独立希望者必見!個人店オーナーからの熱いメッセージ
MUNCH’S BURGER SHACK
オーナーシェフ 柳澤 裕
いつまでも、最強の素人でいたいと思っています。
柳澤 裕(Yutaka Yanagisawa)
1977年、埼玉県生まれ。20代まで、ラップ音楽のヴォーカリストとして活動。食べ歩きに興味があり、肉好きが高じて肉の卸業者で1年半経験。2006年、車でハンバーガーの移動販売をスタート。ネオ屋台村に参加して腕を磨き、2011年、田町に出店する。今年4月、すぐ近くの現在の場所に移転したばかり。
2013年7月掲載
「やみつき」という名のハンバーガーレストラン
6:4で女性客が多い。しかも男子に負けず劣らず、ボリュームいっぱいのハンバーガーを両手でつかみ、豪快に食す。その姿がとても粋であり、カッコいい。
ビジネスマンや外国人の姿もある。ハンバーガー専門店らしい、ポップなオブジェがセンスよく飾られている空間で、ビールを飲み、ハンバーガーを頬張りながら、あちこちの席で会話がはずんでいる。
カウンターの中からは、パティ(お肉)が焼かれるシズル感あふれる音が聞こえる。焼いているのは、オーナーシェフ柳澤氏だ。
ラップ音楽の元ヴォーカリストらしく、チームの中でもいちばん大きな声でお客さまをお迎えし、感謝のことばを発する。キッチン道具を取ってくれたスタッフに対しても「サンキュッ!」と明るく応える。ライブステージのごとく、自分たちのノリを大切にしながら、楽しく仕事をしている空気感が店全体に漂う。
「店名の”MUNCH’S”とは、やみつきって意味のスラングなんです(笑)。やみつきになるハンバーガーをめざしているんですよ」
お皿の上でそびえたつように盛り付けられたハンバーガー。これを備え付けの専用紙ナプキンで包み、上下のバンズを軽く押さえて、かぶりつく。バンズにトッピングされた黒ゴマの香りとシャキシャキッとしたレタスの感触。マッタリとチーズが溶け出し、自家製ベーコンが香りたつ。そして牛肉のジューシーな食感と旨みがグンと広がる。豪快に食べるほど、うまいっ!
「USの指定メーカー、指定工場から安心で品質の高いUSビーフを使用しています。もちろん、ビーフ100%、つなぎは一切使っていません! 噛みしめるほど、肉本来の旨み、甘みをお楽しみいただけます」
柳澤氏のパティの仕込み方法は、肉の塊を筋引きしてから包丁でカットする。ミンチマシンなどは使わない。それから、より美味しさを引き出すために、ハンマーで叩いて繊維を切る。そして心をこめて、一枚一枚成型していく。まさに効率性を度外視したハンバーガーなのだ。
「ハンバーガーのプロ職人から見たら、なーにやってるんだ?って笑われるかもしれません。でも、それでいいんです。これが私のやり方ですからね」
屋台と当時のお客さんが、
ハンバーガーづくりの師匠だった
約5年間にわたり、屋台カーを使った移動販売で、オリジナルのハンバーガーを追求してきた。東京国際フォーラムや浦和レッズ戦など、屋外のイベントスペースを借りて、その場でハンバーガーを焼き上げ、売っていた。それが柳澤氏にとっての最高の修業時代となった。
「毎日が試行錯誤でした。疑問が出ると、それを試してみるんです。屋台って、お客さんとの距離が近いでしょ。その場で食べて、正直に何でも言ってくれるんですね。『うーん、先週のハンバーガーの方が美味かったよ』とか、『きょうのはジューシーだね!』とかね。試行錯誤の中で、お客さんの意見や感想を取り込んでいったんですね。そうやって、今のハンバーガーへと一歩ずつ近づいてきたんです。その意味では、私の師匠は屋台であり、お客さんです」
柳澤氏は、今では他店のハンバーガーレストランにあまり行かない。屋台時代も、プロ職人たちのレシピに追随するようなこともしなかった。既成概念にとらわれることなく、自分の価値感に基づいて、ハンバーガーのオリジナル性を追求してきた。
「これはこうでなければならない。これはこうあるべきだ、みたいな考え方が嫌いなんです。そういう考え方は、自分の世界を狭めるだけだし、クリエイティブじゃないと思うんですよね。なにごとも、白紙の状態から自由な発想で色をつけていくのが、私のやり方です。だって、そうじゃなきゃ、楽しくないでしょう?」
柳澤氏が考えるオーナーシェフの心得
01 感謝の気持ち
02 これはこうだ、と決めつけない
03 ライブな感覚
肉料理のいちジャンルとして定着させていきたい
10代のころから、食べ歩きは好きだった。そのため、食べる側の視点が柳澤氏の中に強く染み付いている。2011年、屋台から店舗へと展開をはじめたときも、ただ美味いハンバーガーを提供する店にしようとは思わなかった。
「品質はもちろん重要ですけど、私たちはサービスに力を入れています。ランチタイムは、スピードもサービスのうちだと思っています。また、ハンバーガーを食べると、ノドを潤したくなるものなんです。お客さんの立場になって、いいタイミングできちんと冷たい水を注ぎにいく、あるいはビールのおかわりを提案してみる。ソースで手が汚れたら、紙おしぼりを持っていく。そういう食べる側に立ったサービスをやっていけるチームをめざしています」
ホールでは奥さまの裕美子さんを中心に、スタッフたちがしなやなかなサービスを展開する。それらはどこかのレストランから借りてきたような構えたものではなく、自分たちで考え実行している等身大のサービスだ。こんなところにも、既成概念にとらわれたくない、と語る”柳澤イズム”みたいなものが感じ取れる。
タブレット端末を使ったビジュアル的なオーダーシステムで、お客さんと楽しくコミュニケーションを取ることも、柳澤氏と裕美子さんの発想から生まれた。
「これからは、ハンバーガーを肉料理のいちジャンルとして定着させていきたいですね。肉が食べたいと思ったとき、ステーキや焼肉だけじゃないよ、ハンバーガーがありますよってね。そういう存在にハンバーガーがなれたら嬉しいです。出店計画はありませんけど、日本人のつくるハンバーガーって、たぶんアメリカ人がつくるものとは感性的に違うと思うんですね。そういう日本人の感性を活かしたハンバーガーをアメリカに逆輸入したら面白いかもしれませんね」
そう言っている間も、お客さまの来店が絶えない。
「私は自分のことを料理人だなんて、思っていません。自分が信じられるハンバーガーをつくっているだけ。素人なんです(笑)。いつまでも、最強の素人でいたいと思っています」
マンチズ バーガー シャック
住 所:東京都港区芝2-26-1 i-smartビル1・2F
電 話:03-6435-3166
定休日:月曜日(祝日の場合は営業)
時 間:火~金 11:00~16:00/17:00~22:00
土 11:00~22:00
日・祝日 11:30~19:00
交 通:JR各線田町駅徒歩10分
文:高木 正人 写真:ボクダ 茂
2013年07月04日 掲載