独立希望者必見!個人店オーナーからの熱いメッセージ
ビストロ フェーヴ
オーナーシェフ 馬場 将吾
自分も成長し続けながら、人を育てることが夢へとつながる。
馬場 将吾(Shogo Baba)
神奈川県生まれ。21才で老舗洋食店「つばめグリル」を展開する株式会社 つばめに入社。芝浦の「レストラン ヤムヤム」をはじめ15年間の修業を経て、現在の礎を築く。その後、カフェの店長として店舗運営を経験。2013年8月、「ビストロ フェーヴ」をオープン。
2016年3月掲載
空へ伸びる”そら豆”のように地道にブラッシュアップを
フェーヴとはフランスのパイ菓子、ガレット・デ・ロワの中に忍ばせた小さな陶製の人形のこと。切り分けて当たった人は幸運になると言われる縁起物だけに、店名の由来とする店は他にも複数存在する。ただし、「ビストロ フェーヴ」の場合はフェーヴ本来の意味である”そら豆”に拠るところが大きいとのこと。
「空に向かって伸びるという前向きな想いを込めました」
なるほどと思わず納得させられる。天高く、どこまでも生長し続けるそら豆のイメージは馬場氏のひたむきな姿勢にそのまま結びつく。
「店はお客様に育ててもらうもの。『いつも変わらず、おいしいね』と言っていただくには、常に変えていかなければ。たとえば、当店ではハラミのステーキが人気なのですが、同じハラミでも火入れのアプローチがいろいろあります。こっちのほうがいいという方法を見つけて、満足度を少しでも上げていきたい。前回100だったなら105の満足度に。前回以下には絶対にしないという気持ちで、地道にブラッシュアップすることを心がけています」
その気がまえは売上にストレートに反映。神保町に出店して3年目。客単価はぐんぐん伸び続けている。
「自分が成長して力をつければ、今まで使えなかったストーリーのある食材やワインを使えるようになります。結果的に価格が高くなる場合のほうが多いですが、お客様には今まで以上に喜んで頂けると考えています。ただ安ければいいのではなく、コストパフォーマンスがよければ十分に満足してもらえます。事実、オープン当初から客単価は3000円くらい上がっていますし、希少なワインも楽しんで頂けるようになりました」
自分自身がレベルアップすることで、お客様の求めるものもさらに高まっていく。飲食店にとって理想的なサイクルがここには生まれている。
上司に恵まれた修業時代
調理に対する哲学を学んだ
誰もが知る「つばめグリル」といえば、思い浮かぶのは老舗の洋食屋さん。ところが、実際に21才から修業を積んできた馬場氏によると、「ベースは古典的なフレンチ。自家製ハムなどのレシピもアルザスから受け継がれています」とのこと。技術面だけではなく、精神的な部分もすべてそこで培われたものだという。
「同期は皆、調理師免許を持っていたのに、自分は調理学校も出ていなくて、人一倍がんばるしかなかった。17、8店舗もある中で、その姿を見てくれている人がいました」
努力が認められ、当時、社内幹部への登竜門であった芝浦のレストラン「ヤムヤム」に配属が決まった。
「研修で人参のシャトー剥きをさせられて、一番下手で遅かったので、馬鹿にされてしまいました。現場に戻って、『明日の休みは、人参を買って練習します』とシェフに伝えると、『これを持っていけ』と人参を箱ごと渡してくれました。『全部シャトーにして明後日、持ってくればいいから』と。寮で一日中、練習したものです」
尊敬できる上司や先輩方に恵まれ、修業時代を過ごした。
「シェフは腕だけではなく、バイタリティも凄い人でした。仕事が遅くなり、一緒にファミレスで食事をしたときのことです。サラダに知らない野菜が入っているのを見ると、店員をすぐに呼んで『これは何というの?』と聞いていました。知らないことを聞く恥ずかしさは一瞬。知らないで、トボケているほうがよほど恥ずかしい。そういう教えを受けて、調理に対する哲学を学びました」
その後、メキメキ力をつけた馬場氏は26才の若さでシェフに就任。結局、15年の長きにわたり勤めた。
「いろいろな店を渡り歩いて、最新の技術を吸収するというのもいいかもしれませんが、同じところに長く働くことで、1つの商品を磨き続ける姿勢が身につきました」
転職を決めたのは店全体を任せるカフェの求人を発見したから。店舗運営を学ぶのが第一の目的だった。シェフを務めた2年半の間に客数は倍増。売上も30%近く伸ばした。傾きかけた店を立て直すという貴重な経験を得て、2013年8月、いよいよ独立開業を果たす。
「当店の売りは、自然派ワインに無農薬野菜、かたまり肉とキーワード的にはブームのど真ん中。まんま乗っかったと思われるかもしれません。ただ、食べ歩いている中で勝負できると確信が持てるようになりました」
馬場氏の読みは的中。販促を全く仕掛けることなく、評判は広がり、人気店へと成長を遂げていった。
馬場氏が考えるオーナーシェフとしての心得
01 これでもういいだろうと満足しない
02 変えていいもの・いけないもを見極める
03 今、目の前のことを大切にする
店内で流れるように動ける”脳みそ主導タイプ”であれ
「オーナーシェフは大変なことも多いけれど楽しいですよ」
サラリーマン時代と比べるとストレスは10分の1以下だとか。そう語る馬場氏の生き生きとした表情からも、現在の充実ぶりが伝わってくる。
「季節ごとに魅力ある食材を見つけて、旬のものを出していきたいですね。それには食材のルート作りが大切。生産者とのつながりをもっと増やしたいと考えています。そして、自分も成長しながら、人を育てたい。そのチャレンジを続けることが夢につながっていくのだと思います」
課題は人材育成。次の展開を考えるにも「まずは人ありき」。しかし、多くの人を面接する中で、疑問に感じることも少なくないという。
「人気の店で働いていたとか、キャリアさえあれば問題ないだろうというタイプの人が多い。大事なのはこの店で何を学び、自分がどうなりたいか。目の前のことをもっと大切にしてもらいたいですね」
部下を想う優秀な上司によりスタッフが育てられる――これもまた修業時代に得た学びの1つ。自身も日々進化し続けながら、後進の成長を願う。馬場氏の言葉は飲食の仕事を志す多くの人たちの胸に響いてくるにちがいない。
「利益重視の経営者寄りの考えと、良い食材を贅沢に使いたい料理人寄りの考えがあります。その相反する思考の落とし所を、お客様の反応を探りながら見つけていく。そんな正解の導き方を間近で見ることができるのも、オーナーシェフのお店で働く利点です。思考力が身に付く環境を活かし、3つ4つ先のことを考える〝脳みそ主導タイプ”を目指してください。いずれは店内を流れるように動け、視野も広がっているでしょう」
ビストロ フェーヴ
住 所:東京都千代田区神田神保町1-44-5 フィオーレ神保町1F
電 話:03-5577-6040
時 間:【平日】11:30~14:00 (L.O.13:30)、18:00~23:00(L.O.22:30)
【土曜】17:30~21:00(L.O.20:00)
定休日:日・祝日
交 通:地下鉄各線「神保町駅」より徒歩3分
文:西田 知子 写真:yama
2016年03月17日 掲載