独立希望者必見!個人店オーナーからの熱いメッセージ
DEUX ART (ドゥーアール)
オーナーソムリエ 小屋敷一貴
サービスマンはお客様の心を動かすプロフェッショナルの仕事です。
小屋敷一貴(Kazuki Koyashiki)
レストランのアルバイト勤務から飲食の世界へ。サービスマンとしてのスキルを磨きながらソムリエ資格を取得。都内有数の高級フレンチ店を経た後、飲食系複合施設の支配人を務めマネジメントの経験を積む。2011年、表参道に「ドゥーアール」をオープンさせる。ワインへの造詣が深く料理とのマリアージュに定評がある。
2014年10月掲載
1日4組限定の完全予約制 永久不変な本物の価値を提供
飲食店の理想を追求すれば、こういう形になるのではないか―そんなことを想わせる「ドゥーアール」は、知る人ぞ知る究極のフレンチレストラン。1日4組限定の完全予約制。シェフ1人、ソムリエ1人がお客様におもてなしの限りを尽くす。
現在35才、若きオーナーソムリエの小屋敷氏が掲げるコンセプトは「永久不変な本物の価値を提供できる店」。良いものを知り尽くした大人たちに向けて、まさに時代にマッチした店づくりといえるだろう。 「本物を理解する人たちが安心して過ごせる場所にしたいという想いが根底にあります。そのために料理やワインはもちろん内装や器など、すべてにこだわり抜きました。お客様の感性を満たす店でありたいですね」
ワイングラス1脚、皿の1枚1枚にまで徹底し、洗練を極めた空間が完成する。小屋敷氏は「この店は、今まで自分がやってきたことの集大成」と胸を張る。 「ものを見る目が自然に培われてきたのだと思います。幸せなことに、一流品に囲まれて働く機会が多かったですから」
サービスのプロフェッショナルを志向して、より高いステージへと、ひたすらに前進を続けてきた。 「サービスマンとしての成長が人間としての成長につながります。人としてしっかりとしたものを持っていなければ、一流のサービスマンにはなれません。自分自身の成長と仕事の成長を一緒にできるのが、接客の一番の魅力です」
いつかに備えていたからこそ
独立に踏み出すことができた
大学卒業後、小屋敷氏は「遅いスタート」で本格的に飲食の世界へ。アルバイト経験はあったものの、当初は右も左もわからない状態だった。 「毎日、満席になる大箱のレストランで、何をしていいのかもわからない。初めて大々的な挫折を味わいました。できない自分を認めるのが悔しくて悔しくて(笑)。先輩が年下だったりもして、焦っていました」
早朝から深夜までのハードな勤務。離職率が高く、気がつけば同期は誰ひとりいなくなっていた。
「できるようになればなるほど、今度は上の人たちが揚げ足を取るんです。穴ができるところをわざわざチェックしに来たり。ですから、隙がないようにいつも防御線を張っていました。そんなところでがんばる必要はないと思うかもしれませんが、逃げ出してもまた同じ壁にぶち当たるだけ。乗り越えようと寝る間も惜しんで勉強しました。結果的には、そこで基礎を学んだことが大きかったですね。技術面でも精神面でも、ビクともしない自分ができました」
ソムリエの資格も取得。いつしか、高級ワインを扱うための心得も身につけていった。 「お客様に『お決まりですか?』とワインのオーダーをたずねて、『君じゃないんだ』と言われたことがありました。新米ソムリエではなく、ちゃんとした人に対応してもらいたいと思われたのでしょう。それから、その方が来るたびに担当して水をついだり、料理を運んだり、ワイン以外のすべてを完璧にしようと心がけました。そうするうちに、いつものように『ソムリエを呼びます』と伝えると、『いや、君でいいよ』と言っていただけたんです。自分の姿勢を見せることで、ようやく認めてもらえました。ソムリエとしての基礎ができたと感じる瞬間でした」
その後、「てっぺんが見たくなって」高級店に転職。「一流といわれる人々」と向き合う日々を送る。 「2、3時間の接客でもマラソンを走りきったくらい、ドッと疲れるんですよ。10万円のワインには、1万円のワインの10倍のサービスをもって開けなくてはなりません」
さらに、都内複数店舗の立ち上げに携わり、マネジメント業務を経験。経営者としての視点を培った。
次のステップを見据え、ここまで着々と進めてきたかのようだが、実のところ、独立開業にこぎ着けたのは「流れだった」と小屋敷氏は語る。 「いろいろなお話をいただいて、どれもしっくりきませんでした。そこで、頭に浮かんだのが独立です。何が必要なのかを調べ、半信半疑で動いてみると、資金調達も物件探しもすべてがスムーズに進み始めました」
2011年8月、独立を決心してから、わずか3ヶ月の準備期間で「ドゥーアール」をオープンする。 「いつかは自分で店を持つだろうと思っていましたが、それがいつなのかを設定していませんでした。ただ、いつかに備えて、いつでもできる状態をつくっておいたからこそ、今だと踏み出せたのだと思います」
小屋敷氏が考える経営三箇条
01 顧客満足が第一
02 オーナーは仕事を選ばない
03 ブレない軸を持つ
飲食業界はサービスの時代へ プライドを持って取り組もう
オープン後、認知が広がるには時間を要した。それでも、小屋敷氏は信念を曲げず、クオリティの高い商品とサービスを提供し続けた。いかにお客様に満足していただけるかを追求し、2年目には現在の営業スタイルが完成。ほぼ同時期に経営は軌道に乗り、評判は広まっていった。
「良いことも悪いことも100やったことが100返ってくるのがオーナーの醍醐味です。世の中を見る目が変わり、これまで見えなかった景色も見えてきました。ただ、自分のやりたいことをやりたいから独立を目指すという人は多いですが、実際にはオーナーはやりたくないこともしなければなりません。自分の店を持つためには、やりたくないことでもやれるかという覚悟が必要です」
最後に、小屋敷氏に今後の目標をたずねると「この店をベースにして価値観を継続していきたい」とのこと。そして、「サービスマンもここまでやれるということを知ってもらいたい」と語る。オーナーソムリエという選択は、この道を志す人たちの目指すところとしてモチベーションアップにつながるに違いない。 「飲食業界はこれからサービスの時代に入ります。サービスマンはますます重要になるのに、将来の夢を描けていない人が多い。ずっと続けられる仕事として捉えてもらたいですね。サービスマンは人の心を動かすスキルを身につけたプロフェッショナルです。真剣に取り組めば、必ず誇りを持てるようになります」
DEUX ART(ドゥーアール)
住 所:東京都港区北青山3-14-4 イズミビルB1F
電 話:03-6427-5484
時 間:12:00~15:00(L.O.13:30) 18:00~23:30(L.O.21:30)
定休日:月曜日
交 通:地下鉄各線「表参道駅」徒歩3分
文:西田 知子 写真:yama
2014年10月02日 掲載