独立希望者必見!個人店オーナーからの熱いメッセージ
AL GAMBERINO
オーナーシェフ 石井 博光
地元の人々に愛され続けながら お店と共に成長するのが、夢です
石井 博光(Hiromitsu Ishii)
1973年、東京都八王子市生まれ。専門学校を卒業後、地元のイタリア料理店で6年間勤務。その後、イタリアの星付きリストランテ「RISTORANTE AL GAMBERO」で修業を積み帰国。日本でイタリア料理店の料理長を3年間務めあげ、1996年「アル ガンベリーノ」を開店。
2016年6月掲載
ゆずることのできないこだわりが 他のお店との差別化につながる
大森駅のアーケード商店街を抜けて、ちょっと歩いたところに位置するオープンテラスのイタリア料理店。この地に店を構えてから丸9年、地元の人々をはじめとする多くのお客様が毎日のように行列をなす「アル ガンベリーノ」には、その人気につながるこだわりがたっぷりとつまっている。このこだわりこそ、店主である石井氏のポリシーといっても過言ではない。
「うちの店には、お昼と夜のメニューがあるんですが、オープンから変わらずランチは税込900円で統一しています。種類は常に5種類用意していて、パスタは量が180グラム。普通のパスタ屋さんだと、通常は100~120グラムが平均なので、とてもボリューミーです(笑)。また、夜のメニューに関しても魚や肉のメイン料理も全て基本、1000円以上のメニューはおかないようにしています。これは僕の大きなポリシーです。というのも、値段によってお客様が食べたいと思う料理を我慢させたくはないんです。もちろん、量が少なくては意味がないので、ボリュームにもこだわっています」
このポリシーをずっと守ることで、「アル ガンベリーノ」は他のイタリア料理店と大きく差別化をはかることができているのだと石井氏は話す。しかし、オーナーとしては利益のことも考えなくてはならない。
「お店を経営していく立場としては、きれいごとだけでは済まされないのも事実です。少しでもお客様の回転率をあげるために、夜は時間指定をとらせていただいています。また、お店で扱う食材や調味料もトマトとオリーブオイルとお塩など、重要なものにはこだわって、値段を抑えられるところは抑えるようにしています。あとはハーブ類と野菜類なのですが、これらはほとんど、僕の父親が畑でつくっているものなんです。これは他のお店には決して真似することのできない長所ですね」
イタリア料理を志すきっかけと
イタリアでの修業について……
今でこそ、イタリア料理に多大な愛情を注いでいる石井氏だが、料理を仕事にする……と決めたきっかけは、とても小さなことだった。
「高校を卒業して、技術系の専門学校に通って、普通の会社に就職しようと思ったんですが、在学中のアルバイト先だった焼鳥店の店長のことが頭によぎって……。このまま何も分からないまま就職するよりも、料理をするほうが楽しいのではないかと考えたんです。しかも、イタリアンにもともと興味があったわけではなく、ただ純粋におしゃれに魅せられただけ(笑)。今思うと、料理をはじめたきっかけは不純でした。だから、このお店で新しいスタッフを採用するとき、僕はきっかけや年令はまったく考慮しません。自分自身のきっかけが自慢できるものではないので……。むしろきっかけよりもやる気を重視しています」
イタリア料理を志そうと決めてからの石井氏の行動は早かった。地元のイタリア料理店で6年間、基礎を学んだのち、さらなる修業をするために本場イタリアへと渡る。このイタリアでの経験が、彼ののちの人生や価値観を大きく左右した。
「イタリアには約3年ほどいたんですが、ここでの修業は自分の人生観を大きく変えました。料理だけを勉強するつもりだったんですが、あらゆる価値観が変わり、視野が広くなりましたね。例えば、日本でイタリア料理を作っているときは何が正しいイタリア料理なのか迷う部分があったのですが、イタリアに行ったことで、変にとらわれることなく、イタリア料理というカテゴリーの中であれば、自由に料理をしてもいいんだと頭がやわらかくなりました。ひとつの角度からしか見られなかったことが、いろんな角度から見られるようになったというか……。それが正しいにしろ、正しくないにしろ、今の自分をつくりあげたことには変わりないです。言葉の壁もあったので、最初はなぜ自分が怒られているのか、その理由すら分からずに苦労した時期もありましたが、純粋に料理をやりたいという気持ちがあったので、乗りきれました」
石井氏が考えるオーナーシェフとしての心得
01 少しでも安くておいしい料理の提供
02 堅苦しくないお店の雰囲気づくり
03 一番下のスタッフを大切にする
これからの「アル ガンベリーノ」 願うことは、ただひとつ
こうして修業を終え、日本の有名イタリア料理店で料理長を3年間務めた石井氏は33才の頃、自分のお店を立ち上げることになった。
「独立が決まったとき、修業時代にお世話になっていたイタリアで5本指にはいるぐらい有名で人気な星付きリストランテ『RISTORANTE AL GAMBERO』のオーナーに店名をつけてもらおうとご挨拶に行ったんです。そこで、アル ガンベロのカジュアルなお店という意味を込めて「アル ガンベリーノ」という名前をありがたくいただくことになりました」
そして、もうすぐ10年目を迎えることになる「アル ガンベリーノ」。石井氏が店主として掲げる3つの心得にはそれぞれこんな理由がある。
「自分のお給料は家族が普通に暮らせるだけでいいので、そのぶんをお客様が食べる量や値段、従業員のお給料に還元する……。これは僕が9年の間、店を続けてだした最強の形です。そして、ごはんは堅苦しくない環境の中で食べるのが一番おいしいと僕自身が思うので、メインや前菜などのカテゴリーは作らず、好きなものを好きなだけ食べていただくスタイルをとっています。そして3つ目。アルバイトにしろ、社員にしろ、入りたてのスタッフとたくさんのコミュニケーションを僕がとることで、全ての人間関係がうまくいくと僕は考えているので実行しています」 そんな石井氏の今後の展開を最後に話していただいた。
「お店を自分でやるのは、正直大変なことです。でも、こんなに充実することもないので、後悔もありません。だからこそ、自分のもとで働くスタッフには、いつか自分でお店を持ってもらいたいし、その成長の手助けが少しでもできたら……。と常に考えています。莫大な利益はなくてもいいけれど、地元の人々に愛されながら、僕自身もお店とともに成長していく、そのスタンスを守り続けていけたらと願ってなりません」
AL GAMBERINO
住 所:東京都大田区大森北4-8-9 大森マンション1F
電 話:03-3764-3778
時 間:ランチ/11:30~14:00(L.O.)
ディナー/17:30~22:00(L.O.)
定休日:月曜日
交 通:JR京浜東北線「大森駅」より徒歩5分
文:安藤 陽子 写真:yama
2016年06月16日 掲載