独立希望者必見!個人店オーナーからの熱いメッセージ
土と青
店主 松本 光太郎
思い描いていることを信念化しよう。そこから、夢実現への第一歩が始まる。
松本 光太郎(Kotaro Matsumoto)
1979年、大阪府生まれ。高校在学中より居酒屋でアルバイトを始める。カフェに4年間勤務した後、広告代理店、web系企業で広告営業に携わる。27才で再び飲食の世界へ戻り、将来の独立を見据えて、居酒屋で経験を積む。2013年10月、「土と青」をオープン。
2016年3月掲載
挨拶も掃除も”凡事徹底” その姿をお客様は見ている
調布駅からほど近く、昔ながらの商店街の一角にこつ然と現れる異質な空間――。大正時代の酒蔵を模したという白壁やガラス張りの引き戸が、ノスタルジックな雰囲気を醸し出す。インパクトのある店名も相まって、深く印象に刻まれそうだ。
「いえ、ややこしくなってしまわれるお客様も多いんですよ。『青と土』や『月と青』と間違われたり(笑)」
店主の松本氏によると、「土と青」には、おいしい素材を育む海と大地の意味がこめられているという。「街の身近なレジャースポットとして大人が気軽に楽しめる場所を提供したい」と立ち上げてから3年目。今では地域の人気店として認知され、常連客が3、4割を占める。
「中には、週に3回いらしてくださる方も。自分の親父じゃないか(笑)って感じる人もいます。旅行の手みやげを持ってきてくれたり、箸置きのところへ『また来ます』とメッセージを書き残してくれたり、調布はとても人間味あふれる街です」
大規模な再開発が予定されているエリアでもある。東京オリンピックの競技会場も擁し、今後のますますの発展が期待される。街の繁栄とともに、「土と青」への注目度も一層高まっていくだろう。
「オープンから2年は、『明日にはお客様が来ないかもしれない』と毎日が不安でした。危機感を感じていたからこそ、日々のお客様との時間を大
切にできているのだと思います。凡事徹底という言葉が好きです。毎日の朝礼でも、当たり前のことを徹底的にやり続けることが差別化になり、大きな成果がでるとスタッフには伝えています。挨拶、掃除、お見送り、電話対応一つとってもそうです。そういう部分をお客様は見てくださるのではないでしょうか?」
夢を叶えるための山登りは
平らな距離まで視野に入れる
本格的に飲食の仕事に就いたのは27才という遅いスタート。広告代理店やweb系企業でサラリーマン生活をしたり、音楽活動にのめり込んでいた時期も。そんな異色の経歴を持つ松本氏が自分の店を構えるまでには、転機となる出来事があった。
「サラリーマン時代の社長が夢を叶えるための方法を教えてくださって、目標をしっかりと立てないといけないと考えるようになりました。そこから、居酒屋開業に向けて、頭が徐々にシフトしていきました」
では、誰もが知りたいと思うであろう夢を叶えるための方法とは?
松本氏は熱をこめて語る。
「まず、自分の思い描いていることを信念化しなければなりません。信念化とは、初恋のような状態です。初恋のときには、何もなくてもその人のことが頭に浮かんできますよね。そうなるまで、最初のうちは無理をして自分の夢について考えるようにします。そして、考えるたびに正の字を書き、1日に何回考えたかを確認します。それを続けていると、いつの間にか、10分に1回くらいの間隔でパッと浮かぶようになっていくものです。居酒屋開業に向けて、飲食に戻ろうと決めました」
以前にカフェで働いた経験はあるものの、初めての居酒屋勤務。しかし、将来の独立という目標を見定め、貪欲に吸収する日々が続いた。
「料理の技術面からサービスまで、すべてが勉強でした。中でも、お客様に対する気づかい、気配り、真心のこめ方をそこで学びました。たとえば、前日の反省をスタッフ全員で話し合って、改善に取り組む朝礼は今の店でも取り入れています。その頃から、自分の店ならどうするか、こうしたほうがいいだろうと常に考え、箇条書きにしていました」
独立開業までの5、6年にわたる長期計画。「自分ができていないことをすべて書き出し、1つずつしらみつぶしにしていく」なかで、居酒屋開業という夢を着実に具現化。予定していた通りの2013年10月、「土と青」をオープンする。
「山を1つの目標とすれば、途中で夢をあきらめる人の多くは、いきなり山を登るのだと勘違いしています。実際には、山にたどりつくまでにはかなりの距離があります。そこを忘れているから、目標を見失ってしまうのです。平らな部分までを視野に入れて、しっかりと歩いていくこと。いざ、登り出した瞬間には、始まったなと絶対に気づくはずです」
松本氏が考える店主としての心得
01 凡事徹底
02 改良・改善
03 価値創造
永続的に残すための店づくりを 本当の勝負はここから
今も、「土と青」の評判は口コミでじわじわと広がり続けている。お客様の紹介で訪れる人が多いというのが特徴的な傾向のひとつ。連日、大勢のお客様でにぎわっている。
「『誰々の紹介で』とよく言われるのですが、その誰々がわからないということも(笑)。忙しいピーク時にスタッフ一丸となってしっかりとしたものを提供できたときは嬉しいです。酒と料理はもちろんですが、居酒屋には雰囲気が大切。我々が黒子として盛り上げて、お客様が笑ったり、わーっと歓声を上げたり、楽しそうにしているのを間近に見ると、よかったなと実感します」
今後の展開も視野に入れているが、まずは盤石な土台づくりから。人材の確保と育成という課題もある。
「仕事がマンネリ化しないためにも、前に進み続けたいと思います。それには、新店舗を出すことが必要になるでしょう。ただし、その前にここを誰もが知るような店にして、永続的に残していかなければ。スタッフが『土と青』で働いているんだと胸を張れるくらいの店にしたいですね」
次なる目標に向けて、料理も経営も日々勉強。自分より経験豊富なスタッフに直接、教えてもらうことも厭わない。そんな松本氏の謙虚さと常に学ぼうとする姿勢にも、夢を叶える秘訣があるにちがいない。
「正の字を1つひとつ書くなんて、馬鹿馬鹿しくて誰もやらないですよね。それをやってみればいい。あとは期限を決めて、自分に足りないものを理解してつぶしていく。それができるようになったときには、過去の自分ではなくなっているはずです。夢を実現する一番の近道はこれしかありません。ただ、本当の勝負はここから、店を出した後から始まるもの。他の店の皆さんも毎日学んでいますから、負けていられませんよ」
土と青
住 所:東京都調布市小島町1-34-14
電 話:042-444-5352
時 間:16:00~24:00(23:30L.O.)
定休日:月曜日
交 通:京王線「調布駅」より徒歩4分
文:西田 知子 写真:yama
2016年03月03日 掲載