独立希望者必見!個人店オーナーからの熱いメッセージ
トラットリア M’s
代表取締役 三井光秀
お客様もスタッフも、一期一会です。
三井光秀(Mitsuhide Mitsui)
1968年、東京都生まれ。大学卒業後、証券会社に就職。営業マンとして4年半勤務した後、27才のときに「トラットリア M’s」をオープン。京急蒲田駅前で17年間営み、地域の人々に”お魚イタリアン”の店として親しまれる。昨年9月、JR蒲田駅からもほど近い現在の場所へと移転し、リニューアルオープンする。
2013年2月掲載
大陸や地球をイメージした店名への想い
昨年9月、「トラットリア M’s」は移転してリニューアルオープンを果たした。まずは、新店について代表取締役の三井氏にうかがった。 「基本的な店のコンセプトは変わっていません。お客様に安心感を与えられるよう、以前の雰囲気を残しています。椅子などのインテリアや壁の色合いも同じにして、前の店の写真を飾っているんですよ。お客様に『変わらないね』と言っていただける店づくりを目指しました」
同店は京急蒲田駅前で17年、地元の人々から”街のイタリアン”として親しまれてきた。今回の移転は地域の再開発により、余儀なくされたもの。リニューアルした店内は明るく活気にあふれながら、ほっと落ち着ける心地良さが共存している。 「JRの駅にも近くなって商圏が拡大し、客層も広がりました。お魚の美味しいイタリアンという店は、このあたりでは他に見かけませんから」
三井氏は魚の伝道師とも呼ばれる”おさかなマイスターアドバイザー”の資格を取得している。自ら市場で買い付けるという新鮮な魚介を目当てに訪れるお客様も多い。この日も平日の午後とあって、ランチをゆったりと楽しむ大勢の女性たちでにぎわっていた。 「オープン当初、京急蒲田というのは工場地帯で、おじさんの街だったんですよ。街を歩いていても男の人が本当に多くて、女性は20%くらいの比率しかない。その2割の女性をすべて自分のお客様にしようと考えて、この店を立ち上げました」
女性客がすっと入れるカジュアルなイタリアン。”M’s”と店名にイニシャルを入れたのも、友達の家に遊びに行くような感覚で利用してもらいたいという思いがこめられている。 「コンセプトを固めるために、商店街で女性に声をかけて、アンケートをとりました。紙に書くのではなく、座談会形式で集まってもらって『蒲田の街にどんなものがほしいですか』と直接聞きとったんですよ」
生の声を吸い上げて、店づくりに反映させていく。並外れた三井氏の行動力には、飲食業界では異色の経歴が関わっているのかもしれない。
プロとしての意識を持って
お客様と対等の目線で接する
飲食の経験は学生時代のアルバイト程度、前職は証券会社の営業という三井氏はどのようないきさつからトラットリアを経営することになったのだろうか。 「19才のときに他界した父は商売人だったんです。飲食店をメインにカラオケ店なども経営していました。親父のあとをおふくろが引き継いでいましたが、いずれは自分が継がなければと思っていました。もともと、飲食の仕事に興味がありましたし」
世間一般からみれば、恵まれたスタート。しかし、それがかえってコンプレックスのタネになったという。 「周りはそういう目で見ますからね。親から譲り受けるものがあったからできたんだと言われたくない。意地になって、一から勉強しました」
事業計画の策定も容易ではない。そこで、三井氏は持ち前の行動力で複数のフランチャィズ本部に直接出向き、事業計画書の提出を求めた。それを参考に数字を立て、経営の道すじを見極めるためだった。 「その中に、昼はカフェで夜はバーという二毛作の業態の店がありました。おもしろいなと取り入れて、最初は朝7時から夕方まではカフェ、5時からイタリアンの店にしていたんですよ。年中無休で朝から晩まで、1ヶ月で15キロやせました(笑)」
開店を知らせるポスティングの効果もあって、オープン当初はごった返しの状態。ところが、3ヶ月ほどで落ちつくと、計画より売上が低めで推移するようになっていった。 「経営が安定し始めのは3、4年目。実感としてプロとしての意識が強くなったのは8年目くらいですね。誠意を持ってお客様に応対さえしていればいいと思っていたのが、そうじゃないと気づきました。プロとしての意識を持つには、お客様と対等の目線で接することができなければ。そのためには、料理に関する知識が誰よりもなければいけませんし、お子さんからお年寄りまであらゆる世代の方にアジャストできる知識を持っていなければなりません」
その頃から、三井氏は市場に通い始めた。自分で目利きして交渉し、より良いものをより低価格で、お客様に提供するためである。このときのプロ意識の目覚めが現在の繁盛店の基盤になっているにちがいない。
三井氏が考える経営三箇条
01 一期一会を大切にする
02 “食”の感性を豊かにする
03 納得できるものをお客様に提供する
「M’sありき」と言われるようなお客様もスタッフも集まる店に
女性客から徐々に評判が広がり、今では20代から上は90代まで老若男女、幅広い層の人々が集う店に。中には、車いすで来店する高齢のお客様もいらっしゃるとか。 「夜は、とくにおじさんばっかり。常連の方は親父のような感覚で接してくださいます。なぜか自分がミスをして、落ち込んでいるようなときに限って来られるんですよね。顔色を見て『大丈夫か』と声をかけてくれたり、ときには叱ってくれたり」
数々のお客様との出会いこそが飲食の仕事の醍醐味と、三井氏は語る。そして、忘れてはならないのがスタッフとの出会い。シェフの宮下尚氏は立ち上げ時からのメンバーであり、右腕ともいえる存在である。 「最初は、ムカついてならない存在だったんですよ。彼はフレンチ出身でイタリアンも長く経験してきて、全部知っていましたから。何か言われるわけでもないけれど、オープンキッチンの向こうから、いつも見張られているような気がしてね(笑)。それが10何年も一緒に仕事をすることになるとは、不思議ですよね」
職人気質のシェフは三井氏の4才上。今でも、ふたりの間の会話は敬語だというが、そこには揺るぎない信頼関係が築かれているようだ。 「これからも、人が集まる店にしたいですね。蒲田では認知される店になってきましたが、もっと広い範囲で認められる店にしていきたい。そして、お客様はもちろん『あの店で働きたい』と言われるようなスタッフの集まる店にするのが目標です。お客様もスタッフも一期一会ですからね。そのためにも、日々進化していかなければと考えています」
トラットリア M’s
住 所:東京都大田区蒲田5-28-18 京急exインB1F
電 話:03-3735-8405
時 間:11:30~15:30(L.O.)/16:00~24:00(L.O.)
※日曜日・祝日は~22:00(L.O.)
定休日:不定休
交 通:京浜急行線「京急蒲田駅」西口徒歩5分、JR「蒲田駅」東口徒歩5分
文:西田 知子 写真:ボクダ茂
2013年02月21日 掲載