独立希望者必見!個人店オーナーからの熱いメッセージ
炭火魚、旬彩料理 坂本
料理長 坂本 健一
誰もが知っている魚とごはんだから、
誰でも差がわかると思って。
坂本 健一(Kenichi Sakamoto)
1974年、東京都生まれ。天ぷら「天松」から修業をはじめる。1年のニュージーランド滞在では、毎日大量の魚をさばく。赤坂、浅草でふぐや料亭の味も学び、30才のときに銀座の和食店で料理長就任。このとき、炭火焼を経験する。前職は銀座並木通りの和食店で店主を任され、37才で独立。
2014年1月掲載
和食をもっとリーズナブルに、という想いをカタチに
天ぷら専門店からはじまった修業時代。ニュージーランドに1年滞在したときは、和食店に入り毎日50本もの魚をさばきつづけた。赤坂ではふぐにもさわり、浅草では料亭の味も学んだ。後に「坂本」の看板メニューとなる炭火焼と出会ったのは、初めて料理長に抜擢された30才のとき。そこからさらに何店舗もの和食で魚料理を経験してきた。
独立したのは37才。風情溢れる街並みに粋な和食店がひしめき合う、四谷での創業だ。
「えっ、和食のお店?」といきなり意外性のある内装にワクワクする。和食店の多くは檜など天然木によるカウンターをしつらえるのに対し、坂本氏が採用したのはスペイン産天然大理石。照明にも、和の空間ではあまりお目にかかれないデザインのものが使われている。
ランチでは、季節の魚を炭火で焼き上げ、新潟から届く精米したてのお米を炊きあげた、つややかなごはんとともに提供。カウンター越しに手渡される魚の皮は、じくじくと脂がはじけている状態だ。
夜は刺身、煮付け、炭火焼、どんぶり、魚の種類もブリ、鯛、すっぽん、フグ、ハモ…、素材に合わせて、さまざまな調理スタイルで仕上げる。常連客のリクエストにもきめ細かく対応し、その場でアイデアいっぱいの魚料理をつくりだす。
さまざまな魚にさわり、魚を料理しつづけてきた和の達人。それが「坂本」店主、坂本健一氏だ。
「内装に関しては、あまのじゃくな性格もあって(笑)、大理石のカウンターにしてみました。また、心のコンセプトとして、和食をもっとリーズナブルに、という想いがあります。毎日、魚にふれ、魚を焼いている反動でしょうか、私自身、プライベートで好きな料理は肉なんです(笑)。それも血のしたたるようなステーキとかね」
とても気さくな話しぶり。カウンター越しに向き合っていても、ほっと安心した気分で食事を楽しませてくれる店主である。
日本人なら誰もが知っている、
炭火魚とごはんで勝負
「坂本」のコンセプトを象徴する名物料理は「炭火魚」と「ごはん」だ。店主自ら築地へ通い、目と足でチョイスしてきた季節の魚はすべて天然もの。そして、祖母が住む新潟から送られてくる精米したてのお米。日本人なら、誰もが知っている魚とごはんで勝負している。
「みんなが知っている、それはつまり、誰でもそのおいしさの差がわかるということだと思うんですね。鮮度はもちろん、ちょっとした塩加減、焼き方、炊き方、そうしたミクロの精度の中で、ほどよいあんばいを目指しています」
築地通いの年数も長く、魚屋との結びつきも太い。しかし、だからといって電話やファクスによる発注に頼らずに、築地に通いつづける。
「築地市場を歩くと、素材を通して季節感を感じますからね。四季の移り変わりを実感するためにも、築地に通うことは料理人として貴重な体験です」
大理石のカウンター越しに立てば、料理人を超えて、サービスマンとしても活躍する。
寒い冬の夜、凍えながらひとりの女性客が入ってきたとき、まず熱いおわんを提供することもある。その場のシチュエーションに合わせて、瞬時にサービスを考える。
「常連のお客さまは、常に新しいものを求めます。飽きられないためにも、または前回とは違う料理をお出しするためにも、アイデアの引き出しをいつもいっぱいにしておく必要があります。築地を歩いているときも、その日のお客さまを思い浮かべながら、仕入れるようにしているんですよ」
大理石のカウンターをはさんで、目の前のお客さまのために全力を尽くす店主の姿がある。
坂本氏が考える店主の心得
01 「感謝」…周囲の人に生かしてもらっている
02 「継続」…マンネリにならない工夫をする
03 「思いやり」…カウンター越しの心遣い
人とのつながりを大切にし、街の文化を楽しむ
坂本氏のもとで、若いスタッフが独立をめざして修業中である。親方である坂本氏の考えを瞬時に察し、動き回る。親方として、何を伝えているのだろうか。
「料理人と店長の差を教えていくのが私のやり方です。料理人っていうのは、いわば商品担当者でしかない。もちろん商品力は大事ですけど、店を経営するということは、それ以外の要素の方が大きいわけです。店長という仕事は、あるときはホールに立ってサービスしたり、数字管理をしたり、集客のための企画を練ったり、常連さんとコミュニケーションを取ってファンになってもらったり、予約の電話対応をしたり。そうやって店をやっていくうえでのありとあらゆる仕事を高い精度でやらなくてはならないからです」
街の人たちと仲良くなることも、店長や経営者には欠かせないと、坂本氏は言う。四谷という下町風情の残る街で、飲食店をつづけていくためにも、人と人とのつながりを大切にしている。
「四谷の街や文化を楽しんでいますよ。お祭りにも積極的に参加しています。おみこしを担ぐ人たちに、店の前でお酒を振る舞ったり。町内会の餅つき大会にも参加しています。そういう街のイベントで商店主のみなさんや常連のお客さまとお会いできて、楽しくコミュニケーションが取れることもありますからね。また、飲食店の店主たちとも仲良くさせていただいています。常連のお客さまから『洋食のお店でおいしいところ、教えてよ?』なんて話題になると、知り合いのお店を紹介したり、その逆にご紹介をいただいたり。そういう横のつながりをしっかりともっていると、新しい街の情報も入ってきて、店づくりに役立つものなんですね。あまり馴染みのなかった四谷でやってこれているのは、この街を楽しみ、人とのつながりを大切にしてきたからだと思っています」
まだまだ寒さのつづくこの季節。体の芯まであたたまるすっぽん鍋が、この時期の人気メニューだ。グツグツと煮えた鍋を大切そうに抱えて、カウンターのお客さまに運ぶ坂本氏。その笑顔には、人や街に感謝している店主の面影が見えた。
炭火魚、旬彩料理 坂本
住 所:東京都新宿区四谷1-23-9 YOK BUILD1F
電 話:03-6380-4643
定休日:日曜日
時 間:ランチ/11:30~14:30(L.O.14:00)
ディナー/17:45~23:00(L.O.22:30)
交 通:各線「四ツ谷駅」徒歩3分
文:高木 正人 写真:ボクダ 茂
2014年01月09日 掲載