独立希望者必見!個人店オーナーからの熱いメッセージ
LATURE
オーナーシェフ 室田 拓人
料理人としての社会貢献が 飲食業界の未来を変える
室田 拓人(Takuto Murota)
1982年生まれ、千葉県出身。武蔵野調理師専門学校卒業後、「タテルヨシノ」等で修業を積む。2016年に「LATURE」を開業。4ヶ月後には「ゴー・ミヨ」にて「明日のグランシェフ賞」を受賞。翌年「ミシュランガイド東京2018」で一つ星を獲得。
2019年1月掲載
食材が簡単に手に入る今だから 命をいただくことの重みを感じて
渋谷は青山学院のそばにあるフレンチレストラン「ラチュレ」。オーナーシェフの室田拓人氏は「タテルヨシノ」などのフレンチレストランで修業を重ね、2016年で独立。「ラチュレ」はオープン4ヶ月後に「ゴー・ミヨ」にて「明日のグランシェフ賞」を受賞。そして1年3ヶ月後には「ミシュランガイド東京2018」で一つ星を獲得し、早くもその実力を飲食業界に知らしめている。
室田氏いわく、「ラチュレ」という店名は〝自然の雫〟という意味をもつ。 「僕たちが食しているものはすべて自然からの恵み。その自然に敬意と感謝をもって、最高のおもてなしをしたい、そんな気持ちをこめています」 その言葉どおり、「ラチュレ」では放牧牛や山菜、野草、野生のキノコなど、できる限り手を加えずに育った食材を中心に扱う。なかでも特徴的なのが、ジビエだ。室田氏は自身もハンターであり、毎週のように山へ出かけ、食材を調達する。獲れないときは、室田氏のこだわりを理解してくれるハンター仲間から買いつけることも。
「たとえば、鴨。鴨ってどこにでもいますが、エサや環境で味が全く違ってくるんです。だけど卸業者から仕入れる場合、僕らは肉が獲れた場所を選ぶことができません。僕が8年前にハンター免許を取得したのは、自分で選んだ場所で獲れば、確実に美味しい肉が手に入るから。おかげさまで店には連日多くのお客様にお越しいただきますが、必ず美味しい肉をご提供できることが、お客様が評価してくださる理由のひとつだと思っています」
そしてもうひとつ、室田氏がジビエを扱う大きな理由がある。 「今、日本では野生鳥獣が増えすぎています。農家の方々が一生懸命に育てた作物がイノシシや鹿に食い荒らされ、その被害総額は200億円とも言われている。しかし動物たちが人里へ出てきた理由は、もともと人間が山を壊し、彼らの住処を奪ったからです。それなのに、野生鳥獣が悪者であるかのように報道し、殺処分し、捨てているのが現状。僕は、そんな動物たちを食べることがせめてもの償いだと思っています」
電話やネットで食材がすぐに届く時代。料理人こそ、猟をする意味があるという。
「撃った直後の動物って、あたたかいんですよ。そのぬくもりは命の重みと、『美味しく料理しなければ』という使命感を思い出させてくれます」
飲食店が生き残るためのヒントは
厨房にいるだけでは見つからない
自ら仕留めたジビエを、室田氏はこの上なく豊かで、深い味わいをもつフランス料理として生まれ変わらせる。プレゼンテーションはときに動物の毛皮を使うなど大胆でありながら、自然の景色を切り取ったかのように見事だ。これらが組み合わさり、ほかの店では体験できない感動を生み出す。
「僕らがご提供するのはあくまでフランス料理であり、ジビエ専門店というわけではありません。ですがジビエが特徴であることも確かです。僕は、これからの時代、飲食店にはこのような『何か特出したもの』、『得意なもの』が必要だと思っています。ただ美味しい料理を作るだけでは、生き残れない。美味しい店なんて、ごまんとありますから。いつか店を持ちたいと思うなら、料理の腕だけでなく、経営力やお客様が求めているものをつかむ力、時代を読みとる力を身につける必要があるでしょう」
室田氏はどのようにして、それらを身につけたのだろうか。
「常にあらゆることにアンテナを張り巡らせていますね。自然はもちろん、美術館や友達との会話、家族で出かけたときに見かけたもの…アイデアやヒントって、いろんなところに隠れているんです。厨房にこもっていては、なかなか見つけられないと思います」
「ラチュレ」のサイトを見れば、美しい料理の写真に魅了される。また店内の様子とともに、多数のメディア掲載、美食家著名人との交流などの〝プラスアルファ〟も知ることができる。
「お客様がお店を探すとき、料理の味やにおいまではわかりませんよね。だからこそ目で見て、文脈を知り、魅力を感じてもらうことが必要です。レストランのコンセプトを言葉で表す力、発信していく力も、お客様の心をつかむ大切な要素だと思います」
室田氏が考えるオーナーシェフとしての心得
01 常にアンテナを張り、料理につながるアイデアを探す
02 店や料理のことを言葉でしっかりと表し、発信する
03 社会貢献を通じて、飲食業界の未来を変えていく
子どもたちにフランス料理を教え 料理への憧れ、夢の場をつくる
室田氏に、今後の目標を聞いた。
「日本って、料理人の社会的地位が低く見られがちだと思うんです。給料が安い、労働時間が長いなど雇用する側の問題もあるけど、僕は料理人の側にも原因があると思っています。それは料理人がこれまで社会貢献をしてこなかったこと。外国では有名シェフともなれば発言権が大きいけれど、それはその人が十分に社会貢献しているからです。僕が同業者と飲んだりすると、みんな『働き手がいない』と嘆きますが、じゃあ自分は何をしているかというと、求人を出したっきり何もしていなかったりする。そうこうしているうちに、若い人たちの前にはもっと面白そうで、かっこいい職業が増えているわけです。だから僕ら料理人こそ、若い人が『飲食の仕事がしたい』、『この店で働きたい』と強く思い、憧れるきっかけを作ってあげなきゃいけない。『みんなが憧れる仕事』として飲食業を押し出していく必要があると思っています」 その第一歩として、室田氏は定期的に、子ども向けのフランス料理教室を開催している。飲食業界の未来をつくるのは、大人ではなく、今の子どもたちだからだ。
「役所の方に『ちょっとやらせてくださいよ』と頼み込んで(笑)、公民館で子どもたちと一緒にフランス料理を作っています。プロの包丁さばきや、食材を焼いたりする姿を初めて見た子どもたちからは、『かっこいい』、『やってみたい』という声があがる。このような取り組みを続けていれば、子どもたちが飲食業に対する憧れや夢を抱くきっかけになると思うんです。店にとって黒字にはならないけれど、長い目で見たとき、日本の食の未来には絶対にプラスになるはず。フードロス問題、獣害問題、いろんな角度があるけれど、僕たち料理人一人ひとりが未来に目を向け取り組んでいくことで、『皆が憧れる飲食業界』を実現できると信じています」
LATURE(ラチュレ)
住 所:東京都渋谷区渋谷2-2-2 青山ルカビルB1F
電 話:03-6450-5297
定休日:日曜日(毎月1回のみ日曜営業実施)
時 間:11:30〜13:30(L.O)
18:00〜20:30(L.O)
交 通:各線「表参道駅」より徒歩7分
各線「渋谷駅」より徒歩13分
文:瀬尾 ゆかり 写真:ボクダ 茂
2019年02月07日 掲載