独立希望者必見!個人店オーナーからの熱いメッセージ
新橋 かま田
店主 鎌田 保義
純粋に楽しいことを仕事にしたい
そう考えたら、”おでん”でした。
鎌田 保義(Yasuyoshi kamata)
1977年、埼玉県生まれ。調理師専門学校を卒業後、箱根の旅館に就職する。関西へ移り、「なだ万」等で日本料理を学ぶ。その後、埼玉に戻り、浦和の「お多幸」で約6年半経験を積む。2009年3月、独立を果たし、「新橋 かま田」を開業する。
2015年2月掲載
逃げては戻りの迷いの日々を経て関西でおでんに巡りあう
今、まさにおでんのハイシーズン。「新橋 かま田」でも年始の営業からお客様が列をなしていたという。
「寒い中、待ってくださるお客様は本当にありがたいと思います」と、店主の鎌田氏。1年半前に改装を行い、席数を倍に増やしたものの、この季節はたちまち満席となる。さまざまなメディアにも、数多く取り上げられている人気店だ。
人気の秘けつは、きめ細やかで丁寧な仕事ぶりにあるに違いない。
「出汁に使う昆布もいろいろな産地があったり、鰹節にも煮物用と吸い物用があったり、鰹だけではなく鯖節や鰯もあります。出汁を抽出するのにも、ものによって温度を下げたりと、みんな違う。店を始めた頃と気持ちは何も変わっていませんが、つくるものは年々変わっています」
現状に満足することなく常に前を向き、新たな挑戦を続ける。「もちろん、大変さもありますが、こういうところが楽しいんですよ」と、鎌田氏はその魅力を語る。ひたむきな姿勢から、おでんにとことん惚れ込んでいるのが伝わってくる。
とはいえ、おでんに巡りあうまでは落ち込んだり、逃げ出したり、迷いの日々が長く続いていたという。
「社会人1年目は旅館に勤めたのですが、朝から晩まで叱られっぱなしで自分の存在がないような感じでした。しょっちゅう仕事を投げ出し、逃げたところで自分には何もない。山の中ですから下りるのに1時間、戻るのにも1時間かかるんです(笑)。逃げては戻りの繰り返しでした」
その後、関西へ渡り、さらに日本料理の修業を重ねるが、「本当にこれをやりたいのか」という迷いは募る一方。そんなモヤモヤを、一気に晴らしてくれたのがおでんだった。
「食べておいしいのは当たり前ですが、仕事をする雰囲気もいい。純粋に楽しそうだなと感じました。楽しいことを仕事にしたいと考えたら、それがおでんだったんです」
店主になり世界の広さを実感
できることを精一杯やりたい
天職を見出した鎌田氏は地元の埼玉に戻りさっそく、浦和「お多幸」にアプローチ。「何もできない自分ですが、とにかくおでんをやりたい」と熱意を伝え、採用される。
「楽しいことをやるからには苦しみもついてくるものだと考えられたので、長く勤めることができました。社長の姿を見て、身近なところにああいうふうになりたいという目標を持てたのも大きかったと思います」
基礎からみっちりと学び、腕を磨いた6年半。いつしか自信もつき、独立を志すようになっていった。
「以前から独立したいという気持ちはありましたが、いつか自分の店を持てたらいいなというくらいの漠然としたものでした。ただ、こうしたらもっとおいしくなるんじゃないかと思っても店の方針でできない。社長や親方の考え方とズレが出てきました。自分にはどれくらいの腕があるのかと試したくなってきたんです」
オフシーズンに入ったところで退職し、独立開業の準備に専念。人気エリア・新橋での物件探しには苦労をしたが、角地の路面店という理想的な店舗と出会い、2009年3月、「新橋 かま田」を開業する。
「実績はないけれど、自信だけはありました。ところが、店主になって野菜の仲買さんや魚の仲買さんなど、いろいろな人とつきあうようになってみると、世界は広いなと実感しました。自分の自信なんて大したことがないと、すぐに気づきました」
そこから、昔ながらの変わらぬ味を大切にしながらも常に前向きに、より良いものを追求し続ける現在の鎌田氏の姿勢が定まった。
「雇われているときには使いたくても使えなかった、良い素材をどんどん取り入れました。利益も考えなければいけませんが、できることを精一杯やりたいと思いました」
試行錯誤を繰り返し、出汁を関東風から関西風に変えるなど、大胆な変更にも着手。その深みがありながら、すっきりとした味わいはより多くのお客様の支持を集めていった。
「お客様に対する考え方も変わってきました。立ち上げた当初は、自分の人柄で来てもらえるような店にしたいと考えていました。もちろん店主の人柄も大事なのですが、お客様を呼べるのは、やはり味だなと感じています。だからこそ、チャレンジを続けていきたい。今も日々、ベストを尽くしています」
鎌田氏が考えるオーナーシェフの心得
01 取引先に感謝と敬意を
02 失敗しなければ人材は育たない
03 お客様を呼ぶ最後の決め手は”味”
刺身もおでんと並ぶクオリティ 新たなメニュー開発に力を注ぐ
オープンから6年。将来を見据えての店舗改装によりスタッフも増員する中、鎌田氏が現在の課題とするのは人材育成だ。
「失敗を経験しなければ人は育たないということが、ようやくわかってきたところです。失敗したのを厳しく叱っても意味がありません。若手の失敗をうまくフォローしてあげるのが店主の仕事。野球にたとえれば、野手のエラーで点が入っても、まあ、いいかなと思えるかどうか。場数を踏まなければ、気づけないことはたくさんあります。まずはやってもらって、それで使えるかを判断して、ダメだったらどこを変えればいいのか。ただ口で言うだけではなく、見本を見せることが大切。自分なりに経験してきたことをすべて伝えるようにしています」
さらには、新たなメニュー開発にも力を注いでいる。おでんは夏の集客が弱くなる業態だけに、ビール半額などのキャンペーンを実施する店も多い。そうしたサービス以外の強みを持って、直球勝負で臨んでいる。
「鮮魚の刺身はおでんと同じくらい押しています。夏場でも、満席になるくらいのクオリティがあると自負しています」
おすすめメニューには、おでん屋ではまずお目にかかれない大間のマグロも。店主自ら築地へ出向き、ゼロから信頼と実績を積み上げてきた6年間の成果がここにも現れていた。
「おでん屋が扱うようなものではないのですが、『かま田』がチャレンジしているのを知っている仲買さんが回してくれているんです。それを無駄にしてはいけないですよね。食材を届けてくれる人たちに敬意と感謝の想いを持って、これからも自分の味を追求していきたいと思います」
新橋 かま田
住 所:東京都港区新橋2-11-5
電 話:03-3502-5133
定休日:日曜・祝日
時 間:17:00~23:30
交 通:各線「新橋駅」より徒歩3分
文:西田 知子 写真:yama
2015年02月05日 掲載