加熱しても生レバーのような味わいを出すことに成功した。
また、無農薬・無ワックスの広島県産レモンを使った「皮まで食べられるレモンサワー」は、当時、レモンの買い手不足に悩んでいた農家のために作られた。香り高く栄養豊富なこのメニューは大ヒットし、その後の全国的なレモンサワーブームの先駆けとなった。
そんな同社は、飲食業界全体が大打撃を受けている今のコロナ禍を、どのように乗り越えるのだろうか。
「ほかの飲食店さんと同様に、はじめは手探り状態で情報法収集に奔走し、その後、Uber Eatsを使ったバーチャルレストラン(VR)事業や通販事業を始めました。また、うちの強みでもあるレモンドリンクの専門店を開いたり、自家製明太子を開発し商品化したりもしています。今は都の要請に従いながら、店も開けています」
開店すれば、売り上げ以上に人件費がかかる。しかし、赤字になってもそのほうがメリットが大きいという。
「このような状況下で長期にわたり休んでしまうと、精神的なバランスを崩してしまいがちです。社員のなかにも、だんだんとネガティブ思考になってしまうスタッフがあらわれるようになりました。幸い、店を開けても耐えられるだけの資金があったので、皆にできるだけ体を動かして健全な日常を過ごしてもらいたいと思い、オープンすることにしました」
「人・物・金」が集まるところに新たな価値のヒントがある
同社は居酒屋事業を中心としているため、コロナ禍で売り上げが落ちるのは避けられない。そんななかで経営を維持できるほどの資金を生んだのは、コロナ禍前から着手していたベーカリー事業だ。店の名は「どんだけ自己中」。今大流行している高級食パン専門店だ。同社は、荻窪や杉並のほか、甲府や富士吉田などにも展開している。
「ベーカリー事業を始めたのは、コロナ感染症が流行する1年ほど前でした。当時、業績が良くもなく悪くもない中途半端な店を、昼の業態にチェンジしようと考えていました。偶然にも弊社の店舗デザイナーがベーカリープロデューサーである岸本拓也氏と知り合いであったため、紹介してもらい依頼させていただきました。ベーカリーに生まれ変わったお店はマーケットにマッチし、おかげさまで大繁盛店になりました」
この店のコンセプトは、「どんだけ自己中?」と言われるまでこだわった、極上の食パン。小麦粉はもちろん、生クリームやバターなど一つひとつの食材にこだわり抜き、京都の老舗蜂蜜店「金市商店」の蜂蜜がすっきりとした品の良い甘さを生み出している。主なターゲットが40代から80代くらいまでの女性であることから、支持さえ得られれば売り上げの固いベースとなった。
プロデューサーの岸本氏は超売れっ子で、今から依頼してもオープンは一年後。そんなベーカリー事業をコロナ禍以前に始めていたというのだから、「先見の明」があったと言えるだろう。そんな河村氏は普段どんなアンテナを張り巡らせているのか。
「私はもともと不動産事業から飲食の世界に入っているので、常に飲食業界を俯瞰で見ているところがあります。今の飲食業界ではどんなものが流行っているのかをリサーチしたり、繁盛店には足を運んだりもしますが、飲食だけでなく音楽やアパレルなどもチェックして、常に『今、どういうところに人・物・金が集まっているか』をリサーチしていますね。それが代表である私の役目だと思っているし、ほかの飲食店を見ても、売れている店の経営者さんはしっかりリサーチしているなという印象があります」
また河村氏は、コロナ禍でも強さを見せる自社の経営について「自分の力だけによるものではない」と話す。
「たとえば今、もつ吉渋谷店では1200円食べ放題のランチビュッフェをやっていますが、この形式を考えたのは店長ですし、彼と料理長がラインナップを考えています。渋谷店の従来のお客様だったIT企業の方々がリモートワークでいらっしゃらないので、SNSのTikTokで有名なユーザさんを招待し、取材させてもらうといった戦略で告知をしました。その結果、現在は3時間で約60名ものお客様がひっきりなしに来店されます。皆がアイデアを出し合って戦略を考えた結果であって、僕がワンマンでやっていては実現できなかったと思います」
必要なスキルを身につければ
30代で1000万も十分可能
今後、飲食業界はどうなっていくのか――河村氏に、意見を聞いた。
「飲食業界全体として、以前は労務改善の問題が最重要課題として語られており、テイクアウトやVR業態への移行については『緊急ではないが重要』という認識が多くを占めていたと思います。でも、コロナ禍をきっかけとして、テイクアウトやVR業態への移行が『緊急かつ重要』な課題となりました。今後の飲食店の行く末は、店内・店外の展開や売り上げをミックスして、いかにして新しい価値を生み出すかにかかっていくと思います。つまり、これからは『おいしいものを提供する』だけでは厳しくて、商品一つひとつに意味や価値をつけて、それがお客様にちゃんと伝わることが大事になってきます」
さらに、コロナ禍で飲食店の工程は「簡素化している」とも指摘する。
「労働時間削減のため簡素化しつつありますが、簡素化を追求した結果、トマトを切って出すだけ、みたいなメニューもありますよね。でも、それだけではお客様は絶対に離れてしまうので、そこにどう付加価値をつけていくかが勝負だと思います。僕らも、社名の「リディファイン(再定義)」ではないですが、簡素化はしてもちゃんと商品に工夫を加え、付加価値をのせながら提供していきたいと思っています」
飲食業界で生き残るのは厳しい。しかし、河村氏は「まだまだ夢がある業界だ」と語る。
「飲食業界には時々『業界の地位を上げたい』とおっしゃる方がいるのですが、私はもともと違う業界から入ったせいか、地位が低いなんてまったく思ったことがないんです。ただ、地位が低いとおっしゃる方は不満を持っていて、その背景として賃金、年収が低いと感じていらっしゃるわけです。それについても、これまで若手を育ててきた経験から、必要なスキルセットを30代で身につければ、休みがちゃんと取れる労働環境で、年収800万~1000万もそれほど難しくないと思っているんです。今後は、既存の飲食のビジネスモデルではなく、『店内での売上』と『店外での売上』、つまりテイアクアウト、VR、通販等をミックスさせて新しいビジネスモデルを構築することで、ちゃんと稼げる若手をどんどん輩出していきたいですね」
もつ吉 渋谷店(取材店舗)
株式会社 リディファインダイニング
─ 店舗情報 ─
もつ吉 渋谷店
住 所:東京都渋谷区宇田川町31-1 HULIC&NewShibuya 8F
電 話:03-6416-5236
もつ吉 本店
住 所:東京都杉並区上荻1-10-4 広瀬ビル1F
電 話:03-3392-8606
もつ吉 西荻窪店
住 所:東京都杉並区松庵3-38-13
電 話:03-5344-9161
丸鶏自家解体 とり吉
住 所:東京都杉並区上萩1-15-13 柴ビル1F
電 話:03-6915-1994
高級食パン専門店 どんだけ自己中 荻窪店
住 所:東京都杉並区荻窪4-20-15 山田共同ビル 1F
電 話:03-6383-5353
高級食パン専門店 どんだけ自己中 甲府店
住 所:山梨県甲府市朝気1-9-6
電 話:055-268-2618
高級食パン専門店 どんだけ自己中 方南町店
住 所:東京都杉並区方南2-15-12
電 話:03-6383-1039
高級食パン専門店 どんだけ自己中 富士吉田市店
住 所:山梨県富士吉田市下吉田2-31-23
電 話:0555-25-6618
他店舗含め、現在11店舗展開中
文:瀬尾 ゆかり 写真:yama
2021年06月17日 掲載
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