独立希望者必見!個人店オーナーからの熱いメッセージ
ラ・ゴッチャ東京 La Goccia Tokyo
オーナー 龍花 和輝
「いいレストラン」とは何なのか 店のあり方を模索し続けた3年間
龍花 和輝(Kazuteru Tatsuhana)
1975年生まれ、東京出身。大学院卒業後、商社に3年間勤務。その後オーストラリアへ留学。帰国後、販売の会社にて8年間勤務。開店準備として業務のかたわら飲食業アルバイトなどを経て、2014年「ラ・ゴッチャ 東京」を港区白金台にオープン。
2017年7月掲載
物心がついたときから飲食は自分にとってすごく身近な存在
龍花和輝氏がイタリアンレストラン「ラ・ゴッチャ東京」を白金台にオープンしたのは、3年前のこと。そのときまで、龍花氏は飲食業界とは無縁だった。
「ずっと会社員として働いていたんです。ただ、将来的には人を喜ばせる仕事がしたいと思っていました。それには色々な仕事がありますが、その候補の一つが飲食業だったんです。なかでもレストランはお客様にとって日常の延長線上であり、また特別な時間を過ごす場でもあるので、その演出をさせて頂けたら楽しいだろうなと思って。業態は色々あるけど、イタリアンを選んだのは、イタリア人の持つフレンドリーさに加え、食材の持つポテンシャルを最も引き出せるのがイタリアンだと確信したからです」
本格的に開業の準備を始めたのは、オープンの5年ほど前からだ。 「こんな店にしたい、という憧れはありましたが、まずは今の自分に何が必要かを考え、身につけていくことから始めました。開業に必要な知識や経験、お金……大変ではありましたが、僕のモットーは『やればできる』。人は、行動すれば必ずなりたいものになれると思っているんですよ」
気さくな笑顔で、率直に、かつ相手を気遣いながら話す龍花氏。その明るい雰囲気からは迷いや悩みなど感じられないが、未経験からの開業には多くの困難があったことだろう。龍花氏にとって、この3年はどのようなものだったろうか。 「試行錯誤の連続でしたね。オープン当初は、どんな店にできるのかが、何も定まっていない状態でしたから。なかでも特に悩んだのが、レストランのランクについてです」
それまで、龍花氏には「価格帯が高いほど、いいレストランだ」という思い込みがあった。しかしそれを基軸に考えると、価格帯がそれほど高くないラ・ゴッチャは「いいレストランではない」ということになる。自分たちはこの先もずっと「二流」なのか、「負けっぱなし」なのか? 龍花氏は、「いいレストランとは何か」という命題に正面からぶつかった。
「毎日それを考えながらフロアに立っていたんです。すると、だんだん答えが見えてきて。お客様にとって、レストランの楽しみ方って実にさまざまなんですよ。目的や用途に応じて、さまざまな価格帯のなかから店を選んでいる。だから重要なのは価格ではなく、価格以上の満足をご提供することであり、それが『いいレストラン』だと思ったんです。それに気づいてからは、自らを卑下することなく、自分たちができることを精一杯やって、お客様に存分に楽しんで頂こうと腹が決まりました」
「最後の一滴まで楽しんで」
その思いが独自スタイルをつくる
「いいレストラン」にするために、自分たちには何ができるだろうか?
龍花氏は自問自答し、スタッフと話し合いながら「ラ・ゴッチャ」の特徴的なサービスを生み出していった。
お客様からとりわけ高い評価を得ているのが、食材のプレゼンテーションだ。ラ・ゴッチャでは、漁港から直送された1本魚をワゴンの上でお客様にご紹介し、調理法を決めて頂く。テーブル上で熱々のフライパンからサーブしたり、トリュフやチーズを振り掛ける瞬間、お客様から決まって歓声があがる。
ワインは、イタリアはもちろん、日本全国から数多く取り寄せている。日本ワインは龍花氏が生産者のもとへ通い、厳選したものばかり。それぞれの生産者の思いや生産の経緯を紹介したワインブックは読み応えがあり、ワイン好きな人は夢中になって読むという。
「もともと、生産者の思いも含めて、料理をテーブルに届けたいと考えていたんです。La Goccia(ラ・ゴッチャ)は、イタリア語で一滴(ひとしずく)という意味です。食事やワインの最後の一滴まで楽しんでもらいたくて、お店の名前にしました」
ラ・ゴッチャではほかにも、定期的にワイナリーツアーや旬の食材を使ったフェアなどを行っている。常連もいれば新規のお客様も多数参加する、人気のイベントだ。ここにも、ワインや食材を別の角度から楽しんでもらいたいという思いがある。
これらの演出は、この3年間で、階段を一段ずつ昇るように実現していったものだ。龍花氏は毎日フロアに立ち、スタッフとして働きながらこれらのアイデアを発見していった。 「オーナーとして、ホールで全体を見ながら統括しています……と言いたいところですが、毎日僕自身が働きアリのように働いてます(笑)。ゆくゆくはもっと引いた形で全体を見たいとは思いますが、まずは自分が苦労してからのマネジメントかなと思うので。また、そのほうがお客様からのダイレクトな反応もよく伝わってくるんです」
龍花氏が考える経営三箇条
01 自分の興味や向上心より、お客様の喜びが第一
02 「何のためにやっているか」を忘れない
03 従業員には自ら考えて答えを出すよう促す
自分は何のためにやっているのか日々自問し、ブレずに続けること
ラゴッチャは今、「スタイルの確立」→「認知」の時期に移行したと考える。
「今は、当店のスタイルと、それを理解し、楽しみにして来てくださるお客様の喜びを第一に考えていきたいと思っています。たとえば、ここ白金台にはいくつかの結婚式場があります。当店での2次会の貸し切り営業はしておりますが、結婚式帰りの酔ってしまったお客様のご来店はご遠慮いただいております。1日で合計40人ほどの酔われているお客様をお断りしたこともあり、心苦しかったですね。それは決して高飛車な考え方からではなく、只々、うちの店のスタイルに興味をもってくださった方に、心ゆくまで楽しんで頂きたいからです。売上を重視して、大事なことを忘れてはいけないと思ってます。それに僕らのスタイルが認知されれば、売上もついてくると信じているんです」
自分は何のために、この店を構えているのか。何にこだわり、それは何のためにあるのか。自問自答し、ブレずに居続けることでスタイルは確立され、人々に知れ渡る。
「僕がこの先も追求し続けたいのは『おいしいというのは何なのか』『人が楽しいと思い、また来たくなるのはどういうことなのか』ということです。働く人にとっては、きちんとした仕事ができて、活躍したい人が活躍できる場をつくりたいと思っています。もし志を持つものがいれば、そんなスタッフと一緒に成し遂げたいことがあります」
ラ・ゴッチャ 東京
住 所:東京都港区白金台4-8-10 1F
電 話:03-5422-6889
時 間:ランチ 11:30~15:00(L.O.14:00)
ディナー 18:00~23:00(L.O22:00)
定休日:月曜日
交 通:東京メトロ南北線、都営地下鉄三田線「白金台駅」1 番出口より徒歩1 分
文:瀬尾 ゆかり 写真:yama
2017年07月06日 掲載