独立希望者必見!個人店オーナーからの熱いメッセージ
銀座 みかわや
専務取締役 渡仲 晋平
「変わらない味」を根幹に「みかわや」の挑戦は続く
渡仲 晋平(Shinpei Tonaka)
1981年生まれ。「銀座 みかわや」創始者の孫。大学中退後、食品の製造・販売・卸業を行なう企業でサラリーマンとして働く。35才で退職し、株式会社 三河屋の専務取締役に就任。「銀座 みかわや」のフロアに立ち接客等を行いながら、同社の運営にも従事する。
2018年10月掲載
創業70年の洋食店「みかわや」迷いや失敗も歴史のひとつ
銀座にある高級洋食店「みかわや」。洋食店としては創業70年だが、さらにさかのぼれば明治20年(西暦1887年)、創業者の保坂芳次郎が、現在の銀座通りにある「和光」のとなりに「三河屋食料品店」を開業したのがはじまりだ。その姿は浮世絵師・四代目広重の「銀座繁昌之図」の中にも描かれている。
その長い歴史を思えば重厚な店構えを想像するが、店内はやわらかな照明や美しく上品な調度品、スタッフの明るい笑顔に包まれ、どこか懐かしくあたたかい空間が広がる。都会の真ん中にありながら、ここだけ時間がゆっくり流れる特別な世界のようだ。
メニューは「ビーフステーク」や「カツレット」など、昔ながらの洋食。一つひとつがシンプルかつ洗練され、「どこにでもある」料理だが、「ここでしか食べられない」味でもある。
「当店の歴史は、決して平坦ではありませんでした」。そう語るのは、専務取締役である渡仲晋平氏。
「戦後、銀座の飲食店は文明開化とともに発展してきました。私の祖父が『フランス料理みかわや』を創業したのは今から70年前ですが、当時フランス料理の認知度は低く、経営には苦労したそうです。祖父はフランス料理の真髄を守りながらも、それを日本人の口に合うように作るという仕事を地道に続けました。当店のグラタンはそのとき誕生した一品ですが、創業から10年ほど経ったころ、新聞記事にこのグラタンが掲載されたんです。その記事は、当時珍しく、また高嶺の花であったグラタンを『みかわやなら、比較的大衆的な値段で食べられる』という内容で、これをきかっけに注目が集まり、経営は上向いていきました」
その後、日本は経済成長を迎えた。
「当店もその恩恵にあずかり、最大4店舗にまで増えました。ところがバブル崩壊で経営は悪化。不景気からお客様の足も遠のき、店舗数を減らさざるを得なくなりました。これは、お金に踊らされた結果だといえるでしょう。このような苦い経験もまた、みかわやの歴史のひとつです」
紆余曲折を経たすえに
祖父への思いが決心させた
祖父から代々続く「みかわや」。その孫である渡仲氏が店に入るまでの道のりにも、紆余曲折があった。
「22才から10年間はまったく別の会社でサラリーマンをしていました。というのも、祖父には2人の息子がいましたが、私の父は次男。だから私が店に入る予定はなかったんです。長男は店の経営を、次男である私の父は仕込み場の運営を任されていていました。そんな事情もあり、私の叔父である長男が店を継ぐはずでした。ところが彼が体をこわしてしまったので、父が代わりに継ぐことになったんです」
30才を過ぎた頃、父から店に入るよう要請された。しかし渡仲氏は当初、戸惑いを覚えたという。
「当時の仕事にやりがいを感じていました。最初こそあまり好きじゃなかった仕事でしたが、もともと何かを始めたら徹底して打ち込む性分で、そのうちに仕事が面白くなっていって。自分で言うのもなんですが、よく働きました(笑)。しっかりと結果も出したので、工場勤務から会社直営店の店長に抜擢され、更に営業にもチャレンジして。そのままいけば最年少で営業所長になれる…というところで、父から連絡がありました」
渡仲氏はその2年後に退職。最終的に店を選んだのは、祖父への思いからだった。
「僕は祖父にとてもかわいがられて育ったんです。12才のときに亡くなって、何も恩返しができなかった。その祖父が大切にしていた店を、絶やしてはいけないと思いました」
渡仲氏が考える経営三箇条
01 伝統的な洋食を大きな幹としまっすぐ育てる
02 常にコスト意識をもつ
03 笑顔を忘れず、人を大切にする
誰よりも仕事に打ち込んで得た経営に必要な思考や手腕
サラリーマンから銀座の洋食店の専務へ。転身した当初は、一筋縄でいかないことも多かった。そんなとき、前職での経験が役立ったという。
「退職直前には、3千万の赤字だった営業所を1億2千万円の黒字にしました。そのときは、条件の悪い小売店との契約解除や商品の値上げなど大ナタをふるったのですが、決して直感的に行ったのではなく、取引先ごとに年単位で綿密な調査をし、問題点と改善策をクリアにしたうえで行いました。常にコスト意識をもつことの重要さはこの時に学びました」
そして特に役立っているのが、クレーム対応の経験だ。
「多くの方は、クレームに対応するとき、まず『こんな状況、あり得ない』と考えてしまう。だけど僕は逆で、『自分たちに非がある』と仮定したうえで対応し始めます。その意識をもって製造過程や流通などを自分自身で徹底して調べていくと、たとえ最終的に不良の原因がわからなかったとしても、お客様は納得してくださいます。また、その過程で、お客様が何に不満をもっているか、自分達の課題は何なのかということも見えてくる。つまりクレームって、チャンスなんです。今はお客様からクレームを頂くことはほとんどありませんが、当時の経験とそこから学んだことは、経営全般にとても役にたっていますね」
そんな渡仲氏が今取り組んでいる課題は、人材の育成だ。
「うちはスタッフが軒並み30年選手で、向こう5年くらいで総入れ替えになってしまうので、スタッフを募集しているところです。もちろんずっと在籍してくださればありがたいけれど、うちで修業して独立したいという方でも大歓迎です。当店は基本をしっかりと守ったシンプルなレシピを守り続けている、料理の基礎がしっかりと学べると思います」
そう、「みかわや」の根幹は、シンプルな料理にある。
「お客様から、『あの店は味が変わっちゃったけど、ここは変わらないよね』というお声をよく頂きます。つまり『変わらない』ことこそ、我々がお客様に求められていること。シンプルでどこか懐かしい味を、あたたかく居心地のよい空間でご提供することが当店の大きな幹であることを、忘れてはいけないと思っています。これから新しい枝葉をつけることがあっても、その幹はまっすぐ、大切に育てたいですね」
銀座 みかわや
住 所:東京都中央区銀座4-7-12 三越新館1F
電 話:03-3561-2006
時 間:11:30~21:30(L.O.20:30)
定休日:年末年始
交 通:地下鉄各線「銀座駅」より徒歩2分
文:瀬尾 ゆかり 写真:yama
2018年10月18日 掲載