独立希望者必見!個人店オーナーからの熱いメッセージ
やきとり まるま
店主 田名網 久之
料理が旨いのは当たり前。美味しい店より、楽しい店。
田名網 久之(hisayuki tanaami)
1979年、東京都生まれ。21才のとき、イタリアンレストランでアルバイトを始めたことから飲食の世界へ。フランス料理店等で経験を積んだ後、カリフォルニア料理「フミーズグリル」でシェフを務める。昨年8月、独立を果たし、「やきとり まるま」をオープンする。
2011年6月掲載
飲食系の仕事しか道はない。他に知らない分、迷いがなかった
JR十条駅前から伸びるアーケードの商店街から脇道を入ったところ、大きな赤提灯が目に飛び込んでくる。藍色の暖簾に丸囲みで”真”の一文字。そこが焼き鳥の「まるま」。連日、大入り満員が続く評判の店だ。 「オープン初日から満席になっちゃって、一度も赤字になったことがないんですよ」
店主の田名網氏が、さらりと言ってのける。今般の大震災で飲食店への客足がますます遠のき、業界全体が大打撃を受けるなか、この店だけは別の次元を進んでいるかのようだ。
取材に訪れたのは定休の火曜日。人けのない店内には、なおも昨夜の熱気の余韻がたゆたっていた。
「長く続けられるようにという思いもこめて、老舗っぽい雰囲気にしたかった」と語る。そのイメージどおり、ほんの半年ほど前に開いたとは思えない、おしゃれで清潔感がありながら、ほっと落ち着ける空間。町並みにもしっくりととけ込む繁盛店は、いかにつくられたのかー。「”本当のこと”を言ったほうがいいんですかね?(笑)」
そんな会話からインタビューは始まった。田名網氏が飲食の世界に飛び込んだのは21才。イタリアンレストランのアルバイトが最初だった。 「僕の場合、学校にほとんど行っていなかったので、ガテン系か飲食系のどっちかしか道がなかった。これしか知らない。余計な知識がない分、迷いがなかったんだと思います」
イタリアンからフレンチ、そしてカリフォルニアキュイジーヌへとジャンルを変え、場を移りながらも、ひたむきにこの道を突き進んできた。それらの経験はすべて糧となっているが、とりわけシェフを務めた5年間に得たものは大きいという。 「アルバイトで入って半年でいきなりシェフとして店を任され、お金の計算ができなくて大変でした。それまでは美味しければ高く売れるものと考えていました。でも、シェフが自分のエゴだけで料理をつくると、思うように売上が伸びない。ビジネスとして、利益を出すことをシビアに考えるようになりました」
こうした店全体のトータルバランスに重きを置く姿勢は、現在の「まるま」の経営にも貫かれている。
良質な素材の仕入れ先を確保景気に左右されない焼き鳥を選ぶ
2010年8月のオープンから、半年以上が過ぎた。「あれよ、あれよという間にここまで来た」と、田名網氏は振り返る。売上に関しては、順調すぎるほど好調に推移してきた。
無論、立ち上げの苦労がまったくなかったわけではない。当初、別の場所を予定していて、設計業者まで手配済みだったのに、直前になって断られるというトラブルも。「また、どこかで働くかな?」と、独立をあきらめかけたときもあったという。
店舗展開への課題は人材育成
大きな目標に向けて快進撃は続く
店舗展開への課題は人材育成大きな目標に向けて快進撃は続く
楽しい店をつくり上げるには、接客が第一。学生にカップル、年金暮らしのお年寄りまで、地域に密着した「まるま」の客層は幅広い。その一人ひとりにどう楽しんでもらうかを田名網氏は常に意識している。 「外で看板を眺めている方には『いらっしゃいませ』と声をかけますし、お会計の後はスタッフの誰かがドアの外までお見送りします。お客様の名前を覚えることも大切。謙虚な態度で接しながらも、少しずつ距離を縮めるように心がけています」
とはいえ、経験の浅いスタッフは思うようにお客様とコミュニケーションできない場合も。そんな際には、必ず具体的なアドバイスをする。気がつけば、朝方まで話し込んでいたということも少なくないとか。 「みんなが熱くなれるのは、”大入り” が欲しいというのもあります。目標金額を達成すれば、大入り手当を出すようにしているんですよ」
人財には給料で還元ー。この考え方は、田名網氏のビジョンにも反映されている。次の課題は人材を育成することだ。
「何年か一緒に働いてくれた人には、あとはこのやり方で続ければいいという状態にして店を買ってもらえるようにしたい。自分で店をやらないと儲からないのを知っているから、皆に儲けてもらいたいんです。そうして店を増やしていきたいですね」
現在、当初1号店の候補地だった場所での出店も計画中とのこと。「目標は100店舗!」という大きな目標に向けて、田名網氏の快進撃はまだまだ続いていくに違いない。
田名網氏が考える店主の心得
01 謙虚な姿勢を忘れない
02 スタッフのやる気を引き出す
03 お客様への挨拶を大切に
さらには、店の看板となる焼き鳥に関してはほぼ未経験。これまで主に洋食系レストランで腕を奮ってきたが、炭火を扱うのも初めてとのこと。これこそ、田名網氏が一瞬言いよどんだ”本当のこと”に他ならない。
では、なぜ敢えて新たな挑戦となる焼き鳥を選んだのだろうか。 「長くできる商売、定着するものと考えれば、やっぱり和食なんです。レストランは景気に左右されやすいですから。良いときと悪いときの境目を見てきて、これはまずいなと気がついた。だから、焼き鳥を選びました。でも、お客様には『10年間焼き鳥屋をやってきた』なんて、いつも言っているんですけれどね(笑)」
ジャンルこそ違え、今までの経験が活かせるのに変わりはない。また、年月をかけて築いてきた人脈により良質な素材を安価で仕入れるルートを確保できたことも大きかった。 「そんなに難しいことじゃない。いいものを使っているから、まずくならないんですよ。もちろん、オープンしたばかりの頃より、今の方が美味しくなっているとは思いますが」
料理畑ひと筋に進んできた田名網氏である。「仕事のやりがいを感じる瞬間は?」の質問には、「お客様に『美味しい』と言われたとき」。「不況をものともしない、この快進撃の秘けつは?」に対しては、「周りの店より美味しいです」と、きっぱり断言する。それでも、オーナーとなった今は料理以上に気を遣い、心を配っていることがあるという。 「美味しいものをつくれるのは当たり前。その前提で、店を出したのですから。お金さえかければ、料理はいくらでも旨くなる。まずは儲かる仕組みを考えてから、味を追求すればいいでしょう。目指すのは、美味しい店より楽しい店です」
やきとり まるま
住 所:東京都北区十条仲原1-4-4 柴田マンション1F
電 話:03-5948-9197
定休日:火曜日
時 間:月・水~土/18:00~翌2:00(L.O.翌1:00)
日祝/16:30~翌2:00(L.O.翌1:00)
交 通:JR十条駅徒歩5分
文:西田 知子 写真:yama
2011年05月19日 掲載