独立希望者必見!個人店オーナーからの熱いメッセージ
遊猿
店主 大内 誠也
仕事を思い切り楽しめる ここは私の”遊び場”です。
大内 誠也(Masanari Ouchi)
1980年、宮城県生まれ。地元で建築関係の仕事に従事する。24才のとき、飲食業界を志す友人と一緒に上京。以来、外苑前、青山、神楽坂で12年間、中華料理一筋に経験を積む。2016年9月、独立を果たし、新宿・荒木町に「遊猿」をオープン。
2017年10月掲載
中華料理店のイメージを一新!リゾートフルな洗練された空間
高い天井に、瑞々しいグリーンが映える。ウッディなインテリアに囲まれたリゾートフルな雰囲気は、まるで山荘の中にいるかのよう。「遊猿」の店内は、従来の中華料理店のイメージとかけ離れている。アウトドア好きの店主の趣味がぎっしりと詰まっている。
24才で上京して以来、中華一筋の大内氏。こんな洗練された空間をつくり上げたからには、実現に向けて着々と歩んできたに違いないと思いきや、もともと独立志向は強くなかったのだとか。結果的には、2店舗目の修業先・青山「シャンウェイ」で過ごした日々が独立へと踏み出す転機となった。
「オーナーと2人だけの店で、掃除もセッティングもすべてやらなければなりませんでした。仕事がどんどん増え、5年目くらいには店を任されるようになりました。最初は『オーナーがいないと困る』と思っていたのが、責任感もあって『いなくても大丈夫にしよう』と考えるようになっていきました」
調理技術から店舗運営のノウハウまで吸収し、次々と自分のものにしていった。とはいえ、あまりの多忙さに弱音を吐きたくなることも。そんなときに支えてくれたのがお客様、そして不思議な縁に結ばれた人々の存在があった。
「隣が花屋さんで、働いている人たちが皆、同年代だったんです。店に入る時間も帰る時間もほぼ同じで、日ごろから彼らもがんばっているんだと感じていました。帰り道、辞めたいと思っていることを伝えると『もっとがんばろうよ』と励まされたりもしました」
その後、店が人気ドラマ『孤独のグルメ』で取りあげられたのを機に状況が急変。一躍超人気店となり、またとない店舗展開のチャンスが生まれた。ところが、諸事情によりその話は立ち消えになってしまった。
「次のステップとして考えていた店長の道がないのなら、自分でやりますと独立を決めました」
偶然にも退職と時期を同じくして先輩が独立し、新店をオープン。神楽坂「エンジン」を1年間手伝い、立ち上げの経験も積んだ。2016年9月、満を持して大内氏は独立を果たす。趣のある大人の街、四谷荒木町・車力門通りに店を構えた。
“遊”はYou、”猿”はenの意味
たくさんの人とのご縁を大切に
ミシュランの星を持つ名店や老舗の有名店が軒を連ねる界隈、外から判断しづらい新築ビルの2階という条件で、にわかにお客様を呼び込むのは容易ではないだろう。しかし、大内氏は集客の面での苦労はほぼなかったという。
「ウェブ雑誌の編集長がいらして、そこに掲載されたのをきっかけに、オープンした翌月には忙しくなっていました。有名なタレントが来店して、ラジオの生放送に出させてもらったこともあるんですよ」
数々のメディアに取りあげられ、たちまち注目を集めていく。無論、実力を伴ってこその人気であることは言うまでもない。とりわけ、評判を呼んでいるのは目にも鮮やかな”前菜の盛り合わせ”。ときどきの一番美味しいものを選りすぐり、お客様に提供している。
「毎朝、築地に通っているんです。以前から自分の目で見て確かめ、値段を考えて仕入れ、お客様に提供してお金をいただくという流れを全部把握していたいと考えていました。今はこんな調理をしたいのでこういうものが欲しいと伝えて仕入れたり、自分がずっとやりたいと思っていたことを自分の店でできるのがうれしいですね」
さらには、これまで培ってきたキャリアと人脈がフルに活かされている。先述した「隣の花屋さん」で働いていた人たちは今も店に足を運んでくれるお客様でもある。
「店を辞めるとき、お世話になったお客様全員に挨拶できなかったので、探してくださった方もけっこういらっしゃるようなんです。『やっと見つけた!』『あーっ、いた!』なんて言われることもあるんですよ(笑)。そういう方たちに、今もいらしていただいている。この喜びは何ものにも代え難いです」
店名には大内氏自身が申年であること、オープンした年もまた申年であることの2つの意味が掛けられているが、もう1つ、ある想いが込められている。
「”遊”はYouであなた、”猿”はenで、人とのご縁を大切にしたいという意味です」
大内氏が考えるオーナーシェフとしての心得
01 お客様と向き合う
02 職場環境を整える
03 仕事を楽しむ
同世代が続々と新店オープン 進化し続ける中華を知ってほしい
たくさんの人々との縁に支えられ、「遊猿」は人気店へ急成長。修業時代に思い描いていたことを1つひとつ着実に具現化し、磨いてきた腕を存分に振るえるこの店は、今の大内氏にとってのベストプレイスだ。
「ずっといてもいい、居心地のいい店をつくりたいと考えていました。仕事を仕事と感じずに、思い切り楽しめる場所。ここは、私の”遊び場”なんです」
一方で志高く、未だ実現できていないことも多い。当面の目標は「料理の幅をさらに広げること」。そのためにも経営の面でも、人材育成は重要な課題となる。
「自分は休みの日でもここにいたいくらいですが、社員には時間をつくってあげたい。心のゆとりができれば、若いスタッフはさらに成長できるでしょう。人を育てて、新メニューの開発にもっと力を注げるようにしたいと考えています」
職場を自分の遊び場と言い切れるほど、理想的な環境をつくってきた大内氏だが、それも人材あってこそ。人がいなければ成り立たない仕事であることを痛感している。
最後に、新たな進化を続ける中華料理の魅力も含め、読者に向けてメッセージを送ってくれた。
「中華料理はこれからです。昨年、一昨年くらいが自分と同じ世代の人たちの独立のピークでした。店の外観や内装だけではなく、料理も大きく変わってきています。みなさんがイメージされる油っぽい料理とは全く違うはず。ぜひ、新しい中華料理を知ってもらいたいと思います」
遊猿
住 所:東京都新宿区荒木町6-39 GARDEN TREE 2F
電 話:03-6274-8987
時 間:11:00~20:00(L.O.19:00)
定休日:日・祝
交 通:地下鉄丸ノ内線「四谷三丁目駅」より徒歩5分
文:西田 知子 写真:yama
2017年10月19日 掲載