独立希望者必見!個人店オーナーからの熱いメッセージ
からこま
斉藤和洋
お客様とお店が入り混じって、お店の価値をつくる。
斉藤和洋(Kazuhiro Saito)
1962年、東京都生まれ。新橋の料亭での修業を5年、レストランなどで店長職を27才まで経験後、28才で喫茶店のオーナーとして独立。和食、エスニック、無国籍料理など、8店舗まで拡大。石垣島に2度滞在し、フレンチレストランのオープニングや特産品づくりに携わる。2011年10月から東京で物件探しをはじめ、2012年1月、六本木に「からこま」をオープン。
2012年7月掲載
45才まで経営者として活動。そして、充電期間へ
2012年1月に六本木にオープンし、はやくも繁盛店になっている「からこま」。店主の斉藤氏は以前、8店舗もの飲食店を展開していた経営者だった。
渋谷、代官山、大井町といった立地で和食、無国籍料理、エスニック料理、居酒屋など、さまざまな業態を軌道に乗せ、総勢100名ものスタッフを雇っていたが、ある時期その事業をすべて整理することにした。なぜか──。
「はじめのうちは、自らキッチンに立って、お客様とお話ししたり、料理を楽しんでくださる姿を見ることができていたんですね。それが経営者として切り盛りする立場になると、キッチンを人に任せ、私は部屋でひとりパソコン仕事をしたり(笑)。『おれはいったい何をやっているんだろう?』って思うようになったんです。料理が好きで、お客様の楽しんでいる表情を見るのが好きでこの仕事をはじめたのに、ぜんぜん違うことをしている自分がいやになってしまったんですね。それで石垣島に行ったんです」
知人の依頼で、沖縄の石垣島でフレンチレストランのオープニングに携わることに。島の若者たちをスタッフとして起用し、観光客ではなく地元に愛されるレストランをつくり、約1年で実績を残した。
「石垣牛の生産者など、さまざまな人と出会えたのがよかったですね。人とのつながりは財産ですから。それで、オープニングをお手伝いするという当初の目標は達成したので、一度東京へ帰りました。そうすると、また石垣島の知り合いから声がかかったんです」
お惣菜を中心にした特産品の開発をしてほしいと依頼されたのだ。斉藤氏は、天然素材による健康にいい惣菜づくりに着手。このとき、食の量産体制について貴重な経験をする。
「経営者を辞めてから東京でのんびり充電したり、その後石垣島で仕事をしながらも、ひとつだけつづけていたことがあります。それは、ジョギングなどの体力づくりです。飲食に携わる人は、静養中だからといって体力を落としたら、次に仕事をはじめたときにいい仕事ができません。信号が青になったらすぐ走りだせるランナーのように、体力のコンディション維持はきちんとやっていましたよ」
手元まで見えるオープンキッチン
嘘のない仕事がしたいから
六本木、東京ミッドタウンからほど近い物件が空き、いよいよ斉藤氏の次のステージの幕が上がった。スケルトンにしてから立ち上げた店内は、斉藤氏の仕事に対する想いがそのまま表現されている。
それは、嘘のない飲食店の姿だ。 「テーブルからも、もちろんカウンターからも、キッチンの床までまる見えにしたんです。焼き場の奥まで目隠しせず、棚や冷蔵庫も、スタッフの手元まですべて見える環境。そのなかで、できるだけリーズナブルに和食を楽しめる店をつくりたかったんです」
青森や北海道の漁港から、その日の朝水揚げされた鮮度抜群の魚介が届き、さっそくディナーで極上の刺身や魚料理となる。取材で伺った日も、ソイ、メバル、ヒラマサ、牡蠣、大粒のしじみが到着していた。石垣島時代にお世話になった生産者からは石垣牛を仕入れている。
金沢出身の画家、古澤洋子氏の大きな絵が飾られ、バランスよく新旧のジャズがかかる店内。ランチもスタートし、初日から大賑わいとなった。カウンターキッチンの正面に立つのは、もちろん斉藤氏だ。
経営者でありながら、ひとりの料理人として、水を得た魚のようにのびのびと仕事をしている斉藤氏を囲むように、若いスタッフたちがてきぱきと仕事をこなしているのが、どの席からも見える。オープンで嘘のない仕事ぶりが、「からこま」の心地よい空気感となって漂う。
斉藤氏が考える店主の心得
01 何事も正直に
02 体力のコンディション維持
03 向上心を持ち続ける
これまでの経験、実績を活かし、まだまだチャレンジ!
石垣島で惣菜の特産品づくりにチャレンジした経験を活かし、オリジナルの惣菜や調味料を、「からこま」ブランドとして販売するという、新しいビジネスも進行中である。
惣菜や調味料づくりに携わったときも、将来の自分の仕事につながるものとして、ラインづくり、量産体制づくりを学び、自分のものへと吸収していった。その向上心や探究心が、東京に戻ったいま、新規事業として開花しようとしているのだ。 「店舗というより、外部に工場のような体制をつくるわけですから、その環境に従事するスタッフはお客様の顔が見えないわけです。そこで楽しみをもってもらうために『料理教室』を開催して、人と接する機会をつくることも考えています」と、いつでもスタッフとお客様との距離感や関係性を重視する。
「お客様の求めるものとお店側のやりたいこと。このふたつが時間をかけて融合しあい、カタチになっていくのが飲食店だと思っています。その過程こそが店づくりの醍醐味ではないでしょうか。ですから、店のオープンのときも、知り合いのスタッフに声をかけるだけで、メディアを使ってオープニングスタッフを募集することはしませんでした。それは、面接時はまだお客様が見えていないわけで、はっきりとうちはこういうコンセプトでこんな料理を出す店だと説明できないからなんですね」。
オープン時は、少し肩のチカラが入りすぎ、気合いと緊張感のあるメニューが多かったという。そして実際にオープンして、お客様の様子を察知したり、コミュニケーションを交わすうちに、徐々に今のメニューへと進化してきた。 「暖簾を掲げて、最初の3ヶ月は模索をつづけました。オープン当初からのコンセプトは変わらないのですが、料理の幅は広がったと思います。お客様とお店が融合し、お店の価値をつくる。そういう店づくりを心がけてきたんです」と言いながら、直送の新鮮な魚介類の仕込みを始めた斉藤氏──。
「もっとも、お客様が見える場所に立つからこそ、やるべき方向性も見えてくるのだと思います。やはり現場は楽しいですね!(笑)」
からこま
住 所:東京都港区六本木7-9-2 岡野ビル1F
電 話:03-6447-0299
定休日:日曜日
時 間:ランチ(月~金)/11:30~13:30
ディナー/17:30~23:30 土曜日/17:30~23:30
交 通:地下鉄各線六本木駅徒歩3分
文:高木正人 写真:yama
2012年07月05日 掲載