独立希望者必見!個人店オーナーからの熱いメッセージ
鉄板焼 ~Nami~
鉄板笑人 金井 敏幸
突っ走れ。走りながら考えろ
金井 敏幸(Toshiyuki Kanai)
1972年、東京都生まれ。16才から飲食店でアルバイトを始める。高校卒業後、調理師学校で学ぶ。イタリアンレストランでの修業を経て、25才で鉄板焼、お好み焼きの世界へ、27才で店長に就任。その後、知人が経営する銀座のビストロに勤務しながら、開業準備を進める。2007年12月、「鉄板焼 ~Nami~」をオープンする。
2013年9月掲載
鉄板焼のスタイルは1対1 ストレートに伝わるのが魅力
東京都品川区にありながら、下町情緒あふれる商店街が連なる戸越銀座。その一角にある鉄板焼・お好み焼きの店というイメージで「鉄板焼 ~Nami~」を訪れると、良い意味で裏切られるだろう。
前菜から肉料理、海鮮料理まで、高級食材をふんだんに用いた豊富なメニュー。どれもが素材にこだわり抜き、イタリアンやフレンチの技法で鮮やかに仕上げている。ここではお好み焼きは最後のお楽しみ、〆にいただくのがちょうどいい。
だからといって、肩ひじ張った雰囲気は全くない。おいしいものをたっぷりと楽しんでもらいたいというオーナーシェフ、金井敏幸氏の想いと、自ら”鉄板笑人”と名乗る気さくな人柄が伝わってくるようなお店だ。
「笑いと商いの2つの意味があるんです。もともと下町の生まれで、かしこまった人間じゃないので(笑)。店名も『奥さんの名前なの?』とよくきかれるんですけれど、波に乗っていこうという想いを込めました」
東京・葛飾に生まれ育った金井氏。16才から飲食の世界に身を置き、初めての本格的な修業先はイタリアンレストラン。第1次イタリアンブームも経験してきた。しかし、最終的に鉄板焼のお店にしたのは他でもない。何より、お客様とのコミュニケーションを求めたからだ。
「イタリアンやフレンチは当時、オープンキッチンではなかったんです。おいしいのか、まずいのかさえわからない。その点、鉄板焼のスタイルは1対1。あのお客様はうまそうに食べてくれているなと、考えながらつくることができます。何もかもストレートに伝わるのが、この仕事の一番の魅力ですね」
お好み焼きだけで終わらせない
強気の”お願い”で軌道修正
オープンは6年前、金井氏が35才のとき。以前にこの地でお好み焼き店の店長をしていた経験もあり、土地勘のあった戸越銀座を選んだ。当初は人も雇わず、「好きなことをして食べていければいいだろう」という感覚で始めた店だったという。
「暇だろうなと思っていたのに、最初から人が集まってくれました。前の店のお客様や飲食の仕事仲間が来てくれ、ジワリジワリと広がっていきました。立ち上げの苦労といえば、寝不足くらいですかね(笑)」
ところが、半年ほどで軌道修正を余儀なくされる。金井氏の目指す店のコンセプトとの差がだんだん明らかになってきたからだ。
「人が常にあふれていても、お好み焼き1枚を2人で食べたりというお客様も多かったんです。おいしいものをいっぱい食べて、楽しんでもらいたいと始めたお店なので。お好み焼きだけで終わらせたくないと思いました」
そこで、店の入り口に黒板を掲げて”Namiからのお願い”とした。その内容は「お好み焼きのみのお客様ご遠慮願います。軽く飲む&食べる、お客様はお断り致します」というもの。傲慢とも受け止められかねない、強気なアピールである。
「お客様が引いてしまうのではという迷いはありました。実際に『前の店と違う』と言って、離れていった方もいました。でも、自己満足と思われるかもしれませんが、それだけおいしいものをつくりますから、どうぞ召し上がってみてくださいという”お願い”でもあるんです」
金井氏の”お願い”はお客様に確実に届いたにちがいない。離れる人もいたが、それ以上に「Nami」のファンになる人は増え続けた。雑誌やテレビにも取り上げられ、いつしか人気店へと成長を遂げていった。
「土日は地元の方が中心。平日は接待利用で、遠くからいらっしゃる方も多いですね。地方から上京するたびに必ず来店してくださるお客様もいらっしゃいます。『また寄りますね』なんて書かれたお手紙が届くこともあって、本当に有難いですね」
金井氏が考えるオーナーシェフの心得
01 いつも笑顔で、馬鹿になれ
02 数字を知って、経営感覚を磨く
03 感謝の気持ちを常に忘れない
儲ける店よりつぶれない店 仲間の輪を広げていきたい
別の側面からも「Nami」は注目を集めている。オープン6年で5名の独立者を輩出。独立成功を後押しする秘訣はどこにあるのだろうか。
「実は、今月中にも6人目が開業します。独立者は皆、30代前半。その前に経験があってのことですが、うちでは平均2年くらいですね。体力勝負の仕事でもあり、早く始めたほうが有利。独立したいという人には、すべてのノウハウを教えています」
料理などの技術はもちろん、経営者としての数字管理についても早い段階から伝授してもらえるという。
「難しいことではありません。通帳を見せればわかるでしょう。税金はいくらかかるのかまで、オープンにしています。僕の給料がいくらなのかもわかる。必然的に、自分もそうなりたいと思うじゃないですか。すると、もっとがんばれるはずです」
飲食の仕事に携わる人なら必ず抱く、自分の店を持ちたいという夢。その夢を夢のままで終わらせないよう、金井氏は力強く励まし続ける。
「とにかく『突っ走れ。走りながら考えろ』と言います。みんな、つぶれたらどうしようとばかり考えて、受け身になってしまう。そこを乗り越えろとプレッシャーをかけます」
なるほど、開店後、軌道修正しながら理想の店をつくり上げた金井氏の「走りながら考えろ」の言葉は説得力を持って響いてくる。一方、店舗展開の選択肢もあるはずでは? と問うと即座に否定されてしまった。
「いい魚が入った、こうすればうまいだろうとか、予約のお客様の顔を想い浮かべて、好物のこれを仕入れようと考えるのが好きなんですよ」
店を切り回しながら日々、多くの人々との触れあいを楽しむ金井氏の次の目標は単なる店舗展開ではなく、仲間の輪を広げること。独立になかなか踏み切れない人にも、きっかけを与えてくれるかもしれない。
「鉄板焼にこだわらず、小さな店をつくって、そこを独立したいという人に任せ、最終的には買い取ってもらう仕組みを考えています。すると、満員のときでも『向こうにもう1軒あるんですよ』とお客様にご案内できますから。まずは、儲ける店よりつぶれない店をつくって、仲間を広げていきたいと思っています」
鉄板焼 ~Nami~
住 所:東京都品川区平塚2-13-7 2F
電 話:03-3786-7761
定休日:月曜日
時 間:火~金17:00~24:00、
土・日・祝13:00~24:00
交 通:東急池上線戸越銀座駅徒歩3分
地下鉄都営浅草線戸越駅徒歩5分
文:西田 知子 写真:yama
2013年09月05日 掲載