予約の無断キャンセル、理不尽なクレーム、器物破損等々…
お客との様々なトラブルに対し 「泣き寝入りする必要はない」、
「お客と店は平等」を掲げ、様々な依頼に取り組み続ける
飲食店専門弁護士の第一人者、石﨑冬貴の実録連載!
研修中にコロナに感染した従業員が会社を提訴した
会社側に「安全配慮義務違反」が認められる可能性があります。
今回は、「社内研修によりクラスターが起きた会社への損害賠償請求事件」についてです。
この春からは、行動制限がなくなり、海外からの観光客の受け入れ、入国時の待機期間の免除なども始まり、ようやくコロナ禍の終わりが見えてきたように感じます(外国と比べるとまだまだですが)。
そうした中、コロナ禍で生じた様々な問題が表面化してきました。沖縄県のある会社において、従業員が「社内研修で新型コロナに感染した」として、会社を提訴したようです。請求額は2名で500万円。
研修が行われたのは2020年12月ということですから、確かにコロナ禍真っただ中です。当時のウイルスは、いわゆる「初期株」で、強い症状や後遺症もあった可能性があります。研修は約50平方メートルの部屋に50人が集められ、2人1組の対面状態で発声練習などを実施。マスク着用やパーティション設置などの感染対策もない状態で、午前11時から午後5時まで続いたとされています。この結果、約30人が体調不良となり、欠勤するに至りました。更には、従業員は会社側から、「病院での診察には保険証を使わないよう」に指示され、保健所の調査に対しても「会社名を隠すよう」に求められたそうです。
この会社は飲食業ではありませんが、私も、顧問先の飲食店から、「業務委託を受けている店舗で感染者が出て、委託元から風評被害について文句をいわれた」、「従業員がコロナに感染したが、その従業員と一緒に働いていた従業員が無償で検査を受けたいと言ってきた。」など、飲食店の現場での感染を巡る相談をたくさん受けました。オミクロン株に変わり一日何千人、何万人と感染者が出るようになってからは別ですが、初期のデルタ株の時期は感染者も少なく、重症化の恐れも高かったため、かなりデリケートでした。今回のケースもその時期の話ですから、罹患した従業員はもちろん、会社もかなり困ったのだと思います。
今回の裁判で会社側が主張するように、コロナは目に見えませんから、「どこから感染したのかはわからない」ケースがほとんどです。ただ、今回のようにクラスターが起きてしまうと、ほとんどの従業員は、そこで感染した可能性が高いといえるでしょう(飲食店で言えば「集団食中毒」のようなイメージです)。問題は「その中の誰が元々の感染者だったのかがわからない」ということです。今回、提訴した2人に限って言えば、もしかしたらその2人は元々、別のところで罹患していたかもしれません。仮に判決になれば、それをどう認定するのか難しいところです。
仮に、この2人が研修中に感染したと認定されたとすれば、後は簡単です。この時期は、感染対策を徹底すべきと叫ばれていて、そのためにどうするか(こまめに換気する、ソーシャルディスタンスを設ける、パーティションを設置する、マスクを徹底する、等)も分かっていましたから、実施しなかった会社側には「安全配慮義務違反」が認められる可能性が高いでしょう。飲食店にも示唆的な事件だと思います。最終的には和解で終わると思われますが、裁判の行方が気になるところです。
2022年09月29日 掲載
関連記事
飲食店の転職求人情報を探す

飲食店の日々のトラブルを弁護士が解決!

飲食店専門弁護士 石﨑 冬貴(Ishizaki Fuyuki)
1984年生まれ。東京都出身。東京弁護士会所属。
一般社団法人フードビジネスロイヤーズ協会代表理事。日本料飲外国人雇用協会理事。
賃貸借契約から、労務問題、風評被害、漏水まで、飲食店の法務を専門的に取り扱う弁護士の第一人者。
法律事務所フードロイヤーズ〒100-0006 東京都千代田区有楽町1-2-2東宝日比谷ビル9階
E-mail:ishizaki@foodlaw.jp URL:http://food-lawyer.net TEL:03-4540-6513 FAX:03-6850-8643