独立希望者必見!個人店オーナーからの熱いメッセージ
株式会社 エムズダイニング
代表取締役 菅沼 正樹
常に心に喜びをもち 日本ワインを盛りあげる
菅沼 正樹(Masaki Suganuma)
1963年、神奈川県生まれ。不動産会社の営業職を経て、25才で中食事業へ進出。食品メーカーの製パンの営業職時代からコンサルティングも手掛け、カフェの経営などをサポート。その後、株式会社 エムズダイニングを設立し、様々な業態を開発している。
2018年6月掲載
閉店しかけた店を引き継ぎ日本ワインの灯火を守る
今年4月に新宿御苑前にオープンした新宿 葡庵。200種類の日本ワインと、そのワインにもっとも合う料理を楽しむことができるフレンチ・バルだ。
オーナーは、日本ワインの伝道師ともいえる菅沼 正樹氏。日頃から日本各地のワイナリーを訪れ、収穫や仕込みのボランティアにも参加。運営する株式会社 エムズダイニングは、神楽坂アガリスや錦糸町ジョイーレなどを展開し、日本ワインを盛りあげている。
「僕が日本ワインにこだわる理由は、作り手から直接話を聞けるからです。ワインの味だけでなく、こだわりや苦労話など、豊かな魅力をお客様に伝えることができる。僕は長いこと日本ワインに携わっていますが、年々、日本ワインのファンは増えていると感じます」
新宿 葡庵のある場所には、以前も日本ワインを扱う店があった。しかし事情により閉店することになったため、菅沼氏が受け継ぎ、 高円寺 葡庵の姉妹店としてオープンした。
「代々木八幡にある日本ワインのバーでひとり飲んでいたとき、ここにあった店が閉店する話を聞き、その日のうちにオーナーに会いに行きました。『日本ワインの火を消したくない、ぜひ引き継がせてほしい』と話すと、オーナーは『菅沼さんがやってくれるなら嬉しい。応援するよ』と言ってくれました」
新宿 葡庵は、高円寺店よりもワインや料理をリーズナブルに楽しむことができる。家族連れでも入れるよう子供用のイスや、ワインになる前の葡萄ジュースも用意。この親しみやすさもあって、オープン直後から評判は上々、客足は絶えない。
「新宿は交通の便が良いので、わざわざ地方からいらっしゃるお客様もいらっしゃいます。また、外国人旅行者のお客様も多いですね。ワイン好きならやっぱり、旅先では現地のワインを飲みたいと思うものです。だから日本の蕎麦屋、天ぷら屋さんにはぜひ日本ワインに着目してほしいですね。今、そのきっかけを作るための企画も進行中です。当面の目標は、東京オリンピック。それまでは全力で走り続けようと思っています」
習慣と人間性を磨くことが
飲食人としての未来を決める
飲食業のコンサルティングも手がける菅沼氏。本誌には8年前にも登場し、日本ワインの素晴らしさや経営哲学を語ってくださった。その際、経営において重要なことは「料理とサービスの二つの方向性を、お客様の方向へ彫りさげること」としていた。
「それは基本は変わりませんが、今は余裕というか〝遊び〟の部分が増えましたね。以前はもっとストイックに料理に向き合っていましたが、今はお客様の『こういうの食べてみたい』というご要望に柔軟に合わせるなど、自由な部分が増えました」
その〝遊び〟は、お客様のニーズをつかむ努力を絶えず続けてきたからこそ生まれるものだろう。
「お客様の職業や、今日は何をしてきたのか、どんな状況でいらっしゃっているのかなどは、常に気を配っています。気心知れた常連さんでも『今日は少しお疲れのようだな』と思ったら、合いの手は入れるけれども少し距離をおいたり。お客様にとって心地良い空間作りは、何よりも重要です」
頻繁にワインイベントを行なったり、花見やバーベキューなどお客様と交流する場を設けているのも、お客様に楽しんでもらい、日本ワインの魅力を伝えるためだ。
また人材の育成について、8年前は「技術と知識、習慣と人間性の4つの柱が大切」であり、「習慣と人間性」については特に重要だとしている。
「それは今も変わりません。飲食業では技術と知識が高いと評価されがちですが、それより大事なのは優しさ、明るさといった『人間性』の部分と、時間を守る、エプロンをたたむといった『習慣』の部分です。スタッフには、『いくら料理ができてもそれができないとだめだよ』と、毎日口を酸っぱくして言い続けています」
そんな菅沼氏の指導の結果、独立するスタッフも多い。そんなときは経営の大事なノウハウや事業計画書の立て方をアドバイスするなど、協力を惜しまない。
「ただ、独立する子たちには2つ、決まりを守ってもらいます。それは日本ワインを扱うことと、12月29日の忘年会には必ず参加すること(笑)。なので、忘年会は毎年かなりの人数になります」
菅沼氏が考える経営三箇条
01 お客様のニーズをつかむ努力を絶やさない
02 習慣と人間性を磨き続ける
03 小さなことに気づき、改善し続ける
器の大きさを物語る行動の陰に経営そして人生の哲学がある
「毎日スタッフを厳しく叱るが、感情的になって怒ることはない」という菅沼氏。だが、過去に一度だけ怒りをあらわにしたことがあったという。
「青山に店をもっていたのですが、店長と料理長が同時に辞めて、2人で新たに店をやると言ったんです。そのときは、さすがにつらかった。でも冷静になってみれば、それも飲食店ではよくあること。僕が彼らを縛っても、しかたありません。だから出店の際には、やっぱりいろいろ協力しました」
菅沼氏のそんな姿に、スタッフから「そこまでしなくても」という声があがることも。
「同時に辞めた2人のうち1人が骨折し、半年ほど店に立てなくなったことがあるんです。その間、僕は無給でヘルプに入りました。そのときはスタッフからブーブー言われましたね(苦笑)。『自分の店だって人が足りなくて大変なのに、なんでですか』って。『君が俺の立場なら、放っておくか? 彼らは店をたためばいいのか?』と聞くと、しぶしぶ納得してくれましたが」
経営者としての器の大きさ、懐の深さを物語る菅沼氏の行動。それはどのような考え方に基づくのだろう。
「35才頃に、ある哲学者の本と出会ったことが大きいですね。たとえば、その方の『喜神を含む』という考え方は、『常に心に喜びを持つ』ことの大切さを述べています。つらいことがあっても、きっと10年後20年後はいい思い出になっている。だからつらいときこそ、その立場に立って物事を見てみよう、とね。そういった哲学を知ってから、経営も変わっていきました」
飲食業で働くにあたって、もっとも大切だと思うことを聞いた。
「一番は、飽きないこと。飲食業はルーティンワークだけど、そのなかでもちょっとしたことに気づいて、改善し、新しくしていく…それが『飽きない』ということだと思います」
新宿 葡庵
住 所:東京都新宿区新宿2-7-1 不二川ビル1F
電 話:03-3351-0141
時 間:17:00~23:00
土曜日:17:00~24:00(L.O.23:00)
定休日:月曜日
交 通:地下鉄丸ノ内線「新宿御苑前駅」より徒歩3分
文:瀬尾 ゆかり 写真:yama
2018年11月23日 掲載