独立希望者必見!個人店オーナーからの熱いメッセージ
焼鳥 はちまん
店主 安井 章人
鶏一羽を解体するのにも愛情をこめて、食べてくれるお客様の顔を思い浮かべます。
安井 章人(Akito Yasui)
1971年、東京都生まれ。実家は明治創業の老舗の江戸前鮨店「八幡鮨」。その手伝いをするうちに、自然に飲食の仕事を志す。調理専門学校を卒業後、駒込、新橋の焼鳥店で4年間修業。1995年9月、「焼鳥 はちまん」をオープンする。
2016年1月掲載
鶏はもちろん炭、塩、わさびと小さなこだわりを大切にする
早稲田の地に20年。老舗の有名店「焼鳥 はちまん」は多くの人々に愛されながら、業界内でも高い評価を受け続けている。店主の安井氏の語るルーツは、さらに明治にまで遡る。
「早稲田には穴八幡宮という古い神社があって、その前に『はちまんや』という団子屋さんを開いたのが明治元年のことです。焼鳥のつくねも団子と呼びますよね。”団子つながり”で、この店名に決めました」
その後、今も受け継がれる江戸前鮨の名店「八幡鮨」を開業。実家の手伝いをしながら育ってきた安井氏が、飲食の道に進んだのは自然な流れだった。調理専門学校を卒業後、駒込の焼鳥店で修業を始める。
「鮨は兄が継ぐので、大好きな焼鳥にしようと思いました。自分で実際に食べに行って、美味しいと思った店を修業先に選びました。生まれ育った土壌もあるのかもしれませんが、修業をつらいと思うことはなかったですね。将来、独立したいという同じ目標を持つ人たちが集まっていたので、今ではみんな自分の店を持つ仲間との結びつきができました」
1年後、新橋の有名店に転職。さらに3年の修業を積み、現在もなお貫かれる焼鳥の極意を授けられた。
「独立前に、店主から『塩とわさび、そして炭にこだわりなさい。炭にこだわれば失敗しないよ』と言われました。その教えを守り続けています」
塩やわさびなど調味料の大切さは何となく想像もつくが、炭へのこだわりとなると素人にはわかりかねる。そこを尋ねると、安井氏は笑顔を交えて、こんなふうに説明してくれた。
「同じ備長炭でもいろいろな種類があります。いい炭でいい状態をつくれば、ここにいる誰が焼いても美味しくできるでしょう。もちろん鶏は大事ですが、ブロイラーをいい炭で焼いたほうが地鶏を変な炭で焼くよりよほど美味しいものになる。それくらい炭によって違うし、それくらい炭は大事なものなんです」
炭、塩、わさびをはじめ、小さなこだわりを大切にという基盤となるコンセプトは定まった。1995年、「八幡鮨」の移転を機に、その地階に「焼鳥 はちまん」をオープン。弱冠24才の店主が誕生した。
蔵元の人の一生懸命な姿に共感
愛情をこめることが一番大事
スタートにこそ恵まれたものの、店はそのまま順風満帆というわけにはいかなかった。「安定に3年、先が見えるには5年」の歳月を要した。
「本当はもっと修業をして、仕事を覚えてから独立するべきだったのかもしれません。でも、当時の自分は根拠のない自信があって、できると思い込んでいました。最初に苦労したのはアルバイトへの指導の仕方です。仕事に興味を持ってもらう教え方ができず、すぐに辞められてしまいました。店主としての接客もなかなか板につきません。若過ぎるのでバカにされてはいけないと構えてしまっていたからです。まずは格好から入ろうと、髭を生やしてみたりもしました。浅はかですよね(笑)」
振り返れば「右も左もわからないほど未熟だった」という若き店主が気づきを得るのは、5、6年過ぎた頃。ようやく経営が安定し、口コミが広がり、お客様が増え始めていた。
「初めは焼鳥だけが重要だと思って、そこにしかこだわってきませんでした。ところが、お客様は接客やドリンクも含めて総合的なところで満足してくださっている。いろいろな要素があっての店だということがやっとわかりました。頑固にならず、良い方向に修正しようと考えました」
開店から10年を経て、さらに次のステージへと飛躍するための手がかりをつかむ。蔵元の人と直接触れ合い、深い共感を覚えたのだ。
「蔵元の人たちが命がけでつくっている姿を見て、そのお酒を引き継いでお客様に提供する責任を感じました。あの人たちはここまで一生懸命にやっているんだから、自分ももっと一生懸命にならないといけない。お酒に負けないだけの料理をつくらなければと思いました」
メニューや価格などを見直したわけではない。ただ、自分の心の有り様ひとつでお客様の反応が変わった。いつしか、連日予約で満杯の人気店へと成長を遂げていった。
「愛情をこめる、それが一番大事なところです。鶏を一羽解体するのにも、誰が食べてくれるのかな、どうすれば美味しく提供できるだろうとお客様の顔を思い浮かべるんですよ」
安井氏が考える店主としての心得
01 お客様を笑顔にする
02 楽しく働ける環境づくり
03 生産者との顔が見えるおつき合い
“本物の焼鳥”の美味しさを発信 人と人とのつながりを広げたい
これまで「焼鳥 はちまん」では、2名の独立者輩出という実績がある。安井氏の採用方針は明確だ。
「独立心を持っていない人はダメです。この仕事をやるからには、第一にそこを目指してほしいですね。面接では、『独立志望でなければ雇わない』という話を必ずしています。実は、そういう人はいずれ辞めてしまうのですから、店にとってはマイナスでもあります。それでも、その分を差し引いたとしても自分の目指しているものがある人はクオリティが高い。同じ志を持って、働くことができるんです」
スタッフ一人ひとりが夢を抱いて働くための環境づくりが今後の課題。そのためにも、主体性を尊重し、自分たちで考えて仕事ができる職場にしたいと安井氏は語る。
「焼鳥の一番の魅力はみんなが好きなところ。嫌いという人はあまり聞きません。ただし焼鳥といえばピンキリで、スーパーなどで売っているのも焼鳥です。まずは、こういう美味しいものがあるんだよということを知ってもらいたいですね」
ここ、早稲田から”本物の焼鳥”の美味しさを発信。これからも独立者を続々と世に送り出しながら、焼鳥を心から愛する人たちの輪は大きく広がっていくにちがいない。
「原点であるこの地に骨を埋める覚悟で、店を続けていくことが今の目標です。そして、人とのつながりを増やしたい。店というのはひとりではできないもの。たとえば、調味料をつくってくれる人たちとも仲良くなりたいですね。お客様ともスタッフとも、独立した人たちともつながっていけるでしょう。これからも、もっともっと人とのつながりを大切にしていきたいと思います」
焼鳥 はちまん
住 所:東京都新宿区西早稲田3-1-1 B1F
電 話:03-3203-2880
時 間:【平日】17:30~24:00
【土曜】17:30~23:30
【祝日】17:30~23:00
定休日:日曜日、祝日の月曜日
交 通:地下鉄東西線「早稲田駅」徒歩7分
文:西田 知子 写真:yama
2016年01月07日 掲載