独立希望者必見!個人店オーナーからの熱いメッセージ
銀座 ラ トゥール
オーナーシェフ 清水忠明
コンセプトは「また来ていただく」。シンプルで一番難しいテーマです。
清水忠明(Tadaaki Shimizu)
1956年、東京都生まれ。18才でフランス料理の道に入り、単身フランスに渡る。25才の時に「ラトゥールダルジャン」に入店。ドミニク・ブーシェ総料理長の下、厳しい修業時代を経て26才でソース担当に抜擢される。神楽坂・千駄ヶ谷での店舗経営を経て、2006年「銀座 ラトゥール」をオープン。
2012年11月掲載
新しいチャレンジ「低糖質メニュー」への道のり
ウェイティングバーのカウンター、磨かれたワイングラスやボトル群の中で、青銅でつくられた螺旋階段のオブジェがひときわ目についた。階段のステップが上へ上へと積み上がり、中空で余韻を残したままオブジェは完結している。終わりなき螺旋階段──。欧州の骨董店で買い付け、その後「ラ トゥール(=塔)」のロゴになったそのデザインは、オーナーシェフ清水氏の「常に上をめざす姿勢」をカタチにしたもののように映る。
その終わりなきチャレンジ精神から誕生した、新しい解釈によるフレンチの提案が「低糖質メニュー」である。
きっかけは、北里大学北里研究所病院の糖尿病センター長、山田 悟先生との出会いだった。 「低糖質メニューを開発するパートナーを探していると、ファクスをいただいたんです。でも『うちはやりません』とすぐに返信しました(笑)。だいたい、低糖質メニューという言葉そのものも知りませんでしたからね。ただ、そのあとすぐに、お客様の方から貸切パーティの予約をいただいたときに、食事制限のあるゲストがいるので低糖質メニューはできないか、と問い合わせをいただいたんです。それで、山田先生にメニュー開発のための食材リストをお送りくださいと慌ててお願いして。それがきっかけでした」
送られてきたリストには「低糖質メニュー」開発のために、注意が必要な食材、推奨しない食材がずらりと並んでいた。
玉ねぎ、人参、ピーマン、レモン…等々。普段、なにげなく使っていた食材の多くが、リストに入っていた。 「驚きましたね。ただ、このリストをもとに、私自身試してみたんです。大好きな缶コーヒーもやめてね(笑)。すると、日を追うごとに数値となって表われて、2週間で8キロも痩せたんです。テニスをするときの体も軽い(笑)。それで、山田先生に監修をお願いをしまして、本格的なメニュー開発に取り組みはじめたわけです」
アンテナを立て、足を使い
アタマをフル回転させる
清水氏は、街を歩いたり、デパートの売り場を見てまわることが好きだ。そこで季節の移ろいを感じ、人々の嗜好の変化をキャッチし、ときには料理のインスピレーションを得ることもある。 「いつも、できるだけ広く情報をキャッチできるようなアンテナを意識的に立てています。アンテナは立てているだけではダメで、やはりこちらから足を使ってそこに行かないと情報をキャッチすることはできない。『低糖質メニュー』をつくるようになって、これまで以上に生産者の皆さんとお会いするようにしています。11月の『低糖質メニュー』で使う食材を実際にこの眼で見に行くために、今週は栃木県の生産者の方々とお会いしてきます。その次は、佐渡にも行く予定です」
アンテナと足だけではない。アタマもフル回転させる。「食材の栄養素を徹底的に見直すために、図書館にも通って勉強しています。これまで、色合いがいいからとか、美味しいから、といった理由で採用してきた食材ですが、低糖質メニューをつくる上では、それらの理由はもう使えないわけです。このひと皿にどうしても赤い野菜を添えたいと思っても、その食材自体がどういった栄養素をもっているのか、そして付け合せの食材と共に体内に入ったとき、糖質として蓄積しないかなど、あらゆる面での検証が必要なのです」
広範囲にアンテナを立て、全国の産地を歩き、日々勉強をつづける。その積み上げが6皿のコース料理でありながら糖質がわずか14グラム前後というメニューを生み出す。ワインを飲んでも一食あたり40グラム以下の糖質なのだ。
糖尿病による糖質制限のある人も、とくに問題ない人も、同じテーブルにつき、いっしょに食事ができる喜び。さらに、低カロリーメニューとは異なり、低糖質メニューではタンパク質や脂質の量を気にしないでもよいため、美味しいフレンチをお腹いっぱい楽しみながら、健康でいられる。そして明日から元気に仕事をし、大切な人が共に健康を維持できる、という意味では社会貢献ともいえるのではないだろうか。「フランス料理を通して、微力でもみなさまの健康づくりのお役に立てることができたら、それは何よりも光栄なことです」
清水氏が考えるオーナーシェフの心得
01 アンテナを立てる
02 美的感覚を磨く
03 日々、勉強
街の人から、「あの人は料理人だ」なんて思われたらダメ
これまで「美味しいから」や「料理に合うから」という理由でワインをセレクトしてきたソムリエも、「ラ トゥール」ではもうひとつ、低糖質というテーマで仕事をすることが求められている。
厨房では、若い料理人たちが清水氏の知識を吸収しようと、栄養素についての本や資料を積極的に借り、勉強しながら仕事をする。 「食材の栄養素を知ること、低糖質メニューの知識をもっていることを、ひとつの強みとして発揮できる日が来るかもしれないから、みんな一生懸命勉強していますよ。そう、自分の将来の独立のためにね」
さらに、若いスタッフたちに伝えていることのひとつに「ファッションセンスを磨け!」というテーマもある。 「街を歩いていて、あの人は料理人だなんて思われたらダメなんです。決して高価なものを身につけなくても、オシャレ感や清潔感を磨けることを知ってほしいですね」
終わりのない螺旋階段を店名ロゴのデザインモチーフにしている「ラ トゥール」。そのコンセプトは、「また来ていただけるレストラン」である。 「シンプルでありながら、これほど難しいハードルはないと思います。そこには空間やサービスや料理はもちろん、電話対応、清潔感、備品のセンス、それらすべてのバランスや表現力が関わっているからです。チーム全員の総合力で、このコンセプトを目指していきます」
銀座 ラ トゥール(GINZA LA TOUR)
住 所:東京都中央区銀座6-8-7 交詢ビル5F
電 話:03-3569-2211
定休日:月曜、第1火曜
時 間:ランチ 11:30~15:00 ディナー 18:00~23:00(火~土) 17:30~21:30(日・祝日)
交 通:地下鉄各線銀座駅徒歩5分
文:高木正人 写真:yama
2012年11月01日 掲載