独立希望者必見!個人店オーナーからの熱いメッセージ
魚まみれ 眞吉
代表取締役 日紫喜 智
「どう呼ぶか」より「どう帰すか」 それをサービスに活かしています
日紫喜 智(Satoshi Hishiki)
1975年、東京都生まれ。実家は居酒屋を営んでいた。サービス業に興味をもち、ホテルへ就職。3年間、フロントや営業職を経験する。25才からは海鮮居酒屋「魚真」に転職し、13年間にわたり、店長、店舗立ち上げ、総店長などを任せられる。昨年、独立を果たす。現在2店舗を展開している。
2013年6月掲載
1日1組でもいいから喜んでもらえることをめざした創業時
ハマトビウオが出回る季節はいつか? ──。これは、以前「日本さかな検定」2級で出題された問いのひとつである。答えは「春」なのだが、社長の日紫喜氏以下、社員、アルバイトスタッフまで全員がこの「さかな検定」取得をめざしているほどの勉強家ぞろい。それが「魚まみれ 眞吉」の活気をつくっていた。
梅雨イサキ、一本釣りのキンキ、白ソイ、ノドグロ、そしてこの時季おすすめというウチワエビは体をくゆらせ、まだ生きている。ネタケースに並ぶ魚たちは、キラリと鱗が輝き、どれも新鮮そのもの。そしてカウンター中央に立ち、魚をさばく日紫喜氏の胸の名札をよく見ると、「魚」へんに「愛」と書いて、「さとし」と自分の名を読ませている。
「魚がどんどん好きになっているんです。毎日、違う魚と出会うことができるのが楽しいですよ。”うわぁ、今朝のサバは今まで見たこともない大きさだ”とか、”あぁ、もうイサキの季節がやってきたんだな”とかね。魚を仕入れるって、季節や地球を感じることでもあるんです」
お客として訪れた吉祥寺「魚真」の刺身の旨さに衝撃を受け、翌日ここで仕事がしたいと電話したのが25才のとき。通常より遅い飲食業デビューだったこともあり、人の3倍の努力を積み上げてきた。築地まで積極的に出向き、魚の目利きを学んだ。独立するまでの13年間、店長職、新店舗立ち上げ、最終的には全店舗を統括する総店長にまで抜擢された。”株式会社 シン”での濃厚な修業時代を経験し、「上総屋 眞吉」を譲渡される形で独立を果たす。
創業時の考え方はシンプルなものだった。
「満席をめざすのではなく、1日1組でもいいから本当に喜んでもらえるような店でありたい、と思っていました。集客のための宣伝とかも、まったく興味がなかったですね。お客さまを『どう呼ぶか』より『どう帰すか』。そこにポイントを絞って、スタッフ一同やってきたんです」
苦手だった人が『おいしい!』と
言った時がいちばん嬉しい
独立1号店の「眞吉 本館場末店」、2号店の「魚まみれ 眞吉 宮益坂店」共々、看板メニューは「刺し盛り」である。高級寿司店や割烹料理店で出されるようなレベルの魚たちを、カジュアルな空間でしかもこんなリーズナブルに?と、驚ろくほどの内容で提供されている。
魚を知り尽くしているからできる数々の技や表現方法もある。
高級魚として有名な下関産のクエは、おろしたあと、真空パックにして氷水で数日間寝かすという手間を加える。魚たちを室温や常温にしないよう、温度や湿度に気をつかう。また、魚のドリップ(体液)を吸いとり、生臭さや水っぽさを取り除くリード紙の使い方ひとつを取っても、そこには長年にわたるノウハウが活きている。
「修業時代から、理屈を紐解くことが好きでした。なんでこのタイミングで塩を振るんだろう?とか。なんで数日間寝かすとおいしくなるんだろう?とかね。そうやって疑問を論理的に追求してきたことが、今とても役に立っています」
しかし、だからといって、客層を魚に詳しいグルメに限定しているわけではない。むしろ、魚の初心者や苦手意識をもっている人に、魚のすばらしさを体験してもらいたいとの想いがあるのだ。
「ウニやツブ貝が苦手だった人がうちに来て『おいしい!』と言ってくれたり。そういうときがいちばん嬉しいんです」
スタッフの個性を活かす、ということも日紫喜氏のテーマになっている。
店内にぶらさがる大漁旗のようなオリジナルの旗のデザインはスタッフによるもの。ランチで大人気のカレーは、カレーづくりの得意なスタッフがまかないでつくっていたものを夜の裏メニューで出したところ評判となり、ランチの看板メニューとして定着した。ランチタイムに流れるユニークなカレーのテーマ曲もスタッフの作詞・作曲によるオリジナルの唄だ。
日紫喜氏が考える代表取締役の心得
01 儲けようと思わないこと
02 仕入れから楽しむこと
03 スタッフの幸せを考える
当たり前のことを、当たり前にやるチームでありたい
独特のやわらかい握り方のオリジナルの”バッテラ寿司”。ダシのきいた煮付けの汁で食べる”特製卵かけごはん”など、名物料理も着々とできあがりつつある。
その日最高の魚を、プロフェッショナルならではの知識と技術で提供し、魚に詳しいグルメだけでなく初心者にもやさしく、そして素材を活かした広がりのあるメニューで魚料理全体を楽しめるとあって、連日大賑わいとなっている。また、回転をよくするための「時間制」など、お店側の都合で店の仕組みを考えないことも、「眞吉イズム」として定着しつつある。
楽しく魚を味わってもらおうと、スタッフが一環して目指しているのが「当たり前のことを、当たり前にやる」サービスだ。
「おしぼりをいいタイミングで取り替えるとか。トイレからお帰りのとき、椅子をさりげなく引くとか。グラスのお酒がなくなりそうになったら、飲み物のメニューをお持ちするとかね。そういう当たり前のことを、ちゃんとやれるチームでありたいです。そのうえで、全員が魚好きで、アルバイトスタッフだって『日本さかな検定』までもっているぞ、みたいな(笑)。スマートで、プロフェッショナル、それでいてあたたかい人間たちがやっている。そんな店づくりを展開していきたいですね」
2014年までには、魚専門業態をさらにもう1店舗出店する予定だ。
「儲けようとは、思わないんですね。数字を追いかけだしたら、自分たちらしさが失われてしまうと思います。うち、原価率高いんです。品質には手を抜けませんから。だから利益は少ない。それでも毎年ちゃんと昇給し、ボーナスも出せて、年に1回みんなで研修旅行へ行って、楽しくやっていければ、それで十分じゃないかって思うんですよ。お客さまに喜んでいただき、スタッフが幸せに暮らせる。私の仕事はそこを支えつづけることかもしれません」
魚まみれ 眞吉 宮益坂店
住 所:東京都渋谷区渋谷1-10-12 1F
電 話:03-6418-8318
定休日:年中無休
時 間:月~土 17:30~翌1:00
日・祝 16:00~24:00
交 通:各線渋谷駅徒歩7分
文:高木 正人 写真:ボクダ 茂
2013年06月20日 掲載