独立希望者必見!個人店オーナーからの熱いメッセージ
オトナノイザカヤ 中戸川
店主 中戸川 弾
自分が楽しみ、お客様も喜ぶ
幸せのサイクルが回り始めました。
中戸川 弾(Dan Nakatogawa)
1979年、神奈川県生まれ。ファッションの専門学校を卒業後、渡仏。気づきを得て、24才で飲食の世界へ方向転換する。都内各地のイタリアンレストランで経験を積み、本場イタリアでの修業も経験する。昨年9月、「オトナノイザカヤ 中戸川」をオープンする。
2014年3月掲載
オープンから順調な駆け出し 本当に人に恵まれています
代々木上原の南口を出れば、すぐに「中戸川」の印象的なロゴが目に飛び込んでくる。まさに駅近なこの店舗が数年間空いたままだったのだとか。いわゆる「飲食店お断り」の物件。大家さんの心を開かせたのは中戸川氏が綴った一通の手紙だった。
「その土地に住んでいる人たちと向き合いながら仕事ができる場所を考えると、代々木上原だったんです。毎日、物件探しするうちに不動産屋さんに気持ちが伝わり、気にかけてくれるようになりました。『それだけの熱意があるなら、大家さんに手紙を出してみれば』とすすめられ、バシッと書きましたよ(笑)。手紙を気に入ってもらえて、『好きにやってみなさい』と言っていただくことができました。今は何でもインターネットの時代ですけれど、人を動かすのはやはり手紙だったり、言葉ですよね。それから、大家さんにはずっと応援していただいています」
昨年9月14日にオープン。もともと事務所だっただけに、水回りの設備等の問題はあったが、大きなトラブルもなくスタートできた。
「オープン当初、前の職場のパートナーだったソムリエが独立する前で、彼が中心になって立ち上げの形をつくってくれました。自分でも本当に人に恵まれているなと感じます」
開店後も経営は至って順調。口コミで評判は広がり、小規模な店ながら、たちまち満席になる日も多い。「思っていた以上に、自分の形をスムーズにお客様に取り入れていただけました」と、中戸川氏は語る。
立ち上げの苦労話をうかがうつもりが、「すみません。今の段階では見つかりません」という言葉が困ったような笑顔と一緒に返ってきた。
やっぱり母の温かな手料理が一番
より自分らしい表現を目指して
新鮮なお刺身や昔懐かしいおばんざい、そして本格的な手打ちパスタまで欲張りに味わえるのが「中戸川」の魅力。大人が肩の力を抜いて楽しむ「オトナノイザカヤ」というコンセプトこそが、地域の人々に受け入れられた第一の要因ではないかと、中戸川氏は分析している。
「このスタイルに尽きると思います。もしもイタリア料理をやっていたら、今の流れはなかったでしょう」
独立開業に至るまで、イタリアン一筋に歩んできた中戸川氏。24才でこの世界に飛び込み、2年後には「とにかく現地が見たくて」、本場イタリアでも修業を重ねてきた。
「経験をもっと積んで、自分の見たいものが何かわかってから行けばよかったのかもしれませんが、感じ取れるものがいっぱいありました。同僚の家に招かれ、お母さんのご飯を食べさせてもらって、やっぱり母の温かな手料理が一番だなと思いました。自分の母や祖母の料理から感じるのと同じものが伝わってきたんです。よそ行きじゃない、身近な料理をつくりたいという想いがしました」
このとき、既に目指すべき方角はイメージできていたにちがいない。しかし、帰国後には「本物の修業」が待ちかまえていた。
「イタリアから戻って調子にのっていたのが、こなごなに打ち砕かれました。お前は何を見てきたんだという感じですね。シェフ1人、自分1人みたいな小さな店で毎朝コーヒーを焦がし、パンを練り、野菜を炒めて、シェフを迎えるんです。家に戻るのは3時、4時。ひたすら時間に追われる毎日でした。でも、逆に言えば、日本でイタリアそのままを表現する店でしたから、自分が見られなかったところを師匠から直接教えてもらうことができました。そこからは、ノンストップで突っ走りました」
その後、麻布や広尾でさらに経験を積み、最後に勤めた店ではシェフとして店舗運営にも携わってきた。10年間の修業期間を経て、いわば満を持しての独立だった。
「それまで本当のイタリア料理をつくってきたので、自分の中ではやりきったという気持ちがありました。より自分らしい表現ができるステップに進みたかったんです。たとえば、日本の水分の多い米はリゾットにするより土鍋で炊いたほうがナチュラルですよね。イタリアから米を取り寄せてリゾットをつくるのも楽しいけれど、次の自分のステップは日本の米で土鍋ごはんにしようと決めていました。もしも娘と栗拾いに行って、『栗ごはんがあります』とフェイスブックに載せたなら、お客様からうれしい反響がいただける、なんてことがあれば楽しいでしょう。自分も楽しい、お客様にも喜んでもらえるという幸せのサイクルが回り始めたのを感じています」
中戸川氏が考える店主の心得
01 お客様の立場になる
02 常にベストを尽くす
03 仕事を楽しむ
不便なところにチャンスはある 同じ志を持つ仲間と成長したい
高級住宅街として知られる代々木上原の主要な客層は40代、50代。子育てを一段落した夫婦がゆったり過ごそうと来店するケースも多い。
「自分がここに住み、その年令でこういう生活をしていれば、どんな店がほしいのかを考えました。上原には高級イタリアンやフレンチは多いのですが、和食は立ち飲みに近いカジュアルなスタイルの店がほとんど。高級店は頻繁に行くところではないし、カジュアルな店は居心地がよくないんじゃないか。その狙ったポイントに落とし込めたと思います」
毎週訪れるリピーターのお客様も定着。地域の人々に寄り添いながら、「中戸川」は発展を続けている。
「かわいがっていただいている皆さんに、満席でお断りしなければならないこともあります。そんなとき申し訳ない気持ちになりますが、逆に『よかったね』と言って喜んでいただけたりもするんです。成功を心から喜んでくださっているんですよ」
では、次なる展開は? 「席数をもっと増やしたい」と中戸川氏は現実的な課題は答えてくれたものの、「まだ言えないんです」とのこと。そこには、さぞかし大きなビジョンが描かれているにちがいない。
「人が不便や窮屈に感じるところにビジネスのチャンスはあります。そのストレスをなくすことでお客様に喜ばれ、商売の成功につながります。ですから、今も日常の中の不便を探し続けているんです。同じ志を持つ人たちと一緒にオリジナリティのある、おもしろいことに取り組み、さらに成長していきたいですね」
オトナノイザカヤ 中戸川
住 所:東京都渋谷区上原1-33-12 ちとせビル2F
電 話:03-6416-8086
定休日:月曜日
時 間:火~土/17:30~翌1:00(L.O.24:00)
日曜日/17:30~22:30(L.O.21:30)
交 通:各線「代々木上原駅」南1番出口すぐ
文:西田 知子 写真:ボクダ 茂
2014年03月06日 掲載