独立希望者必見!個人店オーナーからの熱いメッセージ
kiki harajuku
オーナーシェフ 野田 雄紀
はじまりは直感 今では料理が楽しくて仕方ない
野田 雄紀(Yuki Noda)
1983年生まれ、静岡県出身。魚屋を営む祖父母と、惣菜のお店を経営する両親のもとで育ち、高校卒業後は調理師専門学校に進学。その後、地元のフレンチレストランで働き、パリと神楽坂の名店でも3年ずつ経験を重ね、28才で原宿に「kiki harajuku」をオープン。
2018年9月掲載
“かっこいい”という気持ちから自然と飲食の世界へと進み出す
若者たちで賑わう原宿の明治通りからちょっと奥に入った静かな路地裏に店を構える「kiki harajuku」。最近ではSNSでも、リーズナブルな価格で絶品の創作料理が楽しめると話題になっている人気店で、場所柄もあってか幅広い客層に愛されている。ここでオーナーシェフを務める野田氏は、小さい頃から飲食の世界が身近な存在で、自らがこの世界に入ったのも実に自然な流れだった。
「祖父母は魚屋さんをやっていましたし、両親が経営していたお惣菜のお店は自宅兼店舗だったので、飲食業はかなり近い存在でした。だから、小学生のときからステーキを自分で焼いて、ワインをかけて味つけをする…なんてこともしていましたが、将来、飲食店をやりたいとまでは思っていなかったですね」
中学生になった野田氏は料理よりも音楽に魅力を感じ、高校生になってからはバンドやDJをはじめる。
「ミュージシャンの人たちは、自分のつくったものやセンスで生きているじゃないですか。それがすごくかっこいいなと思って(笑)。同じことが料理の世界にも通じるとはまだ気づいていなかったんですけどね」
高校卒業後、野田氏は地元の調理師専門学校へと進学を決める。
「ただ単に、まだ働きたくないという理由でした。だからテンション的にはかなり低くて、ガッツのかけらもなかったんです。やるなら料理しかないかなぁ……ぐらいで(笑)」
しかし、専門学校で1年間みっちりと料理を学び、地元のフレンチレストランで働きだしてから野田氏の気持ちに変化が現れた。
「実際に働いてみたら、すごく面白くてフレンチの世界にハマったんです。自分のやりたいことで生活できるのって素晴らしいし、かっこいいなと実感もしました。だからこそ、もっとフレンチを学びたくてフランスに修業しにいったんです」
なぜフランスだったのか。
「やっぱり、東京よりもフランスの方がかっこいいなと思って(笑)」
かっこいいという気持ちに突き動かされながら、野田氏はフランスに旅立ち、パリの名店「タイユヴァン」で2年間を過ごすことになる。
自分達らしいビストロスタイルを
原宿から発信
パリでの3年間もまた、野田氏の料理への思いを強くした。
「僕が働いていたお店には、いろんな国籍の人がいて、それぞれがちゃんと目標を持っていたし、それを実現するために必死でがんばっていたんです。その姿が僕にとってすごく刺激になりました。パリでの修業はとても大変だったけど、フレンチを学ぶことが日に日に楽しくなっていく自分がいました」
日本に戻った野田氏は次に、神楽坂のフレンチレストランで働き、副料理長をまかされるまでになる。
「神楽坂では、お店のこと全般を勉強させてもらいました。オーナーシェフはフランス人で、経営についても、細かく教えてもらいましたね」
ここでも3年の月日が経ち、ついに野田氏は自分のお店を持つために動き出す。そのきっかけとなったのは、東日本大震災だった。
「震災のとき、1週間ほどお休みがあったんですが、そのとき自分のことを客観的に見つめ直して、今、何がやりたいのかと考えたら、自分のお店を持つことだったんです。日本がこんな大変なときだからこそ、やろう…そう決心しました」
そしてその年の8月、野田氏は原宿に「kiki harajuku」をひとりでオープンする。なぜ原宿だったのか、そして店名にはどんな意味があったのか…。
「ビストロはビストロでも、自分らしく気取らない、カジュアルなスタイルでやりたいと考えていたので、銀座や丸の内ではないなと。原宿は、カジュアルな土地ですが、流行にも敏感な場所だし、朝から夜まで人がたくさんいるからピッタリだと思いました。店名は、フランスでの僕のあだ名です。偶然にも神楽坂のシェフにもキキと呼ばれていたので、これなら短くて覚えやすいし、お店の名前にいいかもと決めました」
開店当初、料理も経営もひとりで行なっていた野田氏には、ひとつ大切にしていたことがあった。
「ひとりでお店をやるのはとても大変でしたが、そのとき必要なことを一つひとつ丁寧に根気よくやっていくのを意識していました。スタッフが増えた今も、その考えには変わりはありません」
野田氏が考えるオーナーシェフの心得
01 いつでも美味しい料理を届ける
02 求められていることに気づく
03 休みは大切
8年目を迎えた今、思うこと…… そして、これからの展望について
フランス料理の技術をベースに、季節のフルーツや野田氏の故郷である静岡の食材やお茶を使って、オリジナリティ溢れる料理を提供している「kiki harajuku」。8年目を迎えた今、野田氏が思うことは…。
「常にアップデートし続けなくてはと思っています。今は、自分のほかにもうひとりシェフがいるので、まかせられるところはまかせて、僕はメニュー考案になるべく時間をかけるようにしています。また、オーナーシェフだからこそ気づけるお客様の反応もあるので、そこはしっかりと見るようにしています。いろいろなところに目を配るのにはエネルギーをたくさん使うので大変ではあるけど、いい方向に変化するためには欠かしてはいけないことだと思うのでがんばっています(笑)」
「kiki harajuku」では、スタッフたちも常に楽しそうに働いている。野田氏がスタッフに接する上で気をつけていること、それは案外単純であった。
「コミュニケーションをとることですかね。それと、ちゃんと自分の責任を果たすことができるようにと教えています。あとは、僕のもとで自分のやっていることがプラスに変わると実感してもらえれば、ちゃんとついてきてくれるのかな、と(笑)」
最後に今後の展望を聞いてみた。
「あまり店舗展開は考えていなくて、それよりもテストキッチンをつくって、もっとたくさんのメニューを創作したい、そしてその料理をお客様に喜んでもらい続けたいです」
今もなお、料理を好きになり続けている野田氏らしい答えであった。
kiki harajuku
住 所:東京都渋谷区神宮前6-9-9 アヴニール表参道1F
電 話:070-3882-3150
定休日:水曜日
時 間:12:00〜23:00
交 通:地下鉄千代田線「明治神宮前駅」より徒歩3分
文:安藤 陽子 写真:yama
2018年09月20日 掲載