独立希望者必見!個人店オーナーからの熱いメッセージ
BISTRO O’z(ビストロ オーズ)
オーナーシェフ 大島 力
すべてをつなげてくれた「出会い」は僕の財産です
大島 力(Chikara Oshima)
1980年生まれ、浅草出身。ホテル厨房でのアルバイト、銀座の菓子店を経て、ホテルのフレンチシェフとして3年勤務。その後数々のレストラン勤務を経てハンガリーに移住。帰国後3年間修行を積んだ後、東京・中目黒に「BISTRO O’z」をオープン。
2017年9月掲載
飲食の世界は、縁でつながる 数々の出会いが道を拓いてくれた
数々の飲食店が立ち並ぶ中目黒。駅から1分ほどの場所にあるビストロ オーズには、今日も多くの人が足を運び、料理と酒を楽しむ。
店内は、本場ヨーロッパのビストロの雰囲気。洒落ていながらどこか家庭的で、一人で飲みたいときにも、大勢で料理を楽しみたいときにも、リラックスしてその時間を過ごすことができる。 そんな店の雰囲気を作り出しているのは、料理人でありオーナーの大島 力氏だ。 「気軽に訪れ、しっかり食べて、しっかり飲んで。それが店のモットー…というか、僕の理想です。食は、楽しむことが一番だと思っているんですよ」
ハンガリー産フォアグラのポアレに、その日に各地方から届いた魚や野菜を使った料理、食べ応えのある煮込みやハンバーグなど、ビストロならではの料理はどれも美味しく、リーズナブル。雑誌やテレビなどさまざまなメディアで紹介され、数多くの著名人が来店する。
大島氏が飲食業界に入ったのは17才、ホテルの厨房のアルバイトからだった。まじめに、積極的に仕事に取り組む彼を、先輩方は公私ともに可愛がった。 「先輩方は、僕にいろんなことを挑戦させてくださいました。料理をすることがどんどん面白くなっていったのは、先輩方のおかげです」
その後、アメリカ留学や結婚などを経て、銀座の菓子店でパティシエとして働いた。そんなある日、かつてのアルバイト先の先輩から声をかけられた。 「先輩は『やる気があるなら来い』と、僕を料理人として誘ってくださったんです。社員としてホテルに戻るなんて想像もしていませんでした」
ホテルで数年働いた後も、いくつかのレストランに呼ばれ修業を重ねたが、いずれも先輩や知り合いの誘いがあったからだという。 「飲食の世界は、縁でつながっていくものだと知りました。僕にとって、出会いの一つひとつに大きな意味がありましたね。特に、師匠と呼べる方に出会えたことは僕の財産です。師匠の経営するレストランでは、料理だけでなく経営についても多くのことを教わりました。いつか独立したいと思うようになったのも、師匠の姿を見ていたからです」
本場の空気を肌で感じるために
家族を連れてハンガリーへ移住
26、7才のころから独立を意識し始めたが、自分にはまだその力がないことを理解していた。そこで大島氏は、ハンガリーに移住し、現地で料理人として働くことを決意した。 「ヨーロッパの風を肌で感じたいという思いがありました。料理に携わっている以上、本場のレストランを経験したいし、市場や働く人の姿も見てみたかったんです。それには旅行ではなく、現地で生活することが、僕にとっては重要でした。暮らしてみることが、料理への理解に、そして自信につながると確信していたんです。ハンガリーを選んだのは、妻と2人の子供を連れて行くにあたって設定した安全面やビザなどの諸条件に、ハンガリーだけが合っていたからです」
大島氏は家族とともに約2年半をハンガリーで過ごした。 「最初はやっぱり、言葉の壁がありましたね。住み始めて半年くらいは、毎日『帰りたい』と思ってました(苦笑)。だけどやっぱり、住んでみないとわからなかったことはたくさんあります。ハンガリーには長い歴史と文化、そして何より食に対する情熱があって、誰もが食事を大切に楽しんでいるんです。ヒゲがぼうぼう、頭もぼさぼさのおじさんが、テラスでシャンパン傍らにブランチを楽しんでいる――食事ってこういうものだよな、楽しむものだよなって、改めて思いました」
現地で暮らしたことは、大きな自信にもつながったという。 「帰国したらもう、『何でもできるぞ』って感覚になりましたね(笑)。言葉も通じるし、やりたいことも好きなようにできる。向こうじゃ、ご飯を食べるのも大変でしたから」
大島氏が考えるシェフの心得
01 何事も誠実に取り組む
02 感謝の気持ちを忘れない
03 思い立ったら、すぐに行動する
飲食店を経営するのは茨の道 心に師匠をおき、修業を続ける
しかし大島氏は、帰国後に再び師匠のもとへ出向き、修業させてほしいと頭を下げた。 「確かにハンガリーで自信はつきましたが、日本で飲食店を経営するのは並大抵のことではないし、それにはまだ力不足だと思ったんです。僕に本当の自信をつけてくれたのは、やはり師匠のもとでの修業だったと思います」
大島氏は今でも、常に師匠を心においているという。 「師匠によく言われたのが『家族に出すつもりで作りなさい』ということ。大切な人に出すと考えたら、手は抜けないですよね。ですから今も、その姿勢を忘れないようにしています。それって当たり前のことなんですが、当たり前がなかなかできない状況というのはよくあります。そんなとき、僕は自分の判断よりも『師匠だったらどうするかな』と考えて行動するんです」
32才で「ビストロ オーズ」をオープンし、今年で5年目。大島氏はどのようにして、人気店へと成長させたのだろう。 「これも、本当にご縁がきっかけで。開業してすぐはなかなかお客様が入らず、どうしようかと不安に思う日が続きました。ところが、偶然いらしていたお客様が大手出版社の方で、取材したいと言ってくださって…。それからいろいろなメディアで取材のご依頼を受け、多くの方に来ていただけるようになったんです」
誰に対しても誠実に向き合い、感謝を忘れない。大島氏の言葉からは、そんな生き方が伝わってくる。今は店舗を拡大するより、現場に立ち続けていたいというのも、彼らしい。 「料理や経営を学びたいという方には、僕のすべてを教えたいと思っています。でも、そうやって人材を育成するにはやはりそれなりの時間がかかります。今は僕自身も修業中だと思っているので、もっと成長し続けたいですね。現場に立って、お客様の喜ぶ顔を見たい。それが一番の望みです」
BISTRO O’z(ビストロ オーズ)
住 所:東京都目黒区上目黒2-14-1 カドヤビル1F
電 話:03-6303-1032
時 間:ランチ 11:30~14:30(L.O.14:00)
ディナー 18:00~23:00(L.O.22:30)
土曜日・祝日はディナーのみ
定休日:日曜日
交 通:各線「中目黒駅」より徒歩2分
文:瀬尾 ゆかり 写真:yama
2017年09月07日 掲載