独立希望者必見!個人店オーナーからの熱いメッセージ
morceau(モルソー)
オーナーシェフ 秋元 さくらさん
チームというか、家族。 私は皆の母のような存在になりたい
秋元 さくら(Sakura Akimoto)
1980年、福井県生まれ。大学卒業後は客室乗務員に。4年半勤務した後、料理人の道へ。「MOND CAFE」や「MAURESQUE」などで木下威征シェフに師事。2009年、ソムリエの夫とともに目黒に「morceau」を開業し独立、2018年に現在の東京ミッドタウン日比谷に移転。
2020年3月掲載
CAから料理人に転身 どちらも軸は、人を喜ばせること
都心の複合商業施設、東京ミッドタウン日比谷に店を構える「morceau(モルソー)」は、オーナーシェフの秋元さくら氏が率いるフランス家庭料理が楽しめるレストランだ。店名の「モルソー」とは、フランス語で「かけら」の意味。美味しさと楽しさのかけらを提供したいと、2009年9月に目黒で創業。そして2018年3月、東京ミッドタウン日比谷の新規開業と同時に現在の場所に移転オープンを果たした。日比谷公園の緑を臨む窓からは、たっぷりの日差しが差し込み、白を基調とした明るい店内。フレンチをベースに、素朴さと繊細さが共存した料理を提供。絶妙な火入れを施したトロトロの半熟卵と、極薄のチーズを合わせたスペシャリテのオムレツはファンも多い逸品だ。
秋元氏は、客室乗務員から料理人に転身したという異色の経歴の持ち主。実家はスポーツ用品店を経営し、小さい頃から商売を身近に感じてきたという。客室乗務員を目指したのも、多くの人と出会い、もてなし、喜ばせる仕事がしたかったから。大学卒業後は、接客の最高峰の職業とも言える客室乗務員になった。高い競争率を勝ち抜き、華々しいイメージのある職に就いた秋元氏だが、なぜ、料理人へと転向したのだろうか?
「きっかけは、私が作ったオムライスを夫がとても喜んで食べてくれたことなんです。正直、大した料理ではなかったのに『おいしい、これで明日も仕事を頑張れる』と言ってくれて…。一生懸命作ったもので、こんなにも喜んでくれる、これを仕事にしたい! と思いました。料理人になると決めて、周囲には驚かれましたが、どちらの仕事も人を喜ばせることは同じ。それが空の上なのか、厨房なのかという違いだけ。私のなかでは軸はぶれず、違和感はありませんでした」
4年間務めた航空会社を退職し、辻調理師専門学校に。その後は、鉄板焼きフレンチの名店「AU GAMIN DE TOKIO」の木下威征シェフに師事。系列の「MOND CAFE」や「MAURESQUE」で研鑽を積んだ。
「木下シェフは、料理で人を喜ばせたいという思いの強い人。料理は愛情というスパイスで美味しくなる、知識や技術は後からついてくる、という考えに共感し、この人の元で学びたいと思いました」
約2年間の修業期間を経て、ソムリエである夫とともに、「morceau」をオープンさせた。秋元氏が目指したのは、イタリア料理に言われる「マンマの味」。家庭的で気取らない、どこかほっとするお母さんの味。そこにフレンチで学んだ繊細さ、季節感を織り交ぜた料理が身上だ。小さな店だが、地域に愛される店を目指した。今でこそ人気店として知られる「morceau」だが、開業当初は集客に苦労したこともあったという。
「地域の人に『いつも賑わっている店』と印象づけるために、友人達に協力してもらい、窓際の席に座っていてもらっていたこともありました。そうした来店しやすい雰囲気をつくり、来た人には全力でおもてなしをする。やがて、一人、また一人とお客様は増えていきました。そんな矢先に東日本大震災が起こり、もうダメだ、と思ったこともありましたが、どんな時も笑顔で、をモットーに乗り切りました」
8年半営業した目黒から
一大決心で日比谷へ移転
目黒の店は計8年半営業を続け、業績は常に右肩上がりだったという。オープン当初は客足もまばらだったが、最後の移転直前には、多くの人が訪れ、席は毎日2回転。それでも「席がなくても立ち飲みでも楽しみたい」と入店する人であふれるほどだったという。そんな折、その繁盛ぶりを見て出店オファーが舞い込んだ。
「長年営業をしてきたことでハード面でも修繕が必要な部分が目立ってきていたタイミングでした。加えて、スタッフの育成にも限界が来ていた。18席の小さな店でしたので、実力をつけてきたスタッフがいても、それを発揮できる相応のポジションを与えることが難しかったんです。私自身ももうすぐ40才という節目が見えてきて、新しいことに挑戦する良い機会だと捉えました」
移転後は店の規模も大きくなり、客層もガラリと変わった。同時に、今から約3年前には自身の出産も経験。現在は育児と仕事を両立している最中だ。秋元氏が店にいなくても問題なく営業ができる体制を整えたという。
「店の規模が大きくなったので、責任あるポジションを作り、実力のついたスタッフに任せる体制にしました。スタッフとしてもどんどん料理の腕やモチベーションも上げられる環境になったので、よかったと思います」
同店では、スタッフ皆が生き生きと働いている姿が印象的だ。その中心には、秋元氏の明るい笑顔がある。
「私が経営者として何より大切にしているのは、いつでも元気でいること。経営者は常に孤独だが、辛いときに暗い顔をしていれば、ついてきてくれるスタッフが不安になる。これは、同じく経営者である父ともよく話すことですね。店のスタッフが元気がなければ『どうした?』と声をかけますし、失敗もあまり叱らず、笑いながら次に活かせるアドバイスをします。私は皆の肝っ玉かあちゃんでいたいと思うんです」
秋元氏が考えるオーナーシェフとしての心得
01 とにかく明るく、元気でいること
02 違和感を見逃さず、臨機応変に対応すること
03 常に店を清潔に保つ、すると店に愛着が沸く
将来は小さな店を チームだからこそ芽生えた思い
現在は、都内でも有数の商業施設に店を構えるシェフである秋元氏だが、意外にも将来は”女将”のように一人で店に立ち、週に3日程度だけ営業する小さな店をやりたいという。
「今、スタッフは13名。このチームがあるからこそ、一人の店をやりたいと思うようになりました。もし1人ぼっちだったなら、1人の店をやりたいと思うことはなかったでしょう。私がいなくても、スタッフが店を立派に回してくれる。たくさんのスタッフが支えてくれることを実感し、もう家族みたいな感覚ですね。そんな頼りになるチームがあるからこそ安心して任せて、私がやりたいことができるんです」
morceau(モルソー)
住 所:東京都千代田区有楽町1-1-2 東京ミッドタウン日比谷 2F
電 話:03-6550-8761
時 間:11:00~15:00、18:00~23:00
定休日:無休
交 通:地下鉄各線「日比谷駅」より徒歩5分
文:大関 愛美 写真:吉川 綾子
2020年03月19日 掲載