独立希望者必見!個人店オーナーからの熱いメッセージ
Gaucher(ゴーシェ)
オーナーシェフ 齋藤 勉
お客様に喜んで頂くために 感謝と謙虚さを忘れない
齋藤 勉(Tsutomu Saitou)
1977年生まれ。専門学校卒業後、フレンチ・レストラン「エヴァンタイユ」にて勤務。その後フランスのリヨン、バスク地方のレストランで修業し、帰国。横浜の「リパイユ」にて5年間、シェフとして勤務。2014年、六本木にフレンチ・レストラン「ゴーシェ」をオープン。
2018年12月掲載
「35才で独立」を目標に これからすべきことを逆算した
六本木にあるフレンチ・レストラン「ゴーシェ」。2014年のオープン以来、数々のメディアやグルメサイトで絶賛され、ミシュランに並ぶ世界的美食本「ゴ・エ・ミヨ」にも掲載される人気店だ。
人気の理由は一つではない。オーナーの齋藤氏が国内外で腕を磨いてきた料理の味、カラフルで美しいプレゼンテーション、そしてボリュームたっぷりのポーションと、リーズナブルな価格…それらは齋藤氏の溢れるサービス精神から生まれている。 「どうしても『足りなかったら嫌だな』と思っちゃうんです(笑)。お客様にはご満足いただきたいので、量が足りなかったら嫌だなと。修業時代から、厨房から客席の様子を見て、だんだん量を多くしてきたのですが、今度は食べきれないというお客様もいて。ちょうどいい量というのが、難しいですね」
齋藤氏は、専門学校卒業後、19才で料理の道に入った。その頃から、いずれは独立することを目標にしていたという。 「35才で店を持ちたいと思っていたので、逆算して20代からやるべきことを具体的に挙げていきました。『シェフの修業をしないといけない』とか、『フランスでの修業経験もないといけない』とか。それにしたがって、一つひとつ経験を積んできました」
最初に入ったフレンチ・レストランで、10年ほど修業を積んだ。その後渡仏し、リヨンとバスク地方の星つきレストランで3ヶ月ずつ働いた。 「フランスで修業した2つの店は、日仏料理協会からご紹介いただきました。『そろそろフランスに行かなきゃ』と思っていたころ協会の存在を知り、いろいろとお世話になったんです。フランス語を習ったり、独立に向けたアドバイスをいただいたり。帰国後は、横浜にあるフレンチ・レストラン『リパイユ』でシェフとして働かせていただいたのですが、それも協会の方が『経営のことを勉強させてもらえるから』と紹介してくださいました」
リパイユでは5年間、シェフを務めた。当初は3年間働いて、その後独立するつもりだった。3年後に、ちょうど35才になるからだ。 「リパイユでの経験は、学べることがとても多く、もう少しここで勉強したいなと思うようになっていました。ちょうどその頃、2号店出店のお話もあり、立ち上げを手伝いながら、さらに2年、お世話になりました」
料理だけに集中してはいられない
経営者としての葛藤は続く
齋藤氏は37才になった2014年、六本木に「ゴーシェ」をオープンした。この4年間で、店の評判は着実に広がり、お客様も増え続けている。自身の夢を着実に実現し、順風満帆に見える齋藤氏だが――。 「いやいや、全然ですね。修業時代は、経営についてできるだけ具体的に、現実的に考えてきたつもりです。でも実際に店を持つと、想像していなかったことが次々起こり、その対応をしないといけません。結果、料理に集中できる時間が減り、下手すると経営6割、料理4割というときもあるくらい。『もっと料理に集中したいけど、できない』という葛藤は、正直なところ、今もあります。常に手探り状態ですね。ただ、この状態は今後も続いていくと思うので、自分が慣れるしかないと思っています」
齋藤氏が直面する葛藤は、店の人気の理由でもある「ポーションと価格」にもあるという。 「私自身は、お客様に喜んでいただきたくて今の価格にしているんです。お客様にも基本的には受けがよく、『こんなに美味しいのに量もあって、そのうえリーズナブル』と雑誌やネットで紹介され、週末には遠方からいらっしゃるお客様も少なくありません。ただ、六本木という場所柄、それだとちょっとカジュアルすぎてしまうのかな、という気もしています。当店を記念日のディナーや接待に使ってくださるお客様も多いので、もう少し価格設定を上げたコースをご用意したほうがいいのかもしれないな、と。『特別な価格』にも価値があることを、今すごく感じています。物の価値というのは、難しいですね」
齋藤氏が考えるオーナーシェフとしての心得
01 厨房の雰囲気はお客様にも伝わる。働きやすい環境づくりを
02 お客様には料理、空間のトータルで楽しんでいただく
03 調子にのったら終わり。いつでも謙虚さを忘れないこと
経営には必ず波がある。 どんなときも謙虚な心でいること
齋藤氏に、経営する際に大切にしていることを聞いた。 「一番大事にしているのは働きやすい環境づくりです。常に真剣勝負なので、レストランは厨房・フロアともにピリピリしがちです。でも、それだと自分の意見を言いにくくなってしまうので、できるだけ楽しく、笑顔のある環境づくりを心がけています。冗談は自分から率先して言いますし、怒鳴って叱りつけることもない。『仏の齋藤』って感じですね(笑)」
お客様に対しては、料理の味はもちろんのこと、見た目や空間などトータルで楽しんでいただける店づくりを心がけている。最近ではその特別な空間をリアルに伝えるために「ゴーシェ」の紹介動画を作成し、Youtubeで配信もしている。 「近ごろは『2色で決める』といったモダンなプレゼンが流行っているけど、私にはできないみたいで(笑)、いろんな色を入れたくなるんです。でもお客様から『目でも楽しめたわ』と喜んでいただけることも多いので、やっててよかったなと思いますね」
ゴーシェの評判を上げているもうひとつの要因、それはマダムの存在だ。シェフ同様、サービス精神に溢れた接客で、多くのファンをもつ。 「妻には、経理などの裏方の仕事を引き受けてもらっています。妻がいなければ店は成り立ちません。時々接客もしてくれるのですが、お客様からとても人気なんですよ。本当に感謝しています」
感謝の心を忘れず、謙虚でい続けることは、経営を続けるうえで重要だという。 「修業時代、いろんな店を見てきて、つくづく感じたことがあります。それは、『店を続けられる人は、人間ができているな』ということ。店の経営は、調子がいいときも悪いときもある。でも、調子がいいときに天狗になってはいけないなと思うんです。まだ私は波にのっていないから天狗になりようもないけど、いつか経営が上向いたときでも、調子にのってはいけないなと自戒しています」
フランス料理 Gaucher(ゴーシェ)
住 所:東京都港区六本木3-4-33 B1F
電 話:03-6277-7160
定休日:日曜日・祝日・月曜日ランチタイム
時 間:月曜日 18:00~23:00(L.O.21:00)
火~土 12:00~15:00(L.O.14:00)
18:00~23:00(L.O.21:00)
交 通:地下鉄南北線「六本木一丁目駅」1番出口徒歩3分
文:瀬尾 ゆかり 写真:yama
2018年12月06日 掲載