独立希望者必見!個人店オーナーからの熱いメッセージ
代々木上原 ゆう
オーナーシェフ 井本 有祐
美味しさ、居心地のよさを 最大限に追求していきたい
井本 有祐(Yusuke Imoto)
1981年生まれ、千葉県船橋市出身。大学時代、「リストランテ濱崎」でのアルバイトをきっかけに料理の世界に興味を持ち、卒業後本格的に修業を始める。和食ダイニングのシェフなどを経て、2014年12月に「代々木上原 ゆう」をオープン。
2016年9月掲載
スタイルにはこだわらず 美味しいものを提供する
代々木上原の閑静な住宅街にある「ゆう」。高級感のある、しかしどこか親しみやすいたたずまいの店だ。基本は和食だが、蟹クリームコロッケやポテトサラダなども提供する、和洋折衷のスタイルが特徴だ。
オーナーシェフの井本有祐氏が料理の世界に入ったきっかけは、大学時代に始めたイタリアンのアルバイトだ。料理の楽しさに魅了され、卒業後、本格的に修業を始めた。その後和食の世界に入るも、いずれは洋食の世界に戻るつもりでいたという。
「だけど、どうもしっくりこなかったんです。僕の場合、洋食だと、今まで学んだ土台に当てはめることしかできなかった。だけど和食だと自然に料理が思い浮かぶんです。それなら自分には和食が向いているんだろうと思い、和食の世界に軸足を置くことにしました」
井本氏の料理は、和食ならではの素材の味をいかした繊細な味わいをもつ。同時に、調理法やプレゼンテーションの美しさには、イタリアンの技法も見られる。
「食材をみたときに『こんなふうに食べたら美味しいだろうな』と感じたことを、そのまま追求しているんです。その結果、和になったり、洋になったりするというだけですね」
井本氏の根底にあるのは、個性を出そう、オリジナルであろうという〝スタイル〟の追求ではなく、「お客様へ、美味しいものを提供したい」という思いだ。その思いに導かれた結果、30代で独立する道を選んだ。それはごく自然な流れで、大きな苦労はなかったという。
「やっと自分のやりたいことができるし、それが形になっていくので、準備の一つひとつが楽しかった。今までしっかり修業したという自負がありましたから、料理に対する不安もなかったです」
カウンターでの仕事はライブ
ニーズをキャッチし、応える
井本氏は、やみくもな自信をもっていた訳ではない。独立を意識してから、働く店の選び方や働き方を変え、少しずつ準備をしていたという。
「店の規模や雰囲気、客層など、自分が将来やりたい店に近いところを探し、働かせてもらいました。『どのくらいお客様が入れば売上が達成できるか』とか『どんな料理が好まれるか』など、細かい部分を体感したかったんです。国産ワインに興味があったので、国産ワインを置いていることも重視しました。あとは、カウンターがあるかどうかですね」
「ゆう」に入って最初に目に入るのは、一枚板のカウンターだ。井本氏は、カウンターならではの客との距離感を大切にしている。
「お客様の反応がダイレクトに返ってくるので、毎日がライブのような感じで楽しいですね。カウンターなら、作業しながらお客様が何を望んでいるかがわかります。例えば2つの料理ですごく迷っていたら量を変えて両方お出ししたり、若いお客様ならあえて少し接客をくずしたり。お客様の言葉は勿論、表情や仕草なども気にします。それだけで全てがわかる訳ではありませんが、ニーズを最大限にキャッチして応えたいんです」
井本氏は接客の際、「人を見る」ことを重視する。それは、人を雇うときにも欠かせない視点だという。
「自分が雇われている立場だったとき、頭ごなしに否定され、意見が通らないもどかしさを感じることもありました。だから僕は一緒に働く相手のことを知るために、話をよく聞くよう心がけています。相手の考えを理解して、間違っていたら納得できるまで説明する。よく話し合えばお互いのフラストレーションをなくしていけるし、意欲的に仕事できる環境になると思うんです」
井本氏が考えるオーナーシェフとしての心得
01 真面目に仕事する
02 自分を第三者の目で見る
03 常にお客様の視点に立つ
客のニーズを捉えるため あらゆる方向から努力する
休日には絵画や映画、器の展示会などに足を運び、週明けには見事な生け花を店に飾る。単なる趣味ではなく、あえてアンテナを張って行っているのだ。井本氏は、その全てが料理と接客につながるという。
「生け花は独学です。昔働いていた店で、トイレに飾る花を任されたことがありました。予算はたった300円でしたが、そのうち『どこまでできるかやってみよう』と考えるようになり、見よう見まねで始めたんです。生け花展に足を運んだり、いいと思ったものを覚えて、真似してみたり。絵画や映画は、それらが好きなお客様が多いので、観にいくようになりました。『僕も観ました』といったささいな会話をきっかけにお客様とつながることができるし、そこからニーズを引き出せることも多いんです」
しかしもともとは、絵画や映画、器にも特に興味はなかったという。
「最初はいやいや足を運んでました(笑)。だけど2、3ヶ月もすると『見方』がわかってきて、楽しくなるんです。不思議なことに、楽しくなると、おのずと仕事にもいきてくる。色彩感覚やバランス感覚などは、ジャンルが違うほうが得るものは大きいと感じます」
井本氏に今後の目標を聞くと、2店舗、3店舗と店を拡大していくことに、あまり興味はないという。
「今の店のサービスを追求したいんです。料理や接客はもちろんですが、たとえば椅子の座り心地やおしぼりの質など、細かい部分を大切にしていきたいですね」
自らの目標を、着実に実現する井本氏。夢をかなえるには、具体的なビジョンが大切であるという。
「たとえば『独立したい』と思ったら、その店の紹介文を考えてみるんです。ビジョンが定まっていないと、紹介文も漠然としたものになります。だけど『どんな特徴の和食で』、『どんな魚を使って』、『どんな規模の店で』…と具体的に書くことができれば、独立してもいいのかなと思います。点と点で散らばっている自分のやりたいことを、線できれいに結んで、ビジョンを具体的にしていくことが大切だと思います」
「ゆう」なら、間違いなく美味しいものが頂ける、居心地のいいひとときを過ごせる――そんな信頼は、尽きることのない様々な努力の結果なのだ。
代々木上原 ゆう
住 所:東京都渋谷区西原3-22-12
電 話:03-6804-8997
時 間:7:00~翌1:00(L.O.24:00)
定休日:月曜定休
交 通:各線「代々木上原駅」より徒歩3分
文:瀬尾 ゆかり 写真:ボクダ 茂
2016年09月01日 掲載